役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

 翌日、紫乃(しの)(みぎわ)家の一行が帰っていくのを、屋敷の前で見送っていた。

「放置してもいいのに、君は義理堅いね」

 隼人(はやと)に言われ、彼女は微笑む。

「どんな仕打ちをされても家族だったと思います。……お父様やお母様は私を快く思っていなかったと思いますが、愛情はなくとも、学校に通わせてくれましたし、習い事もさせてくれました。……親としての責任はあったと信じたいです」

 すると、玄関の扉に寄りかかっていた琉王(るおう)が、自分の身を抱き締めてクネクネしつつ言った。

「あぁ~! さすがは私の妹や。尊すぎるし女神なんやないか?」

 そんな兄を無視し、輝更(きさら)が笑顔で言う。

「それはそうと、せっかく東京まで来たんやし姉上と一緒に観光したいです」

 紫乃は「それは名案ですね」と笑う。

「……っ、あぁ……、僕も姉上の微笑みが眩しくて、目が潰れてしまいそうや……」

 輝更が両手で顔を押さえて悶えると、横から(あおい)がスッと出て娘の腕を組んだ。

「そないに目が弱いなら、色眼鏡でも掛けたらどう? その間、お母様は愛娘と一緒にお買い物をして、湯水のようにお金を使って着せ替え人形をするさかい!」

 後ろから見守っていたメイドたちは、コソコソと話し合う。

「思っていたより紫乃様愛の強いご家族で驚いたけれど、これはこれで安心よねぇ」

 花鈴(かりん)が言い、ニコニコと笑う。

「そうそう。あんなに素直で可愛らしい方なんだから、これぐらい愛されて当然よ」

 和鼓(わこ)が同意し、何度も頷いてみせた。

「海外の童話でもあったわよね。血の繋がらない、意地悪な継母と姉にいびられていた少女が、王子様に見初められて幸せになる話」

 三琴(みこと)が童話を引き合いに出し、小笛が同意する。

「そうね。現実は鬼に脅かされ、狡くて汚い人たちばかりが得をする、嫌な世の中だわ。……でも誠実に生きている紫乃様みたいな人の周りには、本当の味方が現れるわ。長い目で見ると、そういう人が幸せになるのよ」

 メイドたちの話を聞き、今日もピチッと髪を整えた音更(おとふけ)が頷いた。

「わたくし達の使命は、三千風(みちかぜ)邸、そして旦那様、奥様になられる紫乃様をお守りする事。お屋敷に出入りする者に悪意があるか見極め、対処しなければなりません」

「あー、(かずら)さんの〝特製紅茶〟のくだりはスッキリした」

 花鈴が言い、残る三人がクスクス笑った。

「これ、お客さまの前ですよ」

 窘めながらも、音更の表情は緩んでいる。

「これから、わたくしたちはこの世で一番お似合いのご夫婦を見守り、支えてゆくのです。この光栄なお仕事に感謝しつつ、精進して参りましょう」

「はい!」