「そんな訳で、加賀美家はこたの性的指向については全く問題ない」
紬さんが今側に居ないので、さくら先輩は小太郎先輩を愛称で呼んだ。多分、小さい時にはそう呼んでたんだろう。
毎回フルネームで呼ぶのは大変だもんね。
そうか、四代前に入ったドイツ人の血が小太郎先輩をちょっと異国人っぽくしてるのか。
「ボクの家にはそういう多様性? みたいな空気が全くなくて、ボク、実の父に『気持ち悪い』って言われたことあって。母が怒って、離婚後だったんで会社に殴り込んだんですけど……」
「かっけー、お母さん」
紬先輩がお茶を持って戻ってきた。
「そう、いつも大事にしてくれるんです。いつまでも小さい時からの『ゆうちゃん』呼びを止めてくれないんですけどね」
「そっか……」
二人とも考え込んでしまった。
「優生くん、二択で考えて行こっか」
さくら先輩が道筋をつけてくれた。
「まず、言うか言わないか」
「言わなければ今は気が楽だけど、どこかで誰かから聞いたらボクが直接話すよりショック大きいと思います」
「なるほど。なら、今言うか、後で言うか」
紬先輩がケタケタ笑って言い出した。
「ねぇ、加賀美くんって真面目だけど、同性パートナー当たり前で挨拶がキスの家で育ってんだから、恋人には甘々なんじゃない? てか、それが普通と思ってるっぽくない?」
「まぁそうだけど、つまり?」
「ってことはさ、これからどんどん周りにバレる可能性がある」
「確かに」
「既に、夜中とはいえ駅前でキスしてるし」
「と言うことは……」
「加賀美くん有名人だし、目立つから身元も即バレ。このままではそう遠くない未来に世間の噂に……」
二人で揃って、ボクを見て
「外でイチャコラしないように言っときなさいよ」
「最初が肝心。ビシッと言わないと」
「えっと、母に言うか言わないかの話は?」
「それはもう出来るだけ速やかに申告しないと」
「それが一番いいと思う。そんなに優生くんを大事に思ってくれてるんならわかってくれるよ、きっと」
「こんにちはー!」
「うわ、来た」
「噂をすれば」
小太郎先輩だった。花を持って、お見舞いだ。
「こた? どうぞ。ごめん、今出られない」
麻里さんはさっきからお店の方に来客らしい。
「麻里さーん、私やるんで大丈夫です」
「つむちゃん、お願いね」
「はーい」
小太郎先輩。昨日の部活以来だ。え? どうしよう。今日ここに来ること言ってない。
「お加減はいかがですか?」
小太郎先輩の分のお茶を用意しに行った紬さんが横をすり抜けて行って、挨拶しながら中へ入ってきた小太郎先輩がボクを見つけた。
「優生くん、来てたんだぁ」
「ちょっと、加賀美小太郎氏、私のお見舞いでしょ」
「あぁ、元気そうで良かった」
さくら先輩はボクの顔を見て、また笑った。
「やだ、何この子。自分の気持ちが隠せないの? 真っ赤じゃない」
「部活でもね、バレバレで皆にからかわれてる」
マグを一つ持って来た紬さんが笑って言った。
「なんでだろう? 前こんなじゃなかったのに。なんでかわかる? 優生くん」
「……こんなカッコいい人がボクの恋人だと思うと……」
「え? じゃあ、慣れたらいいんじゃない?」
小太郎先輩はそう言うと手招きした。側へ行くと、ローテーブルに向かって胡座をかいた小太郎先輩の胡座の上に乗っけられた。
「ほらそう言うとこ」
「恋愛初心者の癖に、スタートラインが三段階上的なシードなの、ムカつく」
小太郎先輩が青いラムネ味のマカロンを食べて、紬さんの淹れたマグの紅茶を飲む間、ボクはずっとそこにいた。
「重いですよね?」
「ん? 重くないよ。なんかいい匂いする」
とうとうさくら先輩と紬さんに、
「「いちゃつくなら帰って」」
と言われて、二人で外へ出た。
「優生くんと路線バスで帰るか」
