役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「東京は四神相応の地の中央に皇居を構えている。東は墨田川に青龍(せいりゅう)、南は東京湾に朱雀(すざく)、西は東海道に白虎(びゃっこ)、北は神田山に玄武(げんぶ)……とね。その中央にある皇居では、天子様が伝説の鬼を封じていらっしゃる。私たち四大侯爵は天子様をお守りしつつ、皇居の四方にある封印を守っている」

「……存じ上げています。西日本にも京都に同様の守りがあり、私がおりました志摩の地にも軍のお偉い方がいらして、裏神社本庁と協力し合って鬼を祓っています」

 かつて神話と言われた時代、神の使いと呼ばれた天子は黄龍(こうりゅう)の力と、四聖獣の力でもって巨大な鬼を封じた。

 それを連綿と続く皇族の家系が封印し続け、四大侯爵が補佐をしているのだ。

 巨大な鬼を封じる封印は東西にあり、それぞれの地に四大侯爵がいる。合計八体いる四聖獣は、つがいなのだという。

 東には天子と雌の四聖獣、男系家族の四大侯爵家がいて、西には天子の妹と雄の四聖獣、女系家族の四大侯爵家がいる。

 異能は血筋の影響を受け、地位の高い華族ほど強い異能を持って生まれる。

 例外として庶民の中にも強い力を持つ者が生まれる事もあり、その時は特例として無料で育成学校に通い、軍人になる。

 この世に生まれた者は何かしらの異能を持っているとはいえ、実際に鬼と戦えるほどの力を持つ者は少ない。

 軍人は適性検査を受けた特別な者だけで構成され、結界を張って人々を守る神職も、同様に選ばれた者しかなれない。

 鬼はその強さに応じて区分けされていて、発生するほとんどは壱から伍に収まる。

 (ろく)以上の鬼は災害級とされ、軍人が連携をとって対処しなければ鎮圧する事はできない。

「縁談を受けた時、三千風家は白虎を使役する特別な侯爵家だとお聞きしておりました」

 紫乃(しの)は空中に浮いている白虎を見て、不敬ながら「可愛い」と感じつつ言う。

「今は小さい姿だが、有事では成獣の姿で召喚できる」

 そう言って、隼人(はやと)は紫乃の足元に跪いた。

「なっ、……何を……」

 動揺すると、隼人は彼女を見上げて微笑んだ。

「いつまでも足枷がついたままでは嫌だろう?」

 そう言って彼は懐から鍵を出し、カチンと小さな音を立てて紫乃の足枷を外した。

「この足枷は異能を封じる力がある。そうやって人身売買されている者が多くいるんだ」

 隼人は陰のある表情で言ったあと立ちあがり、ドアのほうを見て頷く。

 そちらを見ると、いつの間にか五人のメイドが控えていた。

「失礼いたします」

 挨拶をしたあと、彼女たちは手際よく紫乃が纏っている花魁の衣装を脱がせ始めた。