役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「白虎は金属を司る。その指輪から聖獣の力を菖蒲(あやめ)さんの全身に注ぎ込み、お前という存在を消し去る」

「ふ……っ、ふふ……っ。ご立派ですねぇ? お若き侯爵閣下。九年前、私たちは暗躍して当時の侯爵たちを暗殺し、ようやく(はち)の鬼の召喚に成功しました。……あぁ、あなたのご両親も犠牲になられたんでしたっけ? いい素材になってくださいました! 毎度、ありがとうございまーす! 本当は先日も、クズさんをダシにして白虎の封印を解こうと思っていたんですけどねぇ。クズさんみたいな小物じゃあ、駄目でしたね!」

 煽られても隼人(はやと)は表情を変えない。

「だから何だ? 父と母の誇り、遺志は紫乃(しの)さんのお陰で私の胸にある。それに(かずら)は私の大切な執事だ。失礼な事を言ったら許さない」

 隼人が動じないのを見て、丸尾(まるお)は矛先を(あおい)に変える。

水流迫(つるざこ)侯爵閣下も、お可哀想に。西日本が女流家系とはいえ、一族を代表するあなたが、まさか格下の伯爵家の男に強姦されようとはね? 屈辱で正気ではいられなかったのではないですか? その子供だって、本当は産みたくないと願ってもおかしくありません」

 葵は立ちあがり、帯に挟んでいた扇子をバッと開く。

 その瞬間、ドッ! と凄まじい水流が菖蒲の体を押し潰した。

「阿呆な事言わはらんといてくれます? 母親の想いを甘う見んといておくれやす。確かに、あないなろくでなしのことは、これっぽっちも愛してまへん。せやけど、このお腹を痛めて産んだ子には、何にも代えられへん愛情を持ってますえ」

「どうでもいいから、菖蒲の体を攻撃するのはやめてぇっ!」

 寧々(ねね)が金切り声を上げ、両手で顔を覆って泣き崩れた。

(みぎわ)夫人、ご心配なく。ご存知とは思いますが、我々の異能は鬼を祓うためのものです。菖蒲さんを攻撃しているように見えますが、その体には傷一つ付けていません。あなたも華族のご夫人なら、現実をきちんと見るべきです」

 隼人に淡々と言われ、寧々はハッと顔を上げる。

「……どうやら〝神無月の鴉〟いうんは、半分、鬼に身体を乗っ取られた存在みたいやな。こうして水ぶつけてみると、よお分かります。あんさんからは、鬼の匂いがぷんぷんします」

 葵が言い、蔑むような表情を浮かべたあと、扇子で口元を覆う。

「はは……っ、は……っ、この体に乗り移り、あなた達二人の侯爵の心も徐々に壊していこうと思っていたのに……、うまくいかないものですねぇ……っ」

 丸尾は目を赤く光らせ、鬼気迫る表情で二人の術に抵抗しようとする。

「四聖獣を使役する侯爵を、甘く見るな」

 隼人は低くつぶやき、菖蒲に向かって突き出した手をグイッと捻らせ拳を握った。

「ぐぅっ!」