ラブ・ミッション・デッドライン〜祠を壊した俺たちが、男同士で愛を誓うまで〜

 陽向の心臓の音が、まるで隣で太鼓を叩かれているように耳の奥に響く。彼が照れている時の、少しだけ上がる体温。
 それが、抱きついている腰から熱波のように流れ込んでくる。不謹慎だとは思いつつも、陽向の口角は自然と上がっていた。

「早く、ミッションの内容聞かせろよ」
「誰かさんが、子供のように泣いていたからだろ」
「……すみませんでした〜」
「不貞腐れんなよ……えっと。二人はひとちゅ」
「早速噛むなよ」
「うるせー!」

 陽向はベッドに座ると、涼太は当たり前のように抱きついた。陽向は耳まで真っ赤だが、涼太に他意はない。
 彼の温もりを感じていないと、不安でおかしくなりそうだった。涼太は悪態をつきながら、不貞腐れた。

 その様子を見つめ、陽向は嬉しそうにしている。ミッションの内容を読もうとしたが、早速噛んでしまう。
 涼太は揶揄うが、陽向は大声で怒っている。いつもよりも視覚以外の五感が冴え渡っているため、いつも以上に煩かった。
 涼太は抱きつきながらも、片耳を手で覆った。陽向は必死で読んでいるが、半分以上内容が入ってこなかった。

「ところで、どういう意味だ」
「……ごくっ」
「それは【共依存のヴェール】。君たちが本当の意味で一つにならない限り、彼は永遠に光を失ったままだよ。あ、文字数……じゃなくて、尺が足りないから。早くミッション済ませちゃって」
「もう、ツッコみはいいだろ」
「佐伯か? 急に現れるなよ……怖いだろ」

 何度か読んで、やっとの思いで内容が理解できた。陽向はドヤ顔だったが、涼太には見えない。
 陽向は理解ができずに、首を傾げていた。涼太は静かに、息を飲んでいた。

 そこで佐伯が現れて、無機質に告げる。陽向にはいつものことだが、涼太には得体の知れない何者かに一瞬思えた。

 陽向の服を掴み、体を小刻みに震わせている。陽向は顔を真っ赤にしながらも、涼太の頭を撫でた。
 涼太は安心したのか、自然と笑顔になった。その光景を見つめ、佐伯は無機質にメガネをクイっと上げた。

「どわっ! いっつ」
「おいっ! 大丈夫か」
「うわー痛そー、膝から血出てんじゃん」
「ひ〜な〜たあ」
「ったく、起きる時には言えよな。まずは、朝ごはんか」
「その前に、顔を洗いたい」
「はあ……わーったよ。ったく、注文が多いやつ」

 涼太はベッドから立ち上がろうとして、派手に転んでしまった。陽向が慌てて起き上がらせて、ベッドに座らせた。
 その様子を見ていた佐伯は、他人事のように言い放った。そんな佐伯を一瞥し、陽向は嬉しそうに微笑んでいた。
 涼太は顔は見えないが、声で分かった。何故嬉しいのかは、理解できなくて首を傾げた。

 ――上から見下ろすとか、なんかいいな。しかも子供のように首を傾げるとか、可愛いすぎんだろ。

 妙な高揚感を覚えつつも、涼太の膝を手当した。涼太は微笑みながら、容赦なくここぞとばかりに使おうとした。
 陽向は文句を言いつつも、嬉しそうにしている。涼太の肩に腕を回し、その場を後にした。

「陽向、ごめんな」
「なんだよ、急に」
「俺ができないばかりに……負担を」
「俺がやるって言ってんだろ! いつもお前に頼ってばかりだし……まあ、たまにはやってやるよ! 仕方ないからな!」
「ふっ、頼りにしてるよ」
「おうっ! 泥舟に乗ったつもりでな!」
「典型的な間違い……急に不安になってきた」

