完全に胃袋を掴まれているため、彼の料理でないと満足できない。肉を焼くいい音が、キッチンにこだましている。
「やっぱ、お前の料理は見た目も完璧だ」
「だろっ! ほら、約束の焼肉だっ」
「美味そう〜付け合わせのジャガイモも最高だ」
「ふふんっ! そうだろっ!」
「てか、お前って基本的に俺の前で飯食わねーよな」
「ああ、作りながらつまみ食いしてるから。お前に出す倍以上は、ぺろりだぜ」
「その小さい体に、どんな風に詰め込んでんだよ。まあ、美味いからいいか」
たくさんの肉料理が、目の前に置かれていく。牛肉のステーキには、付け合わせのジャガイモまで置いて合った。
ピーマンの肉詰めもあり、静かにお皿を避けた。陽向に気がつかれて、目の前に置かれた。
優しい笑顔だったが、有無を言わせない何かがあった。そのため黙って、嫌々ながらも食べるしかなかった。
「うげっ、苦かった」
「ピーマンぐらい食べられるようになれよ」
「お前って、好きなものは多いが……嫌いなものはあるのか」
「……さてと、明日の仕込みを」
「待て、教えてくれないと〜寝かせないぞっ」
「……っつ! わーたっよ! ……グリーンピース」
「別にあれ、味しないだろ」
「存在意義が分からん」
「ちょっとだけ、言いたいことは分かる」
二人は皿洗いをしながら、談笑していた。涼太は口の中が、ピーマンのせいで苦い。
ずっと文句は言っているが、美味しかったのは事実である。苦手なものでも、陽向が作ったら全部食べるようにしている。
愛情が詰まっているのが、分かっている。ここに来てから、一日も欠かさずに三食作ってくれているからだ。
時にはデザートまで準備してくれており、感謝してもしきれない。そんな風に思っているため、今朝を除いては洗い物は涼太もやっている。
そこで、涼太はとある疑問を抱いた。ストレートに聞くと、陽向は答えたくないようだった。
気になったので、後ろから抱きついた。涼太の吐息が、陽向の首筋にかかった。
くすぐったいようで、体を小刻みに震わせていた。その様子を見つめ、恍惚とした表情を浮かべた。
苦手なものを知れて、涼太は満足そうにしていた。陽向は耳を真っ赤にし、呼吸が少し荒かった。
――ったく、こいつは昔からパーソナルスペースがないんだよな。まあ、嫌じゃないが。
陽向は文句を言いたくなるが、全身が沸騰するような感覚に陥った。彼の赤くなった耳を見つめ、涼太は自然と口角が上がった。
「これの解読方法は」
「ねーよ! んなもんっ! 気合いで読め」
「じゃあ、教えろよ」
「……さてと、寝よう」
「ちぇ〜」
夕食を終え、二人は部屋に戻ってきた。ベッドに座り、ノートを涼太は見つめている。
ミミズの走ったような文字は、想定済みだった。しかし涼太の想像を遥かに超えて、怪文書になっていた。
ミステリー小説の中の暗号として入れても、違和感はない。書いた本人ですら、解読が不可能。
その時点で、無理なのである。陽向は揶揄われて、不貞腐れるように寝た。
その様子を見つめ、涼太は嬉しそうにしていた。文句を言いつつも、陽向を慈しむように凝視していた。
「こうして寝ていると、思い出すよな」
涼太の追撃を躱すために、寝たふりをしていた。陽向は疲れていたのか、早々に眠りについた。
イビキが聞こえてきて、涼太は顔を覗き込んだ。強がってはいるが、誰よりも繊細な初恋の子の寝顔を。
そこで、幼稚園の時のことを思い出していた。陽向は、お泊まり会でホームシックになっていた。
「りょた……ぼく、かえる! パパとママにあいたいっ! ここいやだっ! うわーんっ!」
「ひなちゃん! ぼくもいるから、だいじょうぶ! こわくないよ!」
「ほんとに、いてくれる?」
「うんっ! ずっとここにいるよ! だから、なかないでっ!」
「もうぼく、なかないよっ!」
幼かった陽向の目には、夜の幼稚園はお化け屋敷のように映っていた。怖いものが苦手で、光がないと寝ることができない。
そんな陽向は、真っ暗闇で寝ることはできない。先生たちがいくら宥めても、泣き喚いていた。
この年の子だと、不思議ではない。そのため先生たちも慣れっこで、泣き疲れて寝る子が多かった。
そのため直ぐに寝るだろうと思っていたが、無駄に体力のある陽向は寝なかった。
遂には、寝ている涼太を起こしていた。彼に抱きつき、耳元で大声で泣いていた。
他の子も起きてしまい、ホール内はプチパニックになった。その中には、幼い佐伯も混じっていた。
彼はどんなに煩くても、平然と寝ていた。涼太は眠たい目を擦って、陽向の頭を撫でた。
