役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「……とんだ失態だわ」

 いまだそんな悪態をつける元気があると分かった紫乃(しの)は安堵し、高次(こうじ)も一応親としての自覚があったのか、安堵して息を吐いた。

「積もる話はありますが、まず菖蒲(あやめ)さんは一旦体を休めてください」

 隼人(はやと)に言われ、寧々(ねね)に支えられた彼女は頷いた。

「……侯爵閣下の前で伯爵令嬢らしからぬ言動をしてしまい、心よりお詫び申し上げます」

 菖蒲は弱々しい声ながらも令嬢らしく気高く侘びをし、チラッと紫乃を見てから両親、兄弟と共に部屋を出て行った。

「さて……」

 隼人は場を仕切り直すように言い、(かずら)に笑いかけた。

「少しは気持ちがスッキリしたか?」

「機会を与えてくださり、ありがとうございます」

 葛は胸に手を当てて慇懃にお辞儀をし、室内にいる人々を見て微笑んだ。

「お茶を淹れ直して参ります。当家自慢の紅茶と、お茶菓子とで親子水入らずの団欒をお楽しみください」

 そう言って葛は割れた物も含めてティーカップを下げ、彼が部屋を出て行ったあと、花鈴(かりん)たちが「失礼いたします」と室内に入り、濡れた絨毯の処置をしていった。

 燕谷(つばたに)は乱れた室内を地の異能で整え、優秀な使用人たちが働いたあと、応接室はすっかり綺麗になった。

「紫乃、あなたにぜひ会うてほしい者たちがおるんです。……ここへ呼んでも、ええやろか?」

 葵に尋ねられ、紫乃は「はい」と背筋を正して頷く。

 すると事前に聞かされていたのか、燕谷がお辞儀をしてから退室し、しばらくしてから三名の男性を連れて戻ってきた。

「母上! このお方が、僕の姉上なのですか!?」

 葵に似た雰囲気の美貌の少年が興奮混じりに言って紫乃を見つめ、もう一人がとろけるような表情で言った。

「私の妹が……っ、あまりにも愛らしすぎる……っ!」

 その後ろにいる父親らしき男性は、温厚な人らしく無言でニコニコしている。

 兄弟は興奮してハァハァしながらジリジリと紫乃に迫り、彼女は喜んだらいいのか、怯えたいいのか分からない表情でうろたえている。

「堪りまへん……! どうか、抱き締めさせておくれやす!」

 隼人と似た印象の、スラリと身長の高い兄が言い、紫乃を抱き締めてきた。

「僕もです、お姉様!」

 二人の男性に抱き締められた紫乃は、慌てふためき所在なく手を彷徨わせる。

 隼人はその様子を見て、「ずっと会えていなかったのなら、仕方ないですね」と苦笑いしている。