先輩、ボクを

「好き」とは?

 心がひかれること。気に入ること。また、そのさま。

 ……明日学校なのに、寝られない。辞書で調べた。

 それからAIにも聞いた。
――「好き」って、短いのにやたら奥行きある言葉だよね。
ざっくり言うと、
その人(もの)を大事に思って、気持ちが自然とそっちに向く状態。
でも中身はけっこうグラデーションがある。
軽めだと
•一緒にいると楽
•もっと知りたい
•なんとなく気になる
深くなると
•相手の嬉しいが自分の嬉しいになる
•嫌なとこ含めて気にかかる
•失いたくないと思う
さらに踏み込むと
•自分の時間や選択に影響が出る
•傷つく可能性があっても関わりたい
だから「好き」って、単なる好みよりも
**“心が動いてる+関わろうとしてる”**感じ。

 AIって生きてないのにヒトの気持ちが分かるなんてすごい。
ボクの「好き」は小太郎先輩と一緒にいると楽しい、もっと知りたい、すごく気になる、小太郎先輩が嬉しいとボクも嬉しい、嫌なとこはない、失いたくない、今寝られない影響が出てる、傷つく可能性があってもいい、けど、傷つけたり迷惑をかけたくない。……どの段階だ?

 眠れないので、授業があって見られなかった金曜日の分の小太郎先輩の試合の様子を、寝たままスマホで見た。
 初日。少し緊張した顔付きの小太郎先輩。腰の帯に被せた袴のポコって出た後ろ姿もカッコいい。距離のある遠的ならではの弓形な飛型の矢を見送る小太郎先輩。
 休憩の間に行われた各県の選手のインタビューをみた。近い近い近い。佐々木さんが小太郎先輩に近い。小太郎先輩を見る目が優しすぎてムカつく。どこか指さして何かを囁いてたけど、小太郎先輩にほっぺが触りそうでしょーが。試合後のホテルの部屋でもこの近さなんだろうか?

 全然寝られない、全然寝られない、全然寝られない。

 知らないうちにスマホ握ったまま眠っていて、動画がずっと回っていた。朝方気がついたら充電0だった。

 今日、決勝トーナメント。こっちに戻るのは何時だろうか?身支度をしている間に充電をしたら、小太郎先輩から連絡が来ていた。
「おはよう。今日は午後まで試合と閉会式があるので、多分、そっち最終電車とかになりそう」
 ごめんねのスタンプ。
「嶺南の駅までは車の迎えを頼むので、夜遅くて悪いんだけど、お土産を渡しに行ってもいいかな?」
 一時間ぐらい前にチャットが届いていた。もう、会場入りしたのかな?
「大丈夫です。表に出るので近くなったら時間連絡ください」
 尻尾を振る豆柴のスタンプ。
「今、充電して連絡に気がつきました。もう、出かけちゃったかな?今日、頑張ってください」
 それから、ドキドキしながら付け足した。
「早く会いたいです」

 一日中ソワソワしていた。
 小太郎先輩の決勝トーナメントの結果はもちろん気になるけど、遠征後の深夜、会いに来るなんて。

 決勝トーナメントの午前中には学校で休み時間の度にネットの配信を確認した。たった十分しかない休み時間に、教室の移動があったり、先生によっては休み時間に食い込んで授業をしたりする。いつもの百倍イライラした。
 小太郎先輩はずっといつもと変わらない様子でいつもと変わらない顔をして、弓を引いていた。
 ボクだけをドキドキさせてズルいな。

 全国大会の結果は五位だった。今日はレギュラー一人が補欠の選手と交代していた。体調不良かな。

 そんな中、小太郎先輩は皆中。予選から全部中てている。昼休みに結果は確認したけど、ほとんど試合は見られていない。
 午後の授業を終え視聴覚室に行って、部員と先生方で朝からの試合を早送りで見ていたら、表彰式と閉会式になった。
 小太郎先輩は個人で特別表彰を受けていた。
「怪物級」「別格」「異次元」と解説の人が言っていた。

 あぁ、早く帰ってこないかなぁ。

 家に帰ってご飯を食べてお風呂に入って……まだ時間がある。
 いつものようにパジャマを着てから、あ、そうだったと服を着た。時計を見たり、時計を見たり、時計を見たりして十時半を過ぎたところで、連絡が来た。

「本当に遅くなってごめん。あと一時間で駅に着く」
「じゃあ、駅に行くね。家にいても落ち着かなくって」
「駅まで来てくれるの? それなら、迎えは次の電車の到着時間で頼もうかな。優生くん、遅い時間だけど、四十分くらい話せる?」
「小太郎先輩と一緒なら朝までだって。まぁ、田舎だから、朝まで居られる店ないんですけどね」
「確かに。高校生はカラオケももう入れないよね」
 小太郎先輩にそんな知識あるの不思議。忙しくてカラオケとか行かない感じなのに。
「じゃあ、たくさん着て来て。風邪ひかないように」
 はい、って豆柴が敬礼しているスタンプ。

 あと一時間……ジタバタしちゃう気持ち。
 あったかいお茶とか飲み物用意するか? いや、自販機にあるな……。上着何にしよう? 先輩が心配しないくらい暖かそうなのにしよう。
 到着十分前にそっと家を出た。あれ? これ母さんに言うべき? いや、別にお土産貰いに行くだけだから、いいよね。

 玄関ドアが音を立てないように静かに開けた。閉める時も、いつもの五倍はゆっくり閉めた。

 駅に着いて少しすると、ホームに電車がスーッと入ってきた。
 ……心臓が痛い。