先輩、ボクを

 秋の新人戦が始まる。

 一・二年生の中から全部で五名。団体三名+補欠一名、個人一名(団体の三名+一名は個人戦も出る)が選ばれる。男女それぞれに。

 女子に関しては部内女子の中で一番のさくら先輩の復帰が間に合うか? と言う所。ここに来て、さくら先輩を心配した紬さんが入部した。なので、二年さくら先輩、紬先輩(入部したので先輩呼びになった)一年女子、補欠も一年女子。そのほかに二年一名が個人戦に出る。
 今週さくら先輩が退院なんだけど、多分、ギリギリ……間に合うんじゃないかな。

 男子は、二年の小太郎先輩、他は二年と一年が一名ずつ団体で出る。ボクは補欠に引っかかった。後、個人戦には二年生がもう一人。

 あれ以来、ボクは小太郎先輩の顔を見ると真っ赤になってしまうので、ボクの思いは丸バレになってしまった。まだ心のどこかで引っ掛かりがあるボクは皆に気持ち悪いって言われるかな? と思っていたけど、むしろ応援されてる。あれ? そうなの?
「優生くん、加賀美先輩来たよ〜」
 とか……からかわれてる?
 
 小太郎先輩の方は立場をはっきりさせていない。恋人であるボクがいても、顔色も顔付きも変わらないから。え? 恋人って認識でいいんだよね? あんまりいつもと違わないので不安になるけど、たまに誰も見えないところでウインクしてきたりするから、間違った認識ではないんだろう。
 ボクが隅っこで顔を赤くして崩れ落ちてたら、ウインク攻撃で被弾した後だ。

 おはようとおやすみは必ずチャットするようになった。そのまま暫くやり取りしたりする。
「小太郎先輩、ウインク攻撃やめて下さい。立ち上がれなくなる」
「え? だって優生くんが、その前に可愛い攻撃して来てるんだけど? 自覚ない?」
 ……割と普通にバカップルな仕上がり具合……。それは自覚ある。

 これが本当に付き合ってるって言う事なら、ボクはこの事を伝えなくちゃいけない人がいる。
 二年前に事件がきっかけで、離婚して、ボクの為に家事と慣れない仕事をしながら、頑張ってくれている人に。
 照れくさくて、いろんな事を伝えないまま誤魔化してきたけど、小太郎先輩のことはちゃんと伝えたい。

 母に。

 ……なんて? なんて言ったら、母を傷つけなくて済むんだろうか?
 これは、あれだ。緊急女子会開催要請だ。木曜午後、さくら先輩の家に集合で。

 部活の無い、木曜放課後。
 この前のグループチャットでさくら先輩の家に行ってもいいか確認して……来た。今回は商店街の洋菓子店のクッキーとかマカロンとかの詰め合わせを持参。母に内緒でお店の和菓子は持ち出せなかったので。

「こんにちは〜」
 声をかけると、すぐ麻里さんの声がした。
「あー、優生くん。ごめん、今手が離せないから、そのまま二階の桃子の部屋へ行って」
「はい。お邪魔します」

「こんにちは、具合どうですか?」
 ドアをノックして、開けると、やっぱりもう紬先輩もいた。
「順調だけど、やっぱまだ痛い」
「新人戦に間に合わせて下さいよ」
「そのつもりだけど、練習しばらく出来ないからなぁ」
 さくら先輩はベットの上でクッション重ねて寄りかかっていた。

「「で? 」」
 あんまりハッキリ言わないようにしようって思っていたのに、そんなの、この二人に通用する訳がなかった。結局全部話してしまった。
「ストラップをご提示ください」
「持ってるんでしょ」

 リンゴ黒柴を見て、二人は爆笑。
「いたーい……死んじゃう。笑かさないで」
 手術の後が痛むさくら先輩に言われたけど、見せろって言うから見せただけで。
「目が……目付きが……そっくり」
 紬先輩が息も絶え絶えだった。
「もう返して下さい」
 二人からストラップを取り上げて大事にクロスボディバッグに仕舞う。

「相談したいのは、母にこの事を言いたいんですけど、どんなふうに言ったらいいかなと」
「あー……、難しいよね。カミングアウト」
「さくら先輩と紬さんはご家族にどんな風に言ったんですか?」
 さくら先輩は紬さんに緑のピスタチオのマカロンを取ってもらって食べていた。
「私たちはさ、幼稚園の頃からだから。もう、両家とも諦めてる感じ。仕方ないかって」
 紬さんもピンクのストロベリーのマカロンを食べて
「麻里さんが元々加賀美家出身だから、ハードル低いしね。うちの親も小学校の頃に諦めがついた感じ」
 ボクは黄色のレモンのマカロンを齧った。
「加賀美家って、正胤さんと悠人さんのことですか?」
「それもあるけど。私の母の麻里さんの最初の結婚はすごく若くて二十歳くらいで。加賀美小太郎氏のお父さんの炎さんが生まれてすぐ、旦那さんが亡くなってしまったので麻里さんは実家の加賀美家に戻って、家事と子育てをしたんですって、兄の正胤さんと悠人さんと一緒に。炎さんが成人してからうちの父と再婚したらしい。で、炎さんは学生結婚で医大生の時に早希さんと結婚して、二人して大学に通いながら出産子育てを加賀美家総出でやって、加賀美小太郎氏と私が同い年だからって、ウチにまで預けに来たりして。」
「おばあちゃんちではあるもんね。お茶入れてくるね」
 紬さんは勝手知ったる……で、麻里さんに声をかけて、台所に行った。

「正胤さんと悠人さん以前の話なんだけど。正胤さんのお爺さんが大正時代とかに、ドイツ人と愛し合って。男同士だから結婚できなかったんだけど、ドイツ人の彼の双子の妹さんの子を養子にもらって後継にしたの。正胤さんのお父さんね」

 加賀美家の家系図はややこしそうだ。