役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「最初に君にブローチの思念を読んでもらったのは、九年前と同じように、物から人の思念を読めるか確かめるためだ。それができたなら、〝君〟は私の求めていたあの少女であるという事になる」

 隼人(はやと)の説明を受け、紫乃(しの)は多少強引にも感じられたあの一件について納得を得た。

「加えて君は、(みぎわ)家に連絡すると言ったら居心地悪そうにしていた。正々堂々と嫁入りしたなら、実家に連絡をされるぐらいどうって事はない。加えて汀家からも、『ちゃんと娘は着いたのか』と安否を気遣う連絡はなく、共に来たはずの下男や荷運びをした使用人たちもいない始末。……それだけで、君が汀家でどう扱われているかは分かった。普通の親なら、常に娘を気に掛けるものだ。遠く離れた場所に嫁入りしたとしても、息災にやっているか気遣い、相手の家に重ねて挨拶するものと思っている。……実際に重ねて連絡を受けたのは、金の都合についてだけだったがな」

 そうなったのも、高次(こうじ)が紫乃を邪険に扱い、水流迫(つるざこ)家の怒りを買ったから経済的に逼迫したというのだから、頭が痛い。

「君が気に掛けていた亀吉(かめきち)という下男や、同行したはずの使用人は、すぐに部下に捜査させた。金策に困っている伯爵家とはいえ、志摩の名家と言われた汀家だから、見栄を張るつもりで多少の持参金、嫁入り道具は持たせただろう。私に支援を求めているのに、嫁がせる娘には何も持たせていない……では、さすがに目も当てられないからね」

 隼人は溜め息をつき、脚を組む。

「捕らえた亀吉はあっさりと『汀家の菖蒲(あやめ)さまに頼まれた』と白状し、別の場所で捕まえた者たちも亀吉から分け前をもらったあと、足がつかないように逃げるつもりだったらしい。それで大筋は理解した」

 彼は呆れたように溜め息をついてから、葵を見た。

「決定打となったのは、結婚すると発表したあとに来た、水流迫家からの手紙だ。その手紙には君の生い立ちが事細かに記され、汀家で紫乃さんがどのような扱いを受けていたのか、菖蒲さんの我が儘で、妹の紫乃さんが輿入れする事になったなど書かれてあった。……遅まきながら、それですべての符号が合った」

 微笑んだ隼人に、(あおい)が言う。

「紫乃は、わたくしにとって何より大切な娘です。この子が三千風(みちかぜ)家へ嫁ぐのやったら、水流迫家はすべてを包み隠さず打ち明け、全面的にお味方すると示さねばなりまへん」

「……ありがとうございます」

 紫乃は改めて母に感謝を述べた。