2026-05-06
『えー凄く幸せです』
えーいずれ別れに至ります
出会ってしまったからです
助手席で呟く彼は笑いながら
窓を開けて景色を眺めていた。
「それってあの映画のやつ?」
「言い換えると凄く面白いね」
私は前を向きながら彼に話しかけ
何か言い換えができないか考える。
えーあなたを愛しています
理由は思いつかないですが
彼がまた呟いた。
「それって言い換えになってなくない?」
笑いながら言って、それに応えるように。
えー愛に理由は必要だと思います
伝えられる側が安心するからです
私がそう言い換えてみると
彼は嬉しそうに笑っていた。
「見て、あそこの老夫婦めっちゃ素敵」
彼が信号待ちをしている夫婦を指した。
もうお互いが白髪になっていて、年老いて
恋愛に興味が無さそうな雰囲気があるのに
手を繋いでいて、たまに目を合わせている。
「ほんとだ、素敵。どういう愛があるんだろう」
知りたくて呟いてしまったけど、まだ知れない。
信号が青になって、老夫婦は歩き出す。
その横を小学生が走るように通り過ぎ。
老夫婦が小学生を見る視線には愛が含まれていて
横断歩道を渡り切った老夫婦はまた目を合わせた。
そして何もなかったかのように歩き出し
恐らく、自分たちが暮らす家へと帰った。
ハンドルを右に回し、右折して海に向かう。
助手席からは「いぇーい」と楽しそうな声。
彼が開けていた窓からは潮の匂いがして
海が段々と近くなっていることを感じる。
見えてきた。
もう時刻は16時を回り、人は少なくて
夕陽が海に沈んでいくような景色が見え。
「綺麗」と彼のボソッと呟く声が
微かに聞こえたけどエンジン音に
それは全て搔き消されてしまった。
駐車場に車を置き、波の音がするほうへ
彼と手を繋いで歩きながら向かっていく。
ついさっき見た老夫婦ほどの愛はないけど
確かに、私と彼の間には愛が育まれていた。
えー君と海に来れて凄く幸せです
今の君を独り占めできるからです
彼はまた、あの言い換えの口調で話していて
私のほうへと視線を移して、猫みたいに笑う。
えー私も一緒に海に来れて凄く幸せです
あなたの思い出になる気がするからです。
同じように言い換え口調で話しかけると
また猫みたいにクスッと彼は笑ってから。
「本当に思い出だね、ありがとう」
彼は目を合わせながらそう言った。
付き合って1年が経った。
まだ別れに至っていない。
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『えー凄く幸せです』
えーいずれ別れに至ります
出会ってしまったからです
助手席で呟く彼は笑いながら
窓を開けて景色を眺めていた。
「それってあの映画のやつ?」
「言い換えると凄く面白いね」
私は前を向きながら彼に話しかけ
何か言い換えができないか考える。
えーあなたを愛しています
理由は思いつかないですが
彼がまた呟いた。
「それって言い換えになってなくない?」
笑いながら言って、それに応えるように。
えー愛に理由は必要だと思います
伝えられる側が安心するからです
私がそう言い換えてみると
彼は嬉しそうに笑っていた。
「見て、あそこの老夫婦めっちゃ素敵」
彼が信号待ちをしている夫婦を指した。
もうお互いが白髪になっていて、年老いて
恋愛に興味が無さそうな雰囲気があるのに
手を繋いでいて、たまに目を合わせている。
「ほんとだ、素敵。どういう愛があるんだろう」
知りたくて呟いてしまったけど、まだ知れない。
信号が青になって、老夫婦は歩き出す。
その横を小学生が走るように通り過ぎ。
老夫婦が小学生を見る視線には愛が含まれていて
横断歩道を渡り切った老夫婦はまた目を合わせた。
そして何もなかったかのように歩き出し
恐らく、自分たちが暮らす家へと帰った。
ハンドルを右に回し、右折して海に向かう。
助手席からは「いぇーい」と楽しそうな声。
彼が開けていた窓からは潮の匂いがして
海が段々と近くなっていることを感じる。
見えてきた。
もう時刻は16時を回り、人は少なくて
夕陽が海に沈んでいくような景色が見え。
「綺麗」と彼のボソッと呟く声が
微かに聞こえたけどエンジン音に
それは全て搔き消されてしまった。
駐車場に車を置き、波の音がするほうへ
彼と手を繋いで歩きながら向かっていく。
ついさっき見た老夫婦ほどの愛はないけど
確かに、私と彼の間には愛が育まれていた。
えー君と海に来れて凄く幸せです
今の君を独り占めできるからです
彼はまた、あの言い換えの口調で話していて
私のほうへと視線を移して、猫みたいに笑う。
えー私も一緒に海に来れて凄く幸せです
あなたの思い出になる気がするからです。
同じように言い換え口調で話しかけると
また猫みたいにクスッと彼は笑ってから。
「本当に思い出だね、ありがとう」
彼は目を合わせながらそう言った。
付き合って1年が経った。
まだ別れに至っていない。
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