役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「まだ、お嬢様の害になる殿方か、あるいは真にお力添えくださるお方かも分からへんうちから、本当の事をお教えする訳にはまいりまへん。……せやけど、もし閣下が〝本物〟なら、お嬢様が偽りを口にしておいででも、必ず見抜かれるやろう――。そう踏んで、お側から見守っておりました」

 言い返され、隼人(はやと)は笑った。

「確かに、君の言う通りだ。真偽を見極める力がなければ、三千風(みちかぜ)家の当主などやっていられない」

 その時、紫乃(しの)は挙手して尋ねた。

「私の正体を、『早い段階から分かっていた』と仰いましたが、どのあたりから……?」

 それに隼人は微笑み、答える。

「そもそも、『汀菖蒲(みぎわあやめ)さんは雨を呼ぶ異能を持っている』と分かっていた。同時に、『汀家には姉妹がいるが、妹のほうは何の異能を持っているのかハッキリ分かっていない』という情報も得ていた。……君は菖蒲と名乗ったし、裏オークションの時も、私は『嫁入りに来るはずだった汀菖蒲が人身売買の被害に遭った』と報告を受けた。……だから助けたあとに君が自分を菖蒲と名乗っていても、特におかしく思わなかった」

「……申し訳ございません」

 謝ったが、隼人は「気にする必要はない」と彼女を制する。

「だが君と一緒に過ごすようになり、違和感を抱いた。〝君〟は記憶通りの控えめで心優しい女性だが、噂に聞く〝汀菖蒲〟のように高慢な女性ではない。それに私のように強い異能を持つ者は、側にいる者の属性が何となく分かるものだが、君からは強い水の気配がしなかった」

 言われて、紫乃は決まり悪そうに俯く。

「君には水流迫(つるざこ)家の血が流れている訳だから、並々ならぬ才能はあるだろう。しかし本物の菖蒲さんのように雨を降らせるとか、他の汀家の方々のように水や氷といった、分かりやすい水属性の力は感じなかった。……私が目にした君の異能は、触れた物の記憶を読む力だ。〝菖蒲さんは雨も降らせられるし、物の記憶も読める〟と強引に纏める事もできるが、二つの力は相違点がありすぎる」

 隼人は一口紅茶を飲み、喉を潤してから続けた。

「葛の一件があった時、君は彼の心の中でハクトの力を借り、水の力を使った。それができたのは、青龍の籠を持つ(あおい)さんを母に持つからだ。……しかし水の力を使えたのは心の世界でだ。……あとから君と(かずら)からその話を聞いて、汀菖蒲ともう一人の妹の異能が想像できた。……片方は噂通り家族と似た、雨を呼ぶ水属性の力。片方は心理面に働きかける力で、内なる水属性を持っている。……その辺りで大体、君は妹の紫乃さんなんだろうな、と思っていた」

 ずっと彼を騙していた紫乃は、決まり悪く俯く。