ラブ・ミッション・デッドライン〜祠を壊した俺たちが、男同士で愛を誓うまで〜

「……かっこいい言い方しても、意味ねーぞ。まあ、いいや……ネックレス?」
「カッケーじゃん! 俺こっち!」
「じゃあ、俺はこっちだな。鍵か……関係ないな……って、どうでもいいのか」
「くそっ! つけらんねえ」
「貸せ、つけてやるよ」
「おうっ! ……んっ」

 近くのベンチに座り、箱を開けることにした。涼太はもしかして、何かの罠の可能性も視野にあった。
 そのため、慎重に開けることも必要だと感じていた。しかしその思惑とは裏腹に、陽向はベリベリに包装紙を破いた。

 涼太が制止しても、聞く耳を持たなかった。暫くして諦めたようで、神妙な面持ちで涼太に渡した。
 少し呆れて文句を言っていたが、丁寧に包装紙を開けた。箱を開けると、朱色と水色のペアネックレスが入っていた。

 二つ合わせると、ハートになるものだった。涼太は陽向の顔を見つめ、様子を伺った。
 しかし肝心の人は、瞳をキラキラさせていた。このネックレスの意味を絶対に理解していなかった。

 ――このハートが割れた部分、カッケー!

 涼太は呆れつつも、涼太を嬉しそうに見つめた。四苦八苦していたため、前から首に腕を回した。
 その際に、涼太の手が左耳に当たった。陽向はくすぐったいため、変な声が出てしまった。

 当の本人は気にしていないが、涼太は下半身に異常を感じた。純粋無垢な目の前の人には、何も言えなかった。

「はあ……マジで、勘弁してくれ」

 陽向がトイレに行っている間、涼太は廊下で待っていた。壁にもたれかかり、自己嫌悪に陥っていた。
 両手で顔を覆い、上を向いていた。体を震わせて、外の喧騒を聞いていた。

 この異界に来てからというもの、涼太は陽向に邪な感情を抱くようになった。
 今はそれどころじゃないため、雑念を振り払おうとする。しかし先ほどの胸元が見えてしまった。

 そのことで、疑問が確信へと変わってしまった。陽向に対するこの感情は、家族や兄弟ではない。
 それ以上になりたいという欲望があることを。陽向の泣き顔に欲情してしまった自分が、怖かった。

「ピアスを開けたあの日……真っ赤な耳と、涙で濡れたまつ毛を見た。俺の中で何かが壊れたんだ。……兄弟だなんて、嘘だ。俺はあの日から、あいつをめちゃくちゃにしたいと思っていた」

 涼太はか細く消えそうな声で、静かに涙を流していた。誰にも聞かれないように、隠そうと決めた。
 陽向は自分をそういう目で見ていないことは、分かっていた。この世界では、男同士というのは世界の理だ。

 しかし現実世界では、やはり針のむしろになる。多様性の時代とはいえ、平気で傷つけられる。
 涼太は自分のことなら、笑って誤魔化せる。しかし陽向のことになると、理性を失う時がある。

「お前ら、今度……あいつに何かしたら、社会的に抹殺してやる」
「……くそっ……」
「ごめっ」
「なんだって? 聞こえないな〜まあ、陽向に知られたら厄介だ。嫌われるわけにはいかないから。黙ってろよ」

 中学の頃、陽向がサッカー部の連中から嫌がらせを受けたことがあった。発端は、些細なことだった。
 陽向が一年生ながらに、レギュラーに選ばれた。それをよく思っていない三年たちの嫌がらせだった。

 スパイクを隠したり、パスを出さないようにしていた。しかし当の本人は、全くもって分かっていない。
 スパイクがないのは、何処かに置き忘れた。パスが貰えないのは、自分の力不足だと思っていたからだ。

 たまたまスパイクを隠していたところを、涼太が目撃した。陽向から相談を受けていたため、点と点が繋がったのだ。
 校舎裏に連れて行き、目立たないところを何度も蹴った。その頃の涼太は、誰よりも身長が高かった。

 普段はヘラヘラしているが、瞳には光が宿っていない。鋭く尖っており、殺気を放っていた。
 それもあってか、サッカー部の連中は腰を抜かしていた。数人は失禁もしており、涼太は光の宿っていない瞳で言い放った。

 陽向への嫌がらせは幕を閉じ、三年生は数人退部した。その後も何食わぬ顔で、涼太は陽向の親友を演じている。

「はあ……」
「ため息は、感心しないな」
「……なんなんだよ、いきなり来て」
「いいこと教えてあげる。この世界のみのジンクスで、夏祭りで花火を一緒に見たカップルは永遠に結ばれる」

 涼太が特大のため息をつくと、佐伯と彼氏がやってきた。佐伯は無機質な笑みを浮かべ、彼氏は涼太を睨んでいる。

 涙を拭き、二人の方を向いた。佐伯は不敵な笑みを浮かべ、涼太にジンクスを教えてくれた。
 涼太は複雑そうな表情で、後頭部を掻いた。言いたいことを言えたら満足したのか、二人はその場を後にした。

「待たせたな〜行こうぜっ」
「……ああ」
「どうしたんだ? 元気ないな。う〜ん、熱はないか」
「……っつ! 早くミッションを終わらせよう」
「おうっ」

 佐伯とは入れ違いに、陽向が顔を出した。涼太は陽向の顔を見ることができずに、俯いていた。
 しゃがみ込んでいる涼太を、心配そうに見つめている。陽向はその前にしゃがみこみ、おでことおでこをくっつけた。

 陽向の顔がいつも以上に、近くにあった。肌は少しだけ黒くなっており、健康的に見えた。
 自分よりも小さいが、意外と筋肉質。自分だけを見つめてくれて、本気で心配してくれている。

 涼太の顔は真っ赤に染まり、それと同時に妙な罪悪感が込み上げてきた。
 立ち上がり、静かに告げて歩き始めた。陽向は不思議そうに首を傾げるが異論はないため、着いて行った。

「おいっ! 涼太! 勝手に行くなっ!」
「はあ……もう、無理なのかもな」
「うわっ! ……っつ!」

 二人は再び、祭りへと繰り出した。しかし涼太は意識し過ぎて、陽向と手を繋がなかった。
 陽向は必死に涼太の名前を呼んだが、雑踏の中に紛れ込んだ。涼太には陽向の声は、届かない。

 陽向は手を繋げそうになったため、必死に伸ばした。しかし転んでしまい、立ち上がろうとした。

 右の足首を見ると、少し腫れており挫いたようだった。鈍い痛みが走り、涙目になった。
 周りの生徒たちは、陽向には興味がないようだった。陽向は惨めな思いをして、静かに泣くことしかできない。

「……うえ〜んっ!」
「ひな〜だいじょぶ?」
「りょた……うんっ」
「いこう! きんぎょすくいだよっ」
「きんぎょさんっ! いくっ」

 陽向はそこで、昔のことを思い出した。幼稚園の時に、涼太の家族と一緒に夏祭りにやってきた。
 そこで人混みで、陽向は転んでしまった。足を擦りむいてしまい、大声で泣いてしまった。