役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「お嬢様、面白おすやろ~。本当の兄弟いうもんは、こないにも姉や妹を大切に想うてくれはるんです」

 時子(ときこ)がニコニコして言い、紅茶を飲む。

「――それはさておき、三千風(みちかぜ)閣下。紫乃(しの)の異能について、少しお尋ねしてもよろしいやろか?」

 葵に尋ねられ、隼人(はやと)は苦笑いした。

「親族になるのですから、どうぞ隼人とお呼びください」

「そうですか? ……なら、わたくしの事も(あおい)さんと呼んでおくれやす」

「承知いたしました」

 二人の侯爵はそれぞれ腹に一物ありそうだが、表向きにこやかに会話をする。

 そのあと、隼人は葛の発言の許可も得て、紫乃がこの屋敷に来てから発揮した異能について説明し始めた。

 ブローチの件から始まり、葛を救った一件、そして紫乃はトキ――時子の証言も得て、九年前に(みぎわ)家で水晶の記憶を呼んだ事、隼人は紫乃が彼の父の形見に触れた時の事も話した。

 隼人は紅茶を一口飲んで言う。

「私は父の遺志を教えてくれた少女に心からの恩を感じ、時たま志摩に赴いて汀家と接触をとってきました。……しかし汀伯爵と話していて、どうやら彼は〝善い人〟ではないようだと勘づいて心配になったが、理由もなく『娘さんに会わせてください』と言う訳にもいきません。若輩者でも私は侯爵で、娘を嫁がせたがる者は大勢いる。だから慎重に接するしかありませんでした」

 それに対し、葵は呆れたように返事をする。

「確かに、あのろくでなしのことやさかい、相手が関東で絶大な力を持つ三千風(みちかぜ)家の当主やと知れば、(すっぽん)のように食らいついて、何が何でも甘い汁を吸おうとするでしょうなぁ」

 葵は吐き捨てるように言い、妻の言葉を聞いて白瑛(はくえい)が「舌、引き抜いてやりとうなるな」とニコニコしながら怖ろしい事を言う。

「当時、紫乃さんは自分を〝菖蒲(あやめ)〟と名乗った。……私はそれを信じ、十八歳になった〝汀菖蒲〟さんに求婚する流れになったのです。……円城(えんじょう)さんがあの時に一言でも、真実を教えてくださったら良かったんですけどね」

 隼人は溜め息混じりに時子を見る。

 すると彼女はしたり顔で笑った。