役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「その時は、僕もご案内します! お姉様は甘味はお好きやろか? 京都には自慢の甘味処がぎょうさんありますさかい、ぜひ召し上がっていただきたいです!」

「あ、ありがとうございます……」

 圧の強い兄弟に気押されながらも、紫乃(しの)は嬉しそうに笑う。

 やがて、それまで聞き役に徹していた白瑛(はくえい)が口を開いた。

「私は、愛する(あおい)さんが(みぎわ)家いう下級の家の男に乱暴されたと知った時、気が狂いそうになるほど怒りました。……せやけど、葵さんの言う通り、生まれてくる子に罪はあらしまへん。卑劣な手で、生まれたばかりの娘を奪われたあと、葵さんは長いこと、悲嘆に暮れてはりました。……ようやく紫乃が見つかった時、この女性(ひと)は泣いて喜んではりましたよ。……私らは最悪、もう殺されてしもうたのやないかと思っていましたさかい」

 白瑛の言葉を聞き、紫乃は真面目な顔で頷く。

「……せやけど、ようやく紫乃も嫁ぐ年頃になって、あの忌まわしい家から解放された。これからは誰のためでもない、自分の人生を歩んでいきなさい。水流迫(つるざこ)家は紫乃を全力で支えていきます。……それに三千風(みちかぜ)侯もあんさんを大切にし、命懸けで守ってくれはるでしょう」

「はい、新しく生まれ変わった気持ちで、自分の人生を生きます」

 紫乃の返事を聞き、皆は温かく笑った。



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 その翌日、紫乃は菖蒲(あやめ)の見舞いのために貴賓館をおとなった。

 勿論、隼人(はやと)も同行しているし葵と時子(ときこ)も同席すると言って聞かなかった。

 一行は貴賓館に入り、(かずら)に先導されるまま赤い絨毯が敷かれた廊下を進み、応接室に向かった。

 先に彼らが訪れる事を聞かされていたのか、そこにはすでに汀家の四人がいた。

 小さな(あきら)はこの争いに無関係とされ、余計な事を聞かせる必要はないとして、使用人と一緒に別室にいるのだろう。

 昨日、あのあとも一家は酷い言い争いをしたのか、全員険悪な雰囲気でむっつりと黙り込んでいた。

 葛がお茶を出したが、汀家の者たちはまた自白剤を入れられては叶わないと、手を出す様子を見せなかった。

「まず言いたいのは、あなた方のした事を紫乃さんに謝ってほしい」

 隼人に切り出され、汀家の家族は膝の上でギュッと拳を握る。

 菖蒲はまだ紫乃に対して敵対心を持っているのが、上目遣いに妹を睨んでいた。