「おはようございまーす」
部活の挨拶が午後でもこれなのは、水商売や芸能界と同じ理由らしい。挨拶で上下関係が区別できるから。
「おはよ……え? 優生くん、ほっぺどうした?」
さくら先輩が、ボクの頬を見て言った。残念ながら、少しアザになっていた。
「昨日、小太郎先輩のところで練習したんですけど、空筈になって、弦が外れて中りました」
「うわっ痛そ」
「すぐ冷やして貰ったので、多分これでも何にもしなかったよりいい筈です」
「優生くんのほっぺ、やわっこそうだもんね。ニキビとか出来た事ないでしょ」
「ないです。後、髭も生えないし、手足のムダ毛も出ないです。脇とデリケートゾーンのムダ毛もほんの……」
「捨て身の告白ありがとうございます。いや、どうした? そんなこと言う子じゃなかったでしょ」
「なんか、今まで気にしてたいろんな事が、どうでも良くなりました」
「へー」
「はいよ」
さくら先輩が校内の自販機でイチゴ牛乳を奢ってくれた。自分はコーヒー牛乳を飲んでいる。
部活を普通にやって、着替えて、自転車置き場と昇降口の間のベンチに座って二人で飲んでいる。
ボクたちは一緒に週末の昇段試験を受けに行く。ボクと紬さんは午前でさくら先輩は午後。同じ会場なので、さくら先輩が終わるのを待って、一緒に遅めのお昼ご飯を食べに行くことにした。集合時間を打ち合わせてから、さっきの話の続きだ。
「小太郎先輩のお祖父さんと悠人さんに会いました」
「あーなるほど」
「さくら先輩は知ってるんですよね? 全部」
「まぁ、私の母の実家だし、加賀美小太郎氏は小さい時よくうちに預けられてたし」
「正胤さんと悠人さんの様子を見て、素敵だなと思って。全然気持ち悪くなんかないし、気にすることないって思って」
「そうだね」
「……ボク多分、小太郎先輩のことが好きです」
「だろうね、見てるとそう思う」
「さくら先輩とか紬さんは競合しない感じですか?」
「加賀美小太郎氏を恋人的な好きかどうかってこと?」
「そうです」
「全然大丈夫! 私はそう言う好きじゃない。いとこ的な感じ……紬は……」
そこに図書室で自習しながらさくら先輩を待っていた紬さんが現れた。部活やってないけど、いつも二人は一緒に帰るらしい。
「なんの話?」
「私とか紬は加賀美小太郎氏を恋愛的な意味で好きかどうかって」
「いやいやいや、ないわぁ」
「だよね、優生くんがやっと自分の気持ちに気づいたんだって」
「ほうほう……あれ?ほっぺどうしたの?」
さっきより詳しくもう一度昨日の話をした。さくら先輩とのニキビと体毛の話ももう一度した。紬さんが大受けした。
「優生くん、私より手足のムダ毛ないもんね。あ、そういえば、加賀美くん、胸毛生えてるって男子が言ってた」
「あー、そうね。弓道の時は、夏も下にTシャツ着ちゃってるから着替えの時でも見えないけど、そういや、中学の時水泳授業の前に剃ってるって言ってた。そのままだと、なんかエロく見えるって気にしてた。高校はプールないからよかったよね」
「大変じゃん。欧米の血?ひいひいお祖父さんだかが、ドイツ人なんだっけ?」
「そう。私にはほぼその遺伝出なかったなぁ。父の血の強さよ。麻里さんは少しそれっぽいけど。え? 何? 優生くん、真っ赤じゃん!」
「どうした? あ……想像しちゃったか、加賀美くんの胸毛」
「う……さくら先輩は手足の長さに血筋が出てますよ。ボク、帰ります。お疲れ様でした。イチゴ牛乳ご馳走様でした」
「逃げ方まで似てきちゃって」
さくら先輩の声が聞こえた。
「ねぇ、もも、私たち二人揃ってるとおばさんっぽくない?」
「えー、ヤダー」
二人の笑い声に送られて帰った。
九月の末、まだまだ暑いけど、流石に少し秋の気配がしてきた。朝晩、虫の声がする。
嶺南の駅で待ち合わせて、さくら先輩と紬さんと一緒に電車に乗る。もともと都会の電車のような混雑はないけど、土日はさらに空いている。
三人で向かい合わせのボックスシートに座った。これはヤバい。ボク、二人のエジキになっちゃう。
「さくら先輩、体調はその後どうなんですか?」
そこそこ説明に時間がかかって、ボクが全く関係ない話を振る。
「まあまあかな」
え? 終わり?
