役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「そ……っ、そんなに持っているならよこしなさいよ! 実家が大変なの、分かっているでしょう!?」

 まさかそう言われると思わなかった紫乃(しの)は、呆気にとられて言葉を失う。

 その時、(あおい)がわざとらしく溜め息をついた。

「ろくでなしの娘は、ろくでなしなんやねぇ。うちとこの家が不利になった途端、妹やのに金の無心をしはるの? ……それで伯爵令嬢なんて名乗れるんかいな。恥を知りや」

 菖蒲(あやめ)はカッと赤面し、葵と紫乃を睨んで「嫌な親子!」と罵る。

 その時、隼人(はやと)がパンと手を打った。

「何はともあれ、当家は(みぎわ)家に対して十万円の請求をする。紫乃さんをもらい受ける条件として支援した金は差し上げるが、今後一切当家に関わらないでほしい。葵さんが言っている通り、あなたは紫乃さんを育てたとは言えない。妻となる女性を虐待していた父親を、支援するつもりはありません」

 それに続き、葵が言った。

「わたくしからも汀家に十万円……、あぁ、龍之介(りゅうのすけ)さんが出しはる一万円を引いて、九万円の請求をします。ええ息子さんを持たはりましたなぁ。それから今後一切、水流迫(つるざこ)家、上水流(かみずる)家に関わらんといてください。伊勢志摩地方が鬼の脅威を受けた時は、侯爵家として軍を派遣します。せやけど、それを当家の好意と勘違いしはっては困ります」

 がっくりとうなだれる高次(こうじ)を尻目に、隼人は会話を切り上げた。

「それでは私たちはこれで。これ以上気持ちの籠もらない謝罪をされても、不快ですので」

 彼は立ち上がると紫乃に手を差し伸べた。

「結婚式は、紫乃さんがまだ十七歳という事で、水流迫家の皆さんと話し合った結果、一年延期とする事にしました。一年後には盛大な結婚式を挙げるつもりでいますが、汀家の皆さんはご招待しません。そのおつもりで志摩へお帰りください」

「可愛い紫乃はわたくし達、水流迫家と親密に付き合っていきますさかい、もう関わらはらへんでくださいね」

 隼人と葵が言ったあと、紫乃は汀家の〝家族〟に向き直った。

「……十七年間、ありがとうございました。私はもう、汀紫乃としての自分を卒業します」

 そこまで言ったあと、彼女は葵が言った言葉を思い出した。

「置かれた場所で美しく咲いてみてください。それが私の最後の望みです」

 紫乃はペコリと頭を下げ、隼人に連れられて部屋を出て行った。

 葵、時子(ときこ)燕谷(つばたに)(かずら)も退室したあと、すべてを失った汀家の家族が残された。



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