役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

 だが紫乃(しの)は、菖蒲(あやめ)にそう睨まれるのは慣れている。

 自分を大切にしてくれる家族は別にあり、(みぎわ)家にいつまでも縛られなくても良いのだと理解したあとは、気持ちが軽くなっていた。

 だから菖蒲に睨まれても、必要以上に萎縮する事はなかった。

 今日も美しい(あおい)は、背筋を伸ばして座り、顎をそびやかせて高次(こうじ)を見下す。

「……わたくしにも謝りなさい。わたくしのもとから娘を奪い、大切な娘をこの手で育てる事が叶わへんかった悲しみ事、せめて娘には不自由のない暮らしをさせたいと思うて送り続けたお金を、娘のために使わず浪費した事、そしてわたくしの娘を使用人のようにこき使うてきた事への詫び。……あんさんら家族のせいで、わたくしの大切な娘は、水流迫(つるざこ)の娘らしからぬ生い立ちを送る事になりました。今の慎ましく清らかな性格も、愛おしゅう思えます。せやけど本来やったらもっと誇り高く、華族の令嬢らしく育っていたかもしれへん。……あんさんらはそのすべてを奪うたんです。……せやし、わたくしと娘に詫びなさい」

 葵に高圧的に言われた高次は表情を歪め、寧々(ねね)は能面のように無表情になっている。

 龍之介(りゅうのすけ)はいつも通りなんの感情も見せない様子で、菖蒲は真っ赤になって歯を食いしばっている。

 どう見ても、この一家が反省していないのは明白だった。

「…………も、……申し訳なかった……」

 それでも、高次は形ばかりの謝罪をする。

 彼はそれだけ言ったものの、自分が紫乃に何をしたのか、一家の長として家族を諫められなかった責任の有無については黙っている。

 しばらく室内に沈黙が落ち、どうにもならない雰囲気が支配する。

 やがて隼人(はやと)は葵と視線を交わし、頷き合う。

「それ以上言う事がないのなら、こちらから請求しましょう。私は汀菖蒲さんを妻にほしいと申し出たが、汀家は汀菖蒲と名乗らせた別の女性を差し出した。奇しくも求めていた女性(ひと)であったから、私の望みは叶った事になります。……ですが、嘘は宜しくない」

 高次は途中まで隼人の言葉を聞いて安堵したものの、最後に冷たい声で言われて表情を強張らせる。

「菖蒲さんの指示により、紫乃さんは裏オークションに出品され、私が彼女を十万円で買いました。……金の問題ではありませんが、汀家にはその十万円分を請求します」

「な……っ、じゅ、十万円など出せる訳がないだろう!」

 高次が激昂すると、葵が鼻で嗤った。