「具合悪くないならいいんですけど」
「今のところはね。でも、体質的に余計な細胞は元気いっぱいだし、薬の効きもイマイチ」
「ボクにできる事あったら言ってくださいね」
「あれ? 頼もしくなっちゃった」
「ははは。昇段試験の話しないですか?」
「そうだね。てか、紬、寝てる?」
紬さんは窓に寄りかかって目を閉じていた。太陽が当たる向きではなかったので、暑くはない。
「紬が目を覚ますような話をしないとね」
「優生くん、告白しないの?」
さくら先輩に話してしまったら、小太郎先輩に話したも同然な気がする。
「……したほうがいいですか?」
「え? しないの?」
「小太郎先輩が男同士について拘りがないのは分かったんですけど、それはそれとして。言ってしまって断られたり、気まずくなったりするなら、このままずっと黙って追いかけたほうがいいのかなって思いもあります」
「加賀美小太郎氏に彼女が出来たり、結婚したりしても? そんなの我慢できる?」
「……やってみないとなんとも」
「優生くん」
さくら先輩はボクじゃなくて、寝ている紬さんをみながら言った。
「私たち、若いからまだそんな事ピンと来ないけど、何があるかわからないよ、人生は」
ちょっと笑って続けた。
「いつ何があっても、後悔しないように生きたらいいじゃん。」
紬さんが片目を開けて言った。
「もも、やめて、フラグ立つ」
「大丈夫。ゲームじゃないんだから」
ボクに向かって今度は言った。
「加賀美小太郎氏はなんか言ってない?」
「……大会終わったら、会おうって」
「前もなんか言ってたよね。あいつ、気が長すぎ。同い年とは思えん」
「自分に自信があって、後は、自分側のハードルが越えられればいい、みたいな? 人事を尽くして天命を待つ的な」
紬さん、寝起きとは思えない。
「後二週間かぁ……楽しみだね」
部活の挨拶が午後でもこれなのは、水商売や芸能界と同じ理由らしい。挨拶で上下関係が区別できるから。
「おはよ……え? 優生くん、ほっぺどうした?」
さくら先輩が、ボクの頬を見て言った。残念ながら、少しアザになっていた。
「昨日、小太郎先輩のところで練習したんですけど、空筈になって、弦が外れて中りました」
「うわっ痛そ」
「すぐ冷やして貰ったので、多分これでも何にもしなかったよりいい筈です」
「優生くんのほっぺ、やわっこそうだもんね。ニキビとか出来た事ないでしょ」
「ないです。後、髭も生えないし、手足のムダ毛も出ないです。脇とデリケートゾーンのムダ毛もほんの……」
「捨て身の告白ありがとうございます。いや、どうした? そんなこと言う子じゃなかったでしょ」
「なんか、今まで気にしてたいろんな事が、どうでも良くなりました」
「へー」
「はいよ」
さくら先輩が校内の自販機でイチゴ牛乳を奢ってくれた。自分はコーヒー牛乳を飲んでいる。
部活を普通にやって、着替えて、自転車置き場と昇降口の間のベンチに座って二人で飲んでいる。
ボクたちは一緒に週末の昇段試験を受けに行く。ボクと紬さんは午前でさくら先輩は午後。同じ会場なので、さくら先輩が終わるのを待って、一緒に遅めのお昼ご飯を食べに行くことにした。集合時間を打ち合わせてから、さっきの話の続きだ。
「小太郎先輩のお祖父さんと悠人さんに会いました」
「あーなるほど」
「さくら先輩は知ってるんですよね? 全部」
「まぁ、私の母の実家だし、加賀美小太郎氏は小さい時よくうちに預けられてたし」
「正胤さんと悠人さんの様子を見て、素敵だなと思って。全然気持ち悪くなんかないし、気にすることないって思って」
「そうだね」
「……ボク多分、小太郎先輩のことが好きです」
「だろうね、見てるとそう思う」
「さくら先輩とか紬さんは競合しない感じですか?」
「加賀美小太郎氏を恋人的な好きかどうかってこと?」
「そうです」
「全然大丈夫! 私はそう言う好きじゃない。いとこ的な感じ……紬は……」
