「治ると言うより、酷くならないように飲んでる薬が全く効かなくてね」
紬さんがイチゴ牛乳を奢ってくれた。自分はコーヒー牛乳を飲んでいる。二人揃って……ボクのイメージはイチゴ牛乳ですか?
「さくら先輩がまた、倒れたって聞きました」
「そうなの。昨日教室で倒れて、しばらく保健室にいたんだけど、麻里さんが来て病院に連れて行った」
「もう大丈夫、じゃなかったんですね」
「期待してたんだけどね、うまく行くことを。……麻里さんって、もものお母さんで、加賀美くんのお祖母さんね」
「はい」
まだ放課後少ししか経っていないのに、もう自転車置き場に自転車を撮りに来る生徒は少なくなっていた。
「ももが、このままだと受験勉強も部活も何にもできないからって、子宮摘出を強く希望してね、結局、子宮と卵巣は片方、取っちゃうことになったの」
「……そうなんですか」
「病気に負けて、人生を諦めたくないって言われたら、誰も反対できなくて……。若い分、このままだと病気と付き合う期間が長すぎるし、痛みもひどくて可哀想で」
「手術って大変なんですか? あ、多分大変じゃない手術ってないんだと思うんですけど、ボク、よくわからなくて」
「前回、お腹切ってるから、今回もまた切るらしい。手術自体は心臓とか脳の手術に比べたら、大変じゃないって」
「それでも、心配ですよね」
「それはそう」
自転車に乗らずに引いていく女子と楽しそうに話す男子。車輪をカラカラ言わせて、ボクたちの前を通り過ぎた。
「いつですか? 手術」
「来週。それまでに痛みが落ち着いたら一回家に帰って来るかも」
「病院はちょっとお見舞いにいけないので、さくら先輩のお宅に伺ってもいいですかねぇ」
「そうだよね、思春期男子に婦人科病棟とか無理だよね。なんか変な誤解を受けるかもしれないしね」
それはちょっと面白い、と呟いて紬さんは、やっと笑った。
「いんじゃない?聞いておくよ。チャットアプリで連絡するね」
「お願いします。後、お見舞い、何がいいですかね?」
「和菓子がいいよ。優生くんちのすごく美味しいし。この前めっちゃ喜んでたもん。食べ物に制限ないし」
ありがたい。母さんにも言って、サービスしてもらおう。
来週末に小太郎先輩の国民スポーツ大会の全国大会が始まる。三泊四日。ボクは行けないけど。手術はその前かな。
「あ、そうか、小太郎先輩にチャットで聞けばよかったんだ」
二人はいとこで同じクラスなんだから、知ってるはず。
とは思っても、ボクには、さくら先輩の話を小太郎先輩から聞くのはできない。なんか嫌なんだ。
小太郎先輩は今、全国大会の事で忙しいはず、だし。
「よっ」
家に帰ってから、チャットアプリに直接さくら先輩から連絡が来た。パンクな女の人(多分……男の人かも)が塀を乗り越えながら挨拶してるスタンプ。
「紬に様子聞いたんだって?」
「元気そうなスタンプですね。チャットできないくらいかと思って。それにきっと紬さんはなんでも知ってるだろうと」
「うん。明日一回退院する。お見舞い来てくれるんだって?」
「伺います。でも、大丈夫ですか?」
「嵐が通り過ぎたから比較的大丈夫。暇なので歓迎する」
「じゃあ、部活ないから木曜の午後、伺います」
OKのスタンプ。
木曜日は、家に帰ってから路線バスでさくら先輩の家に向かった。駅前から、バスで二十分くらい。海岸通りから内陸に一本入った通りにある呉服屋さんだった。
「こんにちは」
入り口がわからず、お店に挨拶すると、横の通路から入った先に自宅の玄関があると教えてもらった。
斎藤と表札の出ている玄関のインターホンを鳴らす。
「はい」
「あの、三崎優生と言います。さくら先ぱ……桃子さんのお見舞いで伺いました」
「優生くん!」
ドアが開いて、顔を出したのは麻里さん。さくら先輩のお母さんで、小太郎先輩のお祖母さんで、正胤さんの妹さんである麻里さんだ。
「来てくれてありがとう。桃子喜んでる。優生くんは可愛い、弟みたいって言ってて。元気出るんじゃないかな」
麻里さんはどう考えても六十歳とかくらいだと思うけど、うちの母よりちょっと上くらいにしか見えない。
「これ、お見舞いです」
「ありがとう。和菓子屋さんなんだって? お茶を入れて持っていくから、桃子の部屋へ上がって。二階の奥の右側。さっき紬来たから行くと賑やかでわかると思う」
お邪魔します、と言って上がって靴を揃える。よそのお宅は少し緊張する。ぺこりとお辞儀をして、二階に行く階段を昇る。
お店のスペースの二階も自宅なのか、とても広い。何部屋もドアが並んでいた。窓から秋の日が優しく壁に当たって一部虹色に光っていた。
奥の方から、賑やか、ではないけど声がした。少し開いたドアをノックしようと構えると、中の様子が見えた。
開いた窓からの風で広がるレースカーテン。もう一つの窓から差す陽の光で目の前がキラキラして見えた。
ベッドに横になってるさくら先輩の手を取って自分の両手で包んで祈るように額をつけた紬さん。
教会の絵のようだった。
あ……そうか。幼馴染で、友人で……恋人同士だったのか。
紬さんがイチゴ牛乳を奢ってくれた。自分はコーヒー牛乳を飲んでいる。二人揃って……ボクのイメージはイチゴ牛乳ですか?