小太郎先輩と通り一つ歩いて、海の見えるバス停で手を繋いでバスを待った。
他に誰も居なくて、空にカモメ。少し離れた波打ち際にシギかな。沢山の仲間と寄せ返す波の先をちょこちょこ歩いているのが見えた。
「帰ったら先輩のこと、母さんに話します」
「うん。僕がいた方がいいなら言ってね。駆けつけるから」
それ以上、話すことも、いちゃつくこともなく駅に着いた。
気持ちが満たされている様で、世界がここで止まってしまっても構わない気がした。
ボクたち以外の人は困るだろうけど。
先輩と駅で別れて家に着くと、母が小豆を仕込んでいた。
「おかえり、ゆうちゃん」
「ただいま」
「ちょっと大量に小豆が必要になって、仕込んじゃうから晩御飯待ってね。ゆうちゃん、『三つ目の牡丹餅』って知ってる?」
ボクは、『三つ目の牡丹餅承ります』って貼ってある案内を指差した。
「そう、それ。元々はこの辺りの古い風習でね、お嫁さんを貰って子供が産まれたお祝いに、親戚やご近所とかに配るのよ」
ちょっとドキッとする話題……。
「昔は甘いものとか貴重だったから、戦後とかね、大きな牡丹餅……一個が草鞋くらいあるやつね、三つセットで貰って大喜びだったんだけど」
手元の小豆を洗ったり、選り分けたりしながら……
「もう今は、色んな嗜好品があるし、大家族みたいな家もないし、そんな大きな牡丹餅三つ、貰ったらどうしよう?ってなっちゃうから」
少し背を伸ばして、もう一度手元を見た。
「あんまりやる家なくなっちゃって。あと、流石にサイズも小さくなって。でもさ」
大量の小豆を水に浸けた。
「おめでたいから、いいよね。赤ちゃん、ってこの世の希望じゃない?」
あぁ、母さん、ボクの子供とか言い出さないで……。
「ゆうちゃんの時も配ったよ。御福分けだもんね。あの時は爺ちゃんと婆ちゃんがやってくれたけど、ゆうちゃんの子供には母さんが……」
「母さん! ごめんなさい」
「え?」
紬さんが今側に居ないので、さくら先輩は小太郎先輩を愛称で呼んだ。多分、小さい時にはそう呼んでたんだろう。
毎回フルネームで呼ぶのは大変だもんね。
そうか、四代前に入ったドイツ人の血が小太郎先輩をちょっと異国人っぽくしてるのか。
「ボクの家にはそういう多様性? みたいな空気が全くなくて、ボク、実の父に『気持ち悪い』って言われたことあって。母が怒って、離婚後だったんで会社に殴り込んだんですけど……」
「かっけー、お母さん」
紬先輩がお茶を持って戻ってきた。
「そう、いつも大事にしてくれるんです。いつまでも小さい時からの『ゆうちゃん』呼びを止めてくれないんですけどね」
「そっか……」
二人とも考え込んでしまった。
「優生くん、二択で考えて行こっか」
さくら先輩が道筋をつけてくれた。
「まず、言うか言わないか」
「言わなければ今は気が楽だけど、どこかで誰かから聞いたらボクが直接話すよりショック大きいと思います」
「なるほど。なら、今言うか、後で言うか」
紬先輩がケタケタ笑って言い出した。
「ねぇ、加賀美くんって真面目だけど、同性パートナー当たり前で挨拶がキスの家で育ってんだから、恋人には甘々なんじゃない? てか、それが普通と思ってるっぽくない?」
「まぁそうだけど、つまり?」
「ってことはさ、これからどんどん周りにバレる可能性がある」
「確かに」
「既に、夜中とはいえ駅前でキスしてるし」
「と言うことは……」
「加賀美くん有名人だし、目立つから身元も即バレ。このままではそう遠くない未来に世間の噂に……」
二人で揃って、ボクを見て
「外でイチャコラしないように言っときなさいよ」
「最初が肝心。ビシッと言わないと」
「えっと、母に言うか言わないかの話は?」
「それはもう出来るだけ速やかに申告しないと」
