ラブ・ミッション・デッドライン〜祠を壊した俺たちが、男同士で愛を誓うまで〜

「涼太、ほら」
「ああ、さんきゅ」
「美味いか」
「う、美味い。幸せだ、俺は世界で一番の! これからも、食べたい」
「おうっ! 作るぞっ! 大袈裟だな〜」
「……あはは」
「悲しいぐらいに、伝わってないね」
「うっ……傷口に塩を塗らないでくれっ」

 この異界にやって来て、一ヶ月が経過していた。二人の距離は縮まり、気持ちも伝えることができた。
 キスをして、お互いの体温を確かめ合った。しかし二人の関係は、進展どころか後退していた。

 表面上はいつも通りだが、妙な空気が漂っている。涼太は本気で告白し、想いを伝えた。
 その返事が返ってこず、焦っているからである。落ち込んでは、陽向の顔を見つめ笑顔になる。

 涼太はまた返事がないのか、俺じゃダメなのかと泣きたくなった。
 その繰り返しで、情緒が不安定だった。今も陽向の作ったご飯を食べ、楽しそうに会話をしている。

 料理を作るのは無理だが、洗い物を手伝っている。陽向が苦にならないように、精一杯努力している。
 毎食必ず、お礼と感想を述べる。毎回必要以上に褒めるため、陽向は有頂天になっている。
 涼太は告白の返事をくれないのは、恋愛感情を抱かれていないからだ。それならば、振り向かせると躍起になっていた。

 ――毎回褒められて、悪い気はしない。だけど、変に期待させるのは止めてほしい。

 陽向はあの告白を本気にせずに、演技だと思っていた。佐伯は嬉しそうだが、不気味な笑顔を浮かべ彼氏とイチャついている。

「……なあ、涼太」
「なんだ〜腹減ったのか」
「……うっ」
「あっ、すまんっ! どうした」
「……げっ……現実世界の俺たちは、倒れてるんだよな」
「……ああ」
「おれっ、戻れなかったらっ……父ちゃんや母ちゃんとも……ばあちゃんとも、会えなくなるのかな」
「……陽向、俺がいるから。絶対に、生きて帰ろう」
「うっ……グスッ」

 夜になり、二人は部屋のベッドに寝転んでいた。涼太は天井を見上げ、足を組み両手を頭の後ろに置いていた。
 陽向は背を向け、丸まっていた。悲しそうな顔をして、起き上がった。

 涼太の顔を見つめ、意を決したように話しかけた。涼太は適当に声をかけると、陽向は堪えきれずに泣き出してしまう。
 涼太は飛び起きて、抱きしめた。小さく震える陽向の背中を摩って、頭を撫でた。

 涼太はそこで、自分を責め立てた。自分が恋愛にうつつを抜かして、目の前の大事な人の変化に気がついていない。
 陽向は涼太の胸にしがみつき、子供のように泣いている。涼太が耳元で囁くと、陽向は安心したのかさらに嗚咽を強くした。

「外に出るためじゃない。俺が、お前を離したくないんだ」

 涼太は決意に満ちた表情で、耳元で囁いた。陽向は泣いているため聞いていない。
 不安に胸がいっぱいになるのは、お互い様だ。だけど本来、陽向は泣き虫なのだ。
 孤独の中にいるのに、耐えることができない。腕の中で泣いている陽向を安心させるために、頭を撫で背中を摩った。

「落ち着いたか」
「ああ、すまん」
「謝るなよ。陽向、何かあったら言えよ」
「ああ、分かった」

 陽向が泣き止むと、涼太は力強く抱きしめた。いつもの陽向なら嬉しいが、憤慨しているだろう。
 その様子を涼太は見つめ、顔を綻ばせるだろう。陽向は涼太の胸に抱かれ、清々しい笑顔を浮かべている。
 陽向は照れ臭そうに、頬を掻いている。その様子を見つめ、涼太は満面の笑みを浮かべた。

 陽向は状況に気がつき、顔を赤くしている。抱きしめられて、背中を摩ってもらっている。
 涼太の胸に両手を置き、全身を包まれている。身体中が沸騰するような感覚に陥り、単調な返しかできない。

 ――あんなに涼しい顔しているのに。こいつ、今にも心臓が破裂しそうなほどに脈打ってる……。

「二人とも、最後のミッションだよ」
「佐伯……本当に戻れるんだろうな」
「そうだっ! いい加減にしろよ」
「戻れるかどうかは、二人の頑張り次第だよ。ほら、読んで」
「……最後か」
「何が書いてあんだ? ……っ!」

 二人がお互いの顔を見つめ合っていると、急に佐伯が現れた。二人は驚きのあまり、声が出なかった。
 佐伯を見つめ、二人は軽く睨んでいた。お構いなしに、ミッションの紙を渡してくる。

 涼太はミッションの紙を見つめ、ボソッと呟いた。陽向も顔を近づけ、その内容を読んだ。
 その紙には【最終ミッション。命をかけた愛の証明と本気の告白】と書かれてあった。

「うわっ! なんだ、急に」
「ここは屋上か?」
「おいっ! あれ」
「なんで、祠がっ」

 二人は急に目眩がして目を閉じたが、次の瞬間屋上へと移動していた。
 陽向は、涼太の服の裾を無意識に掴んだ。涼太はそんな陽向を咄嗟に抱きしめ、倒れないように踏ん張った。

 空は相変わらず、黒い靄がかかっているようだった。それだけではなく、妙に静かだった。
 生徒たちの声や、何かしらの音は聞こえていた。しかし今は、不気味なぐらいに静かだ。

 二人は怯え、体を震わせていた。陽向が大声を出し指を差した方向には、ここにあるはずもない祠があった。
 陽向が壊した時と同じように、ポツンと置かれていた。何やら紫色の靄が覆っており、不気味なオーラが漂っている。

 冷たい空気が流れ、冬空の下に立っているようだ。耳鳴りがして、気分が晴れない。

 ――怖い……だけど、こいつがいれば大丈夫だ。根拠はないけど、安心できる。

 陽向は涼太の顔を見上げ、潤んだ瞳で見つめている。涼太もまた、陽向を抱きしめて決意の表情をしている。

「私は、観察する影。お主らに、最後の試練を与えよう」
「うっ……最後か」
「早く言えよ」
「元の世界には、お主らのうち……一人しか、戻れぬ。今ここで決めよ」

 観察する影が現れて、二人に試練を与えた。陽向は泣きそうになり、涼太は強く抱きしめた。
 睨みつけ、低い声で冷静に告げた。意にも介さないようで、当たり前のように残酷なことを告げてくる。

「ふ……ふざけんなっ! おいっ! 涼太! 黙ってねーで、お前も何か言えよ!」
「俺はいい。陽向だけを帰してくれ」
「はあ? ……何言ってんだよ!」
「お前は帰りたいだろ……だから、お前だけでも帰れよ。俺は、何とかするから」
「ふざけんなよ! ヒーローのつもりかよ! そんなの俺が望むわけねーだろっ! お前は……俺と離れても、平気な……のかよっ!」
「へ……平気なわけないだろっ! 俺は……お前がいないと……うまく、笑えない」
「俺だって! お前がいないと……お前のいない世界なんて意味ねえ!」

 陽向は黙っていられずに、涼太の腕から飛び出した。前に歩き出し、相手に向かって吠えた。