「さくら先輩がまた、倒れたって聞きました」
「そうなの。昨日教室で倒れて、しばらく保健室にいたんだけど、麻里さんが来て病院に連れて行った」
「もう大丈夫、じゃなかったんですね」
「期待してたんだけどね、うまく行くことを。……麻里さんって、もものお母さんで、加賀美くんのお祖母さんね」
「はい」
まだ放課後少ししか経っていないのに、もう自転車置き場に自転車を撮りに来る生徒は少なくなっていた。
「ももが、このままだと受験勉強も部活も何にもできないからって、子宮摘出を強く希望してね、結局、子宮と卵巣は片方、取っちゃうことになったの」
「……そうなんですか」
「病気に負けて、人生を諦めたくないって言われたら、誰も反対できなくて……。若い分、このままだと病気と付き合う期間が長すぎるし、痛みもひどくて可哀想で」
「手術って大変なんですか? あ、多分大変じゃない手術ってないんだと思うんですけど、ボク、よくわからなくて」
「前回、お腹切ってるから、今回もまた切るらしい。手術自体は心臓とか脳の手術に比べたら、大変じゃないって」
「それでも、心配ですよね」
「それはそう」
自転車に乗らずに引いていく女子と楽しそうに話す男子。車輪をカラカラ言わせて、ボクたちの前を通り過ぎた。
「いつですか? 手術」
「来週。それまでに痛みが落ち着いたら一回家に帰って来るかも」
「病院はちょっとお見舞いにいけないので、さくら先輩のお宅に伺ってもいいですかねぇ」
「そうだよね、思春期男子に婦人科病棟とか無理だよね。なんか変な誤解を受けるかもしれないしね」
それはちょっと面白い、と呟いて紬さんは、やっと笑った。
「いんじゃない?聞いておくよ。チャットアプリで連絡するね」
「お願いします。後、お見舞い、何がいいですかね?」
「和菓子がいいよ。優生くんちのすごく美味しいし。この前めっちゃ喜んでたもん。食べ物に制限ないし」
ありがたい。母さんにも言って、サービスしてもらおう。
来週末に小太郎先輩の国民スポーツ大会の全国大会が始まる。三泊四日。ボクは行けないけど。手術はその前かな。
「あ、そうか、小太郎先輩にチャットで聞けばよかったんだ」
二人はいとこで同じクラスなんだから、知ってるはず。
とは思っても、ボクには、さくら先輩の話を小太郎先輩から聞くのはできない。なんか嫌なんだ。
小太郎先輩は今、全国大会の事で忙しいはず、だし。
「よっ」
家に帰ってから、チャットアプリに直接さくら先輩から連絡が来た。パンクな女の人(多分……男の人かも)が塀を乗り越えながら挨拶してるスタンプ。
「紬に様子聞いたんだって?」
「元気そうなスタンプですね。チャットできないくらいかと思って。それにきっと紬さんはなんでも知ってるだろうと」
「うん。明日一回退院する。お見舞い来てくれるんだって?」
「伺います。でも、大丈夫ですか?」
「嵐が通り過ぎたから比較的大丈夫。暇なので歓迎する」
「じゃあ、部活ないから木曜の午後、伺います」
OKのスタンプ。
木曜日は、家に帰ってから路線バスでさくら先輩の家に向かった。駅前から、バスで二十分くらい。海岸通りから内陸に一本入った通りにある呉服屋さんだった。
「こんにちは」
入り口がわからず、お店に挨拶すると、横の通路から入った先に自宅の玄関があると教えてもらった。
斎藤と表札の出ている玄関のインターホンを鳴らす。
「はい」
「あの、三崎優生と言います。さくら先ぱ……桃子さんのお見舞いで伺いました」
「優生くん!」
ドアが開いて、顔を出したのは麻里さん。さくら先輩のお母さんで、小太郎先輩のお祖母さんで、正胤さんの妹さんである麻里さんだ。
「来てくれてありがとう。桃子喜んでる。優生くんは可愛い、弟みたいって言ってて。元気出るんじゃないかな」
麻里さんはどう考えても六十歳とかくらいだと思うけど、うちの母よりちょっと上くらいにしか見えない。
「これ、お見舞いです」
「ありがとう。和菓子屋さんなんだって? お茶を入れて持っていくから、桃子の部屋へ上がって。二階の奥の右側。さっき紬来たから行くと賑やかでわかると思う」
お邪魔します、と言って上がって靴を揃える。よそのお宅は少し緊張する。ぺこりとお辞儀をして、二階に行く階段を昇る。
お店のスペースの二階も自宅なのか、とても広い。何部屋もドアが並んでいた。窓から秋の日が優しく壁に当たって一部虹色に光っていた。
奥の方から、賑やか、ではないけど声がした。少し開いたドアをノックしようと構えると、中の様子が見えた。
開いた窓からの風で広がるレースカーテン。もう一つの窓から差す陽の光で目の前がキラキラして見えた。
ベッドに横になってるさくら先輩の手を取って自分の両手で包んで祈るように額をつけた紬さん。
教会の絵のようだった。
あ……そうか。幼馴染で、友人で……恋人同士だったのか。