泣いていた陽向は、涼太の顔を見ると泣き止んだ。涙目になりながらも、首を傾げていた。
指を咥え、涼太を見つめる。この頃は同じぐらいの身長だったため、目線は同じだった。
涼太の服を掴み、満面の笑みを浮かべた。歯が生え揃っていなくて、所々隙間が空いていた。
涼太も嬉しそうに、その笑顔を見つめた。その光景を見ていた他の園児たちも、静かに布団に入った。
笑顔の裏で、涼太も怖がっていた。だけど泣き喚く陽向は、もっと怖いだろうと思っていた。
自分に言い聞かせるように、何度も声をかけていた。先生はそれに気がつき、涼太の背中を優しく摩った。
「ひなちゃん、いっちょのおふとんで……ねよ」
「うんっ!」
「涼太くんも陽向くんも、偉いわね。何かあったら、先生に言ってね」
「うんっ! おやしゅみ!」
「はい、おやすみ」
涼太が布団に入ろうとすると、陽向は不安そうにしていた。涼太は優しく微笑んで、首を傾げながら声をかける。
陽向の不安そうな顔が、一瞬で華やいだ。その光景を見ていた先生が、二人を褒めてくれた。
陽向は元気一杯に手を降り、涼太はお辞儀をしていた。先生は、満面の笑みで二人に布団をかけた。
同じ布団の中で、手を繋いでいた。顔を見合わせて、眠るまで微笑み合っていた。
陽向の寝相が悪くて、涼太が寒い思いをしていた。そのため先生が隣の布団に寝かしたのは、別のお話である。
「俺こそが、こいつの必死さに救われていたんだ」
「う〜」
「あはは、マジで可愛いな。よかった……もう二度と、お前の笑顔が見られないかって思って……寝てるからいいか」
頬を触ると、優しい温もりが伝わってきた。左耳を見つめ、優しく触れると体を揺らしていた。
耳元で囁くと、赤く染まっていた。涼太も寝そべり、彼を後ろから抱きしめた。
彼の首筋に顔を埋め、静かに泣いていた。彼の前では我慢していたものが、一気に溢れ出たのだ。
――ほんと、素直じゃないな。俺もこいつも……。泣きたきゃ、盛大に泣けよ。こいつは昔から、弱音を滅多に吐かねーからな。
陽向は寝息を立てながら、静かに目を開けた。背中に伝わる温もりや、首筋が濡れる感触。
それすらも、愛おしいと感じてしまう。初恋の人には、いつまでも笑ってほしい。
お互いに、呼吸を止めるほどの静寂の中。涼太の吐息が、陽向の頬を熱く濡らした。
「やっぱ、お前の料理は見た目も完璧だ」
「だろっ! ほら、約束の焼肉だっ」
「美味そう〜付け合わせのジャガイモも最高だ」
「ふふんっ! そうだろっ!」
「てか、お前って基本的に俺の前で飯食わねーよな」
「ああ、作りながらつまみ食いしてるから。お前に出す倍以上は、ぺろりだぜ」
「その小さい体に、どんな風に詰め込んでんだよ。まあ、美味いからいいか」
たくさんの肉料理が、目の前に置かれていく。牛肉のステーキには、付け合わせのジャガイモまで置いて合った。
ピーマンの肉詰めもあり、静かにお皿を避けた。陽向に気がつかれて、目の前に置かれた。
優しい笑顔だったが、有無を言わせない何かがあった。そのため黙って、嫌々ながらも食べるしかなかった。
「うげっ、苦かった」
「ピーマンぐらい食べられるようになれよ」
「お前って、好きなものは多いが……嫌いなものはあるのか」
「……さてと、明日の仕込みを」
「待て、教えてくれないと〜寝かせないぞっ」
「……っつ! わーたっよ! ……グリーンピース」
「別にあれ、味しないだろ」
「存在意義が分からん」
「ちょっとだけ、言いたいことは分かる」
二人は皿洗いをしながら、談笑していた。涼太は口の中が、ピーマンのせいで苦い。
ずっと文句は言っているが、美味しかったのは事実である。苦手なものでも、陽向が作ったら全部食べるようにしている。
愛情が詰まっているのが、分かっている。ここに来てから、一日も欠かさずに三食作ってくれているからだ。
時にはデザートまで準備してくれており、感謝してもしきれない。そんな風に思っているため、今朝を除いては洗い物は涼太もやっている。
そこで、涼太はとある疑問を抱いた。ストレートに聞くと、陽向は答えたくないようだった。
気になったので、後ろから抱きついた。涼太の吐息が、陽向の首筋にかかった。
くすぐったいようで、体を小刻みに震わせていた。その様子を見つめ、恍惚とした表情を浮かべた。
苦手なものを知れて、涼太は満足そうにしていた。陽向は耳を真っ赤にし、呼吸が少し荒かった。
――ったく、こいつは昔からパーソナルスペースがないんだよな。まあ、嫌じゃないが。