 涼太は顔が見えないため、陽向にどう思われているのか不安になった。根が優しい陽向が、自分のために無理しているのではないか。
 この異界に来て、陽向は誰よりも怯えている。それを涼太に気づかれないように、振る舞っている。

 空元気なのではないかと、足手纏いになっているのではないか。急な不安が波のように押し寄せてきた。
 陽向は思っていることが顔に出やすいため、表情で理解できた。しかし今はそれができないため、涼太は焦っていた。

 ーーこのままずっと涼太が弱ければ、俺のそばにいてくれるのに。

 陽向は涼太のために、何かやりたかった。自分の中にある黒い感情を悟られないように、必死だった。
 その様子が、涼太には空元気のように写っていた。彼が初めて、自分も涼太の役に立てるという優越感と充足感を覚えたことを知る由はないだろう。

「うげー、びちょびちょ」
「文句言うんじゃねー! やってくれただけ感謝してもいいだろっ」
「あー、はいはい。俺は見えないから、念入りにな〜ふわああ」
「あー! くそっ! やりゃあいんだろっ!」

 涼太は信頼し、顔を洗うように要求した。しかし結果は、泡まみれになり全身が濡れてしまった。
 それだけでなく、床もびしょ濡れになった。このままだと危ないため、涼太は腕組みをして偉そうに指示した。
 普段なら涼太も手伝うが、今は目が見えない。そのため欠伸をしながら、高みの見物をしている。

 見えないため、想像であったが。陽向が文句を言いつつも、テキパキと動いている。
 その声や音を聞き、涼太は静かに安堵の吐息を漏らした。目が見えないため、陽向の声が聞こえるだけで安心するのだ。

「風邪引くから〜着替えさせろ〜」
「ちっ……ほら、両手上げ……」
「どうした?」
「なんでもねーよ!」

 陽向が掃除し終えたのを見計らって、涼太は急かすように声をかける。舌打ちをしながらも、献身的に身の回りの世話をしてくれる。
 いつもは甘えることはないため、涼太は内心喜んでいた。陽向も満更ではないため、意外とノリノリであった。

 両手を上げるように声をかけると、言うことを素直に聞いた。陽向は涼太のTシャツを捲り上げると、鍛え抜かれた肉体美がお出ましになった。

 涼太はこの異界に来てから、暇な時は体を鍛えていた。陽向と同じメニューをこなしていたため、かなりの筋肉がついたのだ。

 ――くそっ、同じだけやってるのに……どうして、こうも違うくなるんだよっ!

 涼太の筋肉に見惚れていると、彼は不思議そうに首を傾げる。陽向は自分の顔が見えないことを始めて、よかったと思った。
 陽向の顔はかつてないほどに、真っ赤に染まっていた。全身の熱が、顔に集中しているのかのようだった。

「くすぐってーよ」
「う! 動くんじゃねー!」
「陽向」
「んだよ」
「熱でもあるのか? 顔真っ赤だぞ」
「嘘つくんじゃねー! 見えねーだろ」
「この布、見えないけど〜熱は分かんだよ」
「べ! 別に熱なんて、ねーよ! ぞ、雑巾掛けしたからだろ」
「なるほどな〜」

 陽向は、涼太の濡れた体をタオルで拭いていた。涼太はくすぐったいと、大声で笑っていた。
 イラッとしたのか、陽向は大声で怒鳴った。そこで涼太は急に真面目な声で、彼の名前を呼んだ。

 陽向がぶっきらぼうに答えると、至って真面目に心配していた。そこにはふざけている様子はなく、本気で彼のことを想っていた。
 陽向は見えていないのに、分かるはずがない。しかし顔は真っ赤なのは、自分でも理解していた。

 そのため必要以上に大きな声が、洗面所にこだました。涼太は何かを察したのか、今度は揶揄うような話し方をした。
 陽向は戸惑っているのは、明白だった。しかし涼太はそれに気がついたが、知らないふりをした。
 涼太の体を支え、ワイシャツのボタンを留める。自分では数秒で終わる作業なのに、陽向の指先は震えていた。