役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「……奥様もお嬢さんも、随分立派なお着物を召しておいでですなぁ。お屋敷にも、さぞ値打ちのある品がぎょうさんあるんやろうと思います。せやったら、それらを売り払うて、日々鬼退治に励まはったらよろしいやないですか。報奨金も合わせれば、少しずつ返していけるんやありません? ……水流迫(つるざこ)家へ返していただく十万円も、ねぇ?」

「合わせて……、に……っ、二十万円だと……っ!?」

 今の金額にして八億円ほどの請求をされ、高次(こうじ)は目を白黒させている。

「お父様、それぐらいのお金、(みぎわ)家にはあるんでしょう?」

 まだ何も分かっていない菖蒲(あやめ)が言ったが、高次は聞いていない。

 その時、ずっと沈黙を貫いていた龍之介(りゅうのすけ)が口を開いた。

「我が家の家計は火の車だ。父上が紫乃(しの)を水流迫家から盗み、我が家で虐待しながら育てた事で、()の家をさらに怒らせた。紫乃を大切に育てれば巨額の支援を得られていたのに、紫乃を雑に扱ったせいで、我が家はそれ以上の金額を請求される事になった。払っても払っても借金は減らず、父上は家令と帳面を見て頭を悩ませるばかり。請求を無視すれば、上水流(かみずる)家を通じて志摩での立場を悪くすると脅された。……菖蒲、お前は何も知らず、自分は才能のある娘だと思い込んで我が儘放題。……紫乃からも物を奪い、お姫様のように振る舞っていたな」

 菖蒲は味方とばかり思い込んでいた兄に責められ、呆気にとられて目を見開く。

 龍之介は眉間に深い皺を刻んで続けた。

「……私は父上の所業を知った時から、とうにこの家を見限っていた。……三千風(みちかぜ)家と水流迫家には、私が事業と鬼の討伐で得た私財から、それぞれ一万円ずつ払いましょう。それで私は汀家を出ます。もうこんな家を継ぐ価値はないし、このような腐りきった家族とも縁を切りたい」

「な……っ、何を言っているんだ!? 龍之介! お前は優秀な子で、汀家の跡取りだ!」

 高次が悲鳴じみた声を上げるが、龍之介は表情を変えず、決定を覆さない。

「長男として生まれ、跡を継ぐつもりでいましたが、ずっと迷いがありました。私は自分のために努力し続けてきましたが、行き着く先は、愚かな父親が作った借金まみれの家の家長なのかと」

 ぐうの音も出ない事を言われ、高次は真っ青になって震える。

「勘当してくださっても、私は自分で作り上げた財がありますし、鬼と戦うための異能もあります。そこのお二人が許してくださるなら、東西どちらかの軍に入り、地道に働いていくのもまた人生と思っています」

 息子の決定を聞き、寧々(ねね)は呆然としている。

「そんな……、龍之介……、どうして……」