陽向は文句を言いたくなるが、全身が沸騰するような感覚に陥った。彼の赤くなった耳を見つめ、涼太は自然と口角が上がった。
「これの解読方法は」
「ねーよ! んなもんっ! 気合いで読め」
「じゃあ、教えろよ」
「……さてと、寝よう」
「ちぇ〜」
夕食を終え、二人は部屋に戻ってきた。ベッドに座り、ノートを涼太は見つめている。
ミミズの走ったような文字は、想定済みだった。しかし涼太の想像を遥かに超えて、怪文書になっていた。
ミステリー小説の中の暗号として入れても、違和感はない。書いた本人ですら、解読が不可能。
その時点で、無理なのである。陽向は揶揄われて、不貞腐れるように寝た。
その様子を見つめ、涼太は嬉しそうにしていた。文句を言いつつも、陽向を慈しむように凝視していた。
「こうして寝ていると、思い出すよな」
涼太の追撃を躱すために、寝たふりをしていた。陽向は疲れていたのか、早々に眠りについた。
イビキが聞こえてきて、涼太は顔を覗き込んだ。強がってはいるが、誰よりも繊細な初恋の子の寝顔を。
そこで、幼稚園の時のことを思い出していた。陽向は、お泊まり会でホームシックになっていた。
「りょた……ぼく、かえる! パパとママにあいたいっ! ここいやだっ! うわーんっ!」
「ひなちゃん! ぼくもいるから、だいじょうぶ! こわくないよ!」
「ほんとに、いてくれる?」
「うんっ! ずっとここにいるよ! だから、なかないでっ!」
「もうぼく、なかないよっ!」
幼かった陽向の目には、夜の幼稚園はお化け屋敷のように映っていた。怖いものが苦手で、光がないと寝ることができない。
そんな陽向は、真っ暗闇で寝ることはできない。先生たちがいくら宥めても、泣き喚いていた。
この年の子だと、不思議ではない。そのため先生たちも慣れっこで、泣き疲れて寝る子が多かった。
そのため直ぐに寝るだろうと思っていたが、無駄に体力のある陽向は寝なかった。
遂には、寝ている涼太を起こしていた。彼に抱きつき、耳元で大声で泣いていた。
他の子も起きてしまい、ホール内はプチパニックになった。その中には、幼い佐伯も混じっていた。
彼はどんなに煩くても、平然と寝ていた。涼太は眠たい目を擦って、陽向の頭を撫でた。
泣いていた陽向は、涼太の顔を見ると泣き止んだ。涙目になりながらも、首を傾げていた。
指を咥え、涼太を見つめる。この頃は同じぐらいの身長だったため、目線は同じだった。
涼太の服を掴み、満面の笑みを浮かべた。歯が生え揃っていなくて、所々隙間が空いていた。
涼太も嬉しそうに、その笑顔を見つめた。その光景を見ていた他の園児たちも、静かに布団に入った。
笑顔の裏で、涼太も怖がっていた。だけど泣き喚く陽向は、もっと怖いだろうと思っていた。
自分に言い聞かせるように、何度も声をかけていた。先生はそれに気がつき、涼太の背中を優しく摩った。
「ひなちゃん、いっちょのおふとんで……ねよ」
「うんっ!」
「涼太くんも陽向くんも、偉いわね。何かあったら、先生に言ってね」
「うんっ! おやしゅみ!」
「はい、おやすみ」
涼太が布団に入ろうとすると、陽向は不安そうにしていた。涼太は優しく微笑んで、首を傾げながら声をかける。
陽向の不安そうな顔が、一瞬で華やいだ。その光景を見ていた先生が、二人を褒めてくれた。
陽向は元気一杯に手を降り、涼太はお辞儀をしていた。先生は、満面の笑みで二人に布団をかけた。
同じ布団の中で、手を繋いでいた。顔を見合わせて、眠るまで微笑み合っていた。
陽向の寝相が悪くて、涼太が寒い思いをしていた。そのため先生が隣の布団に寝かしたのは、別のお話である。
「俺こそが、こいつの必死さに救われていたんだ」
「う〜」
「あはは、マジで可愛いな。よかった……もう二度と、お前の笑顔が見られないかって思って……寝てるからいいか」
頬を触ると、優しい温もりが伝わってきた。左耳を見つめ、優しく触れると体を揺らしていた。
耳元で囁くと、赤く染まっていた。涼太も寝そべり、彼を後ろから抱きしめた。
彼の首筋に顔を埋め、静かに泣いていた。彼の前では我慢していたものが、一気に溢れ出たのだ。
――ほんと、素直じゃないな。俺もこいつも……。泣きたきゃ、盛大に泣けよ。こいつは昔から、弱音を滅多に吐かねーからな。
陽向は寝息を立てながら、静かに目を開けた。背中に伝わる温もりや、首筋が濡れる感触。
それすらも、愛おしいと感じてしまう。初恋の人には、いつまでも笑ってほしい。
お互いに、呼吸を止めるほどの静寂の中。涼太の吐息が、陽向の頬を熱く濡らした。

