役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「あなたはまだ、わたくしを母やとは思えてへんのでしょうし、夫や息子たちの事も、突然現れた怪しい男としか思えてへんのでしょうなぁ。……三千風(みちかぜ)家へ嫁ぐんは、勿論かましまへん。せやけど、たまには西へも来て、わたくしたち親子と過ごす時間を作りまひょ? 色々と案内して差し上げます」

「……はい!」

 笑顔で頷いた時、琉王(るおう)がとてもいい笑顔で言った。

「それにしても、華族の令嬢の婚姻適齢期いうたら、だいたい十八歳から二十二歳あたりですやろ。きちんとした教育を受け、両親の同意も得た上でね。紫乃はまだ十七歳やったはず。私としては、あと一年くらい婚儀を延ばしてもええんやないかと思うんですけどねぇ?」

「……あら、ほんにその通りですなぁ」

 (あおい)まで納得したように頷き、隼人(はやと)紫乃(しの)はギョッとする。

(みぎわ)家と三千風家の間では、話がまとまっていたかもしれへんけど、紫乃は水流迫(つるざこ)家の娘です。……あのろくでなしに、父親を名乗る資格なんぞありまへんしなぁ」

 葵はニッコリと凄みのある笑みを浮かべ、紫乃はドッと冷や汗を掻いて母に訴える。

「わ、私は隼人さまと結婚したいと思っていまして……」

 すると葵はそっと娘の手をとった。

「別に婚儀に反対しているわけやあらしまへん。……ただ、あと一年ほど、花嫁修業を積みながら、本当の家族と親睦を深める時間があってもええんやないか……、いう話です」

 困り切った紫乃は、隼人を振り向いた。

 すると彼は深い溜め息をつき、念を押すように葵に尋ねる。

「……一年間、家族の絆を深めて満足されたなら、予定通り私たちは結婚しますからね」

 譲歩した隼人の言葉を聞いて、葵はこの上なく嬉しそうに笑った。

「おおきにありがとう。さすが話の分かるお方やわ」

 あれよあれよという間に、結婚が一年延期になってしまい、紫乃は呆然としている。

「紫乃さん、すまない。君の生家……というか、本当の母君、君を心から愛し、心配しているご家族が分かった以上、そのご意向を汲むのも夫の務めだと思う」

「……いえ、そこまで考えてくださって、ありがとうございます」

「引き続き、君にはこの屋敷に住んでもらい、婚約者の紫乃さんとして過ごしていってもらえたらと思う」

「はい!」

 その時、我慢できないというように琉王が言った。

「一年の猶予もあることやし、十か月ほど京都で一緒に過ごさへんか? 都はええ所やで。あないに美しい妹と、あちこち連れ立って歩けるのやったら、私はきっと天にも昇る心地になるやろなぁ」

 すると輝更も勢いよく言った。