そこに図書室で自習しながらさくら先輩を待っていた紬さんが現れた。部活やってないけど、いつも二人は一緒に帰るらしい。
「なんの話?」
「私とか紬は加賀美小太郎氏を恋愛的な意味で好きかどうかって」
「いやいやいや、ないわぁ」
「だよね、優生くんがやっと自分の気持ちに気づいたんだって」
「ほうほう……あれ?ほっぺどうしたの?」
さっきより詳しくもう一度昨日の話をした。さくら先輩とのニキビと体毛の話ももう一度した。紬さんが大受けした。
「優生くん、私より手足のムダ毛ないもんね。あ、そういえば、加賀美くん、胸毛生えてるって男子が言ってた」
「あー、そうね。弓道の時は、夏も下にTシャツ着ちゃってるから着替えの時でも見えないけど、そういや、中学の時水泳授業の前に剃ってるって言ってた。そのままだと、なんかエロく見えるって気にしてた。高校はプールないからよかったよね」
「大変じゃん。欧米の血?ひいひいお祖父さんだかが、ドイツ人なんだっけ?」
「そう。私にはほぼその遺伝出なかったなぁ。父の血の強さよ。麻里さんは少しそれっぽいけど。え? 何? 優生くん、真っ赤じゃん!」
「どうした? あ……想像しちゃったか、加賀美くんの胸毛」
「う……さくら先輩は手足の長さに血筋が出てますよ。ボク、帰ります。お疲れ様でした。イチゴ牛乳ご馳走様でした」
「逃げ方まで似てきちゃって」
さくら先輩の声が聞こえた。
「ねぇ、もも、私たち二人揃ってるとおばさんっぽくない?」
「えー、ヤダー」
二人の笑い声に送られて帰った。
九月の末、まだまだ暑いけど、流石に少し秋の気配がしてきた。朝晩、虫の声がする。
嶺南の駅で待ち合わせて、さくら先輩と紬さんと一緒に電車に乗る。もともと都会の電車のような混雑はないけど、土日はさらに空いている。
三人で向かい合わせのボックスシートに座った。これはヤバい。ボク、二人のエジキになっちゃう。
「さくら先輩、体調はその後どうなんですか?」
そこそこ説明に時間がかかって、ボクが全く関係ない話を振る。
「まあまあかな」
え? 終わり?
「具合悪くないならいいんですけど」
「今のところはね。でも、体質的に余計な細胞は元気いっぱいだし、薬の効きもイマイチ」
「ボクにできる事あったら言ってくださいね」
「あれ? 頼もしくなっちゃった」
「ははは。昇段試験の話しないですか?」
「そうだね。てか、紬、寝てる?」
紬さんは窓に寄りかかって目を閉じていた。太陽が当たる向きではなかったので、暑くはない。
「紬が目を覚ますような話をしないとね」
「優生くん、告白しないの?」
さくら先輩に話してしまったら、小太郎先輩に話したも同然な気がする。
「……したほうがいいですか?」
「え? しないの?」
「小太郎先輩が男同士について拘りがないのは分かったんですけど、それはそれとして。言ってしまって断られたり、気まずくなったりするなら、このままずっと黙って追いかけたほうがいいのかなって思いもあります」
「加賀美小太郎氏に彼女が出来たり、結婚したりしても? そんなの我慢できる?」
「……やってみないとなんとも」
「優生くん」
さくら先輩はボクじゃなくて、寝ている紬さんをみながら言った。
「私たち、若いからまだそんな事ピンと来ないけど、何があるかわからないよ、人生は」
ちょっと笑って続けた。
「いつ何があっても、後悔しないように生きたらいいじゃん。」
紬さんが片目を開けて言った。
「もも、やめて、フラグ立つ」
「大丈夫。ゲームじゃないんだから」
ボクに向かって今度は言った。
「加賀美小太郎氏はなんか言ってない?」
「……大会終わったら、会おうって」
「前もなんか言ってたよね。あいつ、気が長すぎ。同い年とは思えん」
「自分に自信があって、後は、自分側のハードルが越えられればいい、みたいな? 人事を尽くして天命を待つ的な」
紬さん、寝起きとは思えない。
「後二週間かぁ……楽しみだね」
