ラブ・ミッション・デッドライン〜祠を壊した俺たちが、男同士で愛を誓うまで〜

「なんだよ、それっ! 久しぶりに会った友人にって……僕にとっては、久しぶりでも……二人にとっては違うのか? う〜ん、難しい」
「相変わらず、何言ってんだか分かんねーな。だけど佐伯だって、感じがする」
「確かにな〜わけ分かんないこと言ってないと、佐伯って感じがしないな」
「ほめ言葉として、受け取っておくよ」

 涼太が先に、佐伯に気がついた。見た目は変わっていないが、纏っているオーラが違うからだ。
 涼太はグサっと胸にくるセリフを言っていて、佐伯は涙目になった。落ち込んで、両手で顔を覆っていた。

 本当に泣いているわけではなく、それっぽいことを言いたいだけである。
 それが分かっているため、二人はめんどくさそうにしている。その証拠に、佐伯はブツブツと何やら呟いている。

 二人は呆れながらも、少しだけ嬉しそうにしている。妙な友達であっても、大事なことには変わりないからだ。
 しかしそれを口にすると、非常にめんどくさい。そのため二人は、適当に流すのが通例になっている。

「おいっ! そこのなんとかっていう奴!」
「……観察する影だろ。いい加減、覚えろよ」
「うるせーよ! 今それどころじゃねーだろ! じゃなくて! てめーは、何がしたいんだよ」
「確かにな。教えてもらおうか」
「仕方ないな〜教えてあげよう」

 陽向は大きな声を上げ、眉間に皺を寄せて睨んだ。涼太は呆れながら、ため息をついている。
 陽向は憤慨し、大声で怒鳴っていた。そして冷静になり、二人は問い詰めた。
 佐伯はどうしたものか? と、真顔で睨んでいる。当の本人の観察する影は、ニコニコしていた。

「私さ、ここの先生だったんだよね。だけど不慮の事故で、若くして亡くなった。夢を叶えることができなくてね」
「あっ、なんか重たい事情があんのか」
「聞かせてくれないか」
「生のBLを見られなかったんだ。男子校ならば、当然いるものだと期待に胸を膨らませていた。だがっ! 現実はそう甘くなかった」
「……同情して、損した」
「同じく」
「確かに、BLは重たい話だ。これ以上になく、辛いことだっただろう。僕は二次元派だが、気持ちは分かる」

 観察する影は、辛そうに話し始めた。異形の怪物の姿はしているが、三人には寂しそうに見えた。
 深い悲しみを抱え、彷徨っていたのだ。それを知り、同情や気の毒に思えた。
 しかしその次の発言で、哀れみの視線に変わった。佐伯だけは、同意し何度も頷いていた。

「祠の中で、百年もの間ずっと眺めていた。妄想は捗るけど、現実にカップルは存在しないんだよね」
「どこから、ツッコむべきか」
「あら、はしたないっ! ツッコむだなんて!」
「……はあ」
「ゴホンッ……話を元に戻すわね」
「もう無理だと諦めかけていた時に、二人を見つけたのよ」

 観察する影は、空を見上げていた。彼女の悲しさを象徴するように、暗く淀んでいた。
 佐伯は何度も頷いていたが、二人は呆れていた。憐れむような目線で、ため息をついている。
 陽向の発言に、憤慨しているように見せて喜んでいる。ますます二人は、哀れみの表情を深くした。

「そこでね、理想のカップルを見つけたのよ。幼なじみで〜理想的な身長差で〜この二人が永遠の愛を誓ったらどうなるのかな〜ワクワクしたってわけ」
「なんだ。そこで、こいつがドジ踏んだからってか」
「平たく言うと、そう言うこと〜」
「くそっ」

 彼女は瞳を輝かせというよりかは、レンズを光らせた。二人は佐伯の女性バージョンだと思い、深く考えるのをやめた。
 無意味だということは、長年の付き合いで分かっているからだ。そのため、涼太は陽向の肩に腕を回した。
 彼女が肯定すると、陽向は頬を膨らまして舌打ちをしていた。涼太は陽向を見つめ、優しく微笑んでいた。

「それよりも、早く戻せよなっ!」
「俺たちの体が心配だ。既に一ヶ月は経過しているし」
「あっ、それなら大丈夫〜現実世界だと、一分も経ってないから」
「なんていうご都合主義」
「それに〜二人は抱き締めあっているし〜キャハ」
「頭、痛くなってきた」

 陽向が正論を言うと、涼太も同意した。彼を守るように、涼太は強く抱きしめた。
 少し震えている彼を、慈しむように見つめる。お互いに見つめ合い、少しだけ気持ちが楽になった。

 彼女は当たり前のように、悪びれる様子もない。佐伯がボソッと呟くが、メガネの奥は複雑な心境を抱えている。
 彼女が可愛く声を上げるが、涼太は頭を抱えていた。陽向は涼太の腕に掴まり、眉間に皺を寄せていた。

「僕はどうなってるんだ」
「君は、私の依代として〜呼んだからね。魂の共鳴が近かったから。二人と同様に、横で寝てるよ。怪我はなし」
「確かに思い出した。何故か急に学校に来たくなったんだよな。帰ったら、BLアニメの一気見を再開しないと」
「それはいいね〜私も見たいっ」
「俺の体に害がないなら、たまに入ってもいいぞ。俺なら、堂々と男子トイレに入って妄想できるし」
「マジで! 神!」
「いやあ〜」

 佐伯が珍しく神妙な面持ちで、声を出した。すると彼女は、当たり前のように軽々と答える。
 佐伯は少し考えた後に、手をポンっと打った。ニヤニヤしだし、いつもの表情へと変わった。

 彼女も嬉しそうに、微笑み合っていた。無数の悪霊たちが飛び交い、空は薄暗くなっている。
 校舎全体が悲鳴を上げ、今にも壊れそうになっている。二人はその様子を見つめ、静かにため息をついていた。

「いや〜、(ナマ)のハグはマジで神供給だったわ。エモすぎて成仏しそう〜。あ、今の怒り顔も誘い受けっぽくて最高! 記念にスクショ撮っていい?」
「「撮るな!!」」
「二次元だったら、わかりみが深い」

 彼女は、透けた姿でスマホを弄っている。ヘラヘラ笑いながら、二人を見つめている。
 恍惚とした表情を浮かべ、スマホを向けている。二人は憤慨し、ほぼ同時に怒鳴りつけた。
 彼女は不貞腐れたようで、頬を膨らましている。佐伯は腕組みをし、何度も頷いていた。

「なあ、観察する影! 俺たち二人を元の世界に戻せよな!」
「だな、俺たちはお前の要求に散々応えてきたじゃねーか」
「ふむ、そうだな〜まあ、私はBLを見たかっただけだし〜」
「あの……皆さん、僕も戻してくれるよね? 確かにこの世界は、BLで溢れている。夢のような世界だけど、BLの新刊やアニメが僕を待ってるんだ。帰らないと」
「お前って、取り憑かれていてもいなくても同じなんだな」
「いやあ〜そんなに褒めるのなら、BLの一つや二つ見せてくれよ」
「はあ……」

 涼太は我慢できずに、彼女に詰め寄った。陽向は、鼓膜が破れるほどの大声で同意した。