言の葉の涯

2026-05-18
『二度と会えなくなる』

もう二度と会えないとするなら
どんな言葉を伝えようと思う?

訊ねられる機会があり、それに答えようと
様々な言葉が頭の中に浮かんでくるけれど。

「それは会えないことを僕は知っているのか」
「もしくは、知らないまま会えなくなるのか」
「どっち?それで答えが変わってしまうけど」

質問を返して、お湯を入れたコップを持ち
ふーふーと冷まして、一口だけ啜って飲む。

「んー、どっちも聞きたい」

笑いながらそんなことを言ってくる男性に
少しばかりの強欲さを感じてしまうけれど
「いいね、両方知ればいい」と笑い返した。

「なら、前者としての言葉はね」と始める。

「会えないことを知っているというのはきっと」
「どうしようもなさを含んでいると思うからね」
「元気でいてね、って諦めみたいな言葉を言う」

男性はただ頷くだけで、次を待っている。
「で、後者としての言葉はね」と続ける。

「会えないことを知らないままっていうのは」
「きっと慣れた生活の果てにあると思うから」
「言い馴染みのある言葉が最後になると思う」

言い切った僕はまたコップを持ってお湯を飲み
台所へ空になったそれをそそくさと持っていく。

ゴトン、と置くときに音が鳴った。

「会えなくなることを知っている場合はさ」
「先に悲しみみたいなものが来るんだけど」

「会えなくなることを知らない場合は」
「後から悲しみみたいなものが来るね」

リビングにいる男性がそんなことを言っていて
「確かに、先か後かの問題だね、これはきっと」
リビングへと歩きながら僕は男性に共感をした。

「てか、なんでそれを訊きにわざわざ来たの?」
久しぶりに会いたいと連絡をくれた友達だった。

「いやー、意見を聞きたくてさ。深い意味はないよ」
小学生の頃、悩んでいるときに見せた表情に似てる。

「二度と会えない人がいるんでしょ」
「もしくは、会わなくなる人がいる」

僕がそんなことを言ってみると図星だったのか
「嘘は吐けないな、そう、いた」と話し始めた。

「彼女と別れたんだよ、先週」
「もう二度と会えないと思う」
少しだけ視線を落としている。

「別れ際、どんな言葉を伝えたの?」
「彼女はどんな言葉を伝えてきた?」

質問をしたかったけど、するべきではないと思い
「まぁ、なんかあったら連絡して、暇だから」と
慰めの言葉にもならない言葉を僕は友達にかけた。

蛇口から零れた水が置いていたコップに
ポチャン、と音を立てて一滴だけ落ちた。

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