役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

『あんた、私を疑っているの? これは私が別の人から〝似合いそうだから〟ともらったの。でも好みじゃないから、こうして再利用しているんじゃない。はぎれでいいならあげるけど、そこまでこの生地に思い入れがあるの?』

 その場に母が居合わせ、冷たい視線を送られた。

紫乃(しの)。みっともないから、人の物を欲しがるんじゃありません。まるでろくに着物を与えていないみたいじゃない』

 母に言われた言葉が胸を刺した。

(私、いつも地味で目立たない着物を着ているわ。華美な装いをしたい訳じゃないけれど、お友達やお姉様といる時、負い目を感じずに済みたいの)

 いつだったか、家族で外出した時に、両親の知り合いの女性と遭遇した。

 その時、彼女はなんの悪気もなく紫乃に向かって『女中さん』と言ったのだ。

(ああ、私は〝家族〟に見えないんだ)

 否が応でも事実を思い知らされ、つらくて堪らないのに、誰にどう訴えればいいのか分からない。

 結局、紫乃は誰にも気持ちを打ち明けられず、トキに励ましてもらったあと、粛々と日々を過ごした。

 つらい思い出から意識を引き戻し、目を開けると豪奢なバスルームが目に入る。

 繊細な装飾が施された色とりどりのタイルに、天井から下がる華奢な作りのランプ、周りには大勢のメイドがいて自分の世話を焼いてくれている。

「喉は乾いていませんか?」

 メイドの一人がにっこりと微笑み、冷たい水を差しだしてきた。

「……ありがとうございます」

 紫乃はこの状況に感謝しつつも、これもまた菖蒲(あやめ)のお下がりなのだと感じる。

(私が紫乃のままだったなら、隼人(はやと)様は私を求めない)

 それは、何よりも残酷な事実だった。





 湯浴みが終わったあと、紫乃はメイドの異能によって髪をサラサラに乾かされ、浴衣を着せられた。

 先ほどの部屋に戻ると、頃合いを聞かされていたのか、同じように浴衣を着た隼人がソファに座って待っていた。