「それが一番いいと思う。そんなに優生くんを大事に思ってくれてるんならわかってくれるよ、きっと」
「こんにちはー!」
「うわ、来た」
「噂をすれば」
小太郎先輩だった。花を持って、お見舞いだ。
「こた? どうぞ。ごめん、今出られない」
麻里さんはさっきからお店の方に来客らしい。
「麻里さーん、私やるんで大丈夫です」
「つむちゃん、お願いね」
「はーい」
小太郎先輩。昨日の部活以来だ。え? どうしよう。今日ここに来ること言ってない。
「お加減はいかがですか?」
小太郎先輩の分のお茶を用意しに行った紬さんが横をすり抜けて行って、挨拶しながら中へ入ってきた小太郎先輩がボクを見つけた。
「優生くん、来てたんだぁ」
「ちょっと、加賀美小太郎氏、私のお見舞いでしょ」
「あぁ、元気そうで良かった」
さくら先輩はボクの顔を見て、また笑った。
「やだ、何この子。自分の気持ちが隠せないの? 真っ赤じゃない」
「部活でもね、バレバレで皆にからかわれてる」
マグを一つ持って来た紬さんが笑って言った。
「なんでだろう? 前こんなじゃなかったのに。なんでかわかる? 優生くん」
「……こんなカッコいい人がボクの恋人だと思うと……」
「え? じゃあ、慣れたらいいんじゃない?」
小太郎先輩はそう言うと手招きした。側へ行くと、ローテーブルに向かって胡座をかいた小太郎先輩の胡座の上に乗っけられた。
「ほらそう言うとこ」
「恋愛初心者の癖に、スタートラインが三段階上的なシードなの、ムカつく」
小太郎先輩が青いラムネ味のマカロンを食べて、紬さんの淹れたマグの紅茶を飲む間、ボクはずっとそこにいた。
「重いですよね?」
「ん? 重くないよ。なんかいい匂いする」
とうとうさくら先輩と紬さんに、
「「いちゃつくなら帰って」」
と言われて、二人で外へ出た。
「優生くんと路線バスで帰るか」
小太郎先輩と通り一つ歩いて、海の見えるバス停で手を繋いでバスを待った。
他に誰も居なくて、空にカモメ。少し離れた波打ち際にシギかな。沢山の仲間と寄せ返す波の先をちょこちょこ歩いているのが見えた。
「帰ったら先輩のこと、母さんに話します」
「うん。僕がいた方がいいなら言ってね。駆けつけるから」
それ以上、話すことも、いちゃつくこともなく駅に着いた。
気持ちが満たされている様で、世界がここで止まってしまっても構わない気がした。
ボクたち以外の人は困るだろうけど。
先輩と駅で別れて家に着くと、母が小豆を仕込んでいた。
「おかえり、ゆうちゃん」
「ただいま」
「ちょっと大量に小豆が必要になって、仕込んじゃうから晩御飯待ってね。ゆうちゃん、『三つ目の牡丹餅』って知ってる?」
ボクは、『三つ目の牡丹餅承ります』って貼ってある案内を指差した。
「そう、それ。元々はこの辺りの古い風習でね、お嫁さんを貰って子供が産まれたお祝いに、親戚やご近所とかに配るのよ」
ちょっとドキッとする話題……。
「昔は甘いものとか貴重だったから、戦後とかね、大きな牡丹餅……一個が草鞋くらいあるやつね、三つセットで貰って大喜びだったんだけど」
手元の小豆を洗ったり、選り分けたりしながら……
「もう今は、色んな嗜好品があるし、大家族みたいな家もないし、そんな大きな牡丹餅三つ、貰ったらどうしよう?ってなっちゃうから」
少し背を伸ばして、もう一度手元を見た。
「あんまりやる家なくなっちゃって。あと、流石にサイズも小さくなって。でもさ」
大量の小豆を水に浸けた。
「おめでたいから、いいよね。赤ちゃん、ってこの世の希望じゃない?」
あぁ、母さん、ボクの子供とか言い出さないで……。
「ゆうちゃんの時も配ったよ。御福分けだもんね。あの時は爺ちゃんと婆ちゃんがやってくれたけど、ゆうちゃんの子供には母さんが……」
「母さん! ごめんなさい」
「え?」
