「父上は紫乃に葵様を重ね、自分の意のままにならない女性への愛憎をぶつけ、母上は夫が浮気して作った子供を虐待した。……菖蒲は何も知らなかったとは言え、周囲がそうしていたから自分も妹を軽んじていいのだと思い込んだ。……私は傍観者を貫いたが、紫乃の味方にならなかったのは事実です。……今さら紫乃に兄と思ってほしいなど願っていませんし、落ちぶれた汀家のためにできるのは、長男として可能な限りの金を払い、あとはこの忌まわしい家から離れる事だと判断しました」
そこまで言い、龍之介は立ちあがって紫乃に向かって深く頭を下げた。
「紫乃、申し訳なかった。自分はお前に関わるべきではないと思い、優しい言葉一つ掛ける事ができなかった。……だがお前を憎んでいた訳ではない。それは信じてほしい」
「……はい」
兄の本心を聞き、紫乃はしっかりと頷いた。
「三千風侯爵閣下も、水流迫侯爵閣下にも、家族のしでかした事を長男としてお詫び申し上げます」
龍之介の謝罪を聞き、隼人は頷いた。
「貴殿の気持ち、しかと受け取った。もしも今後、東京に来るつもりがあるなら、一言知らせてほしい。軍に口利きするぐらいならしよう」
「ありがとうございます」
高次、寧々、菖蒲はその様子を呆然として見守っていたが、やがて菖蒲が「信じられない!」と叫んで立ちあがった。
「お兄様、長男のくせに『一抜けた』をして終わりにするつもり!? これは私たち汀家の問題よ!? 長男なのに家から逃げられると思っているの!?」
そんな妹の癇癪には慣れているのか、龍之介は顔色を変えずに言う。
「ならお前も、私財でもって両家に謝罪し、家から出たらどうだ? ……普段浪費ばかりしているから、手元には一銭も残っていまい。先の事を見通さずに目の前の享楽に耽るからだ」
「わ……っ、私ばっかり責めないでよ! 紫乃だって一文無しのくせに! 大富豪に嫁いでいい気になって!」
そう言われ、紫乃は小さく挙手して言った。
「わ……、私、少しですが貯金はあります」
「何ですって!? 幾らよ! あははっ、一円とか言うんじゃないの?」
「……少ないですが、……コツコツ貯めて、口座に三百円ぐらいは……」
今の金額にして約二百万円の金額を出され、菖蒲はあんぐりと口を開ける。
華族の令嬢は必要な時に都度親から金を出してもらうので、自分で私財を蓄える事はあまりないと言っていい。
持参金は数千円――今の金額にして数百万円から一千万円と言われ、それを含めたすべてが女性の持てる金額と言って良かった。
だから菖蒲は紫乃がそれだけの金を持っていると思わなかったのだ。
そこまで言い、龍之介は立ちあがって紫乃に向かって深く頭を下げた。
「紫乃、申し訳なかった。自分はお前に関わるべきではないと思い、優しい言葉一つ掛ける事ができなかった。……だがお前を憎んでいた訳ではない。それは信じてほしい」
「……はい」
兄の本心を聞き、紫乃はしっかりと頷いた。
「三千風侯爵閣下も、水流迫侯爵閣下にも、家族のしでかした事を長男としてお詫び申し上げます」
龍之介の謝罪を聞き、隼人は頷いた。
「貴殿の気持ち、しかと受け取った。もしも今後、東京に来るつもりがあるなら、一言知らせてほしい。軍に口利きするぐらいならしよう」
「ありがとうございます」
高次、寧々、菖蒲はその様子を呆然として見守っていたが、やがて菖蒲が「信じられない!」と叫んで立ちあがった。
「お兄様、長男のくせに『一抜けた』をして終わりにするつもり!? これは私たち汀家の問題よ!? 長男なのに家から逃げられると思っているの!?」
そんな妹の癇癪には慣れているのか、龍之介は顔色を変えずに言う。
「ならお前も、私財でもって両家に謝罪し、家から出たらどうだ? ……普段浪費ばかりしているから、手元には一銭も残っていまい。先の事を見通さずに目の前の享楽に耽るからだ」
「わ……っ、私ばっかり責めないでよ! 紫乃だって一文無しのくせに! 大富豪に嫁いでいい気になって!」
そう言われ、紫乃は小さく挙手して言った。
「わ……、私、少しですが貯金はあります」
「何ですって!? 幾らよ! あははっ、一円とか言うんじゃないの?」
「……少ないですが、……コツコツ貯めて、口座に三百円ぐらいは……」
今の金額にして約二百万円の金額を出され、菖蒲はあんぐりと口を開ける。
華族の令嬢は必要な時に都度親から金を出してもらうので、自分で私財を蓄える事はあまりないと言っていい。
持参金は数千円――今の金額にして数百万円から一千万円と言われ、それを含めたすべてが女性の持てる金額と言って良かった。
だから菖蒲は紫乃がそれだけの金を持っていると思わなかったのだ。



