「遊園地へ行くんですか? もし一人なら、一緒に行きませんか?」
さっきから、チラチラこっちを見ていた女の子二人組が話しかけて来た。髪の毛もクルンクルンのふわふわだ。
ブロック大会が開催されるのがその遊園地の裏側のスポーツ施設と公園。だから降りる駅は一緒なんだけど。
「誰かと待ち合わせとかですか? もし男の人だったら、四人ででも」
ボクはふわふわな女の子になりたいけど、ふわふわな女の子と付き合いたい訳じゃない。
「ボク、遊園地じゃなくて、国民スポーツ大会の応援に行くんです」
「えー、残念。じゃあ、連絡先とか教えてもらったり出来ますか?」
「えっと、ちょっと……」
話してると、ボクの横に隣の車両から移動してきて誰かが座った。
「この子、連絡先とか教えらんないのよ、事務所に言われてんの」
女の子たちは残念そうに元の席に戻って行った。
「さくら先輩の登場タイミング!」
「優生くん、またナンパされてたの?」
「外に出る度に声かけられる感じなら、もう、お断りの定型文決めといたらどう? 彼女いるんで無理です、とか」
「しれっと嘘つける自信ないです」
「じゃあ、心に決めた人がいるんで、なら?」
「……」
「ねぇ、キラキラ女子だったね、今の子達」
「ボクがふわふわキラキラ女子ならよかった」
「あー、わかる。私も男の子だったら、よかった。そうしたらこの病気とか関係ないのに。優生くんと『私たち、入れ替わってる〜』ならよかったかな」
「……先輩、ふわふわキラキラ女子じゃないじゃないですか」
「おいっ」
デコピン。
「加賀美小太郎氏はふわふわキラキラ女子とか苦手そう」
「……フルネーム呼びですか?」
「この前加賀美小太郎氏が私のこと、ももちゃんって呼んだもんだから、紬怒っちゃってさ。お互いフルネーム呼びにしなさいって」
「特別感ってやつですか?」
「そー、可愛いよね。紬」
「そんな可愛いわがまま言ってみたいです」
「言えば良いじゃん! 言おうよ、わがまま」
駅に着いて、バスに乗り換えた。遊園地の敷地がデカすぎて、裏手のスポーツ施設まで歩くと二十分くらいかかる。目的地は沢山の路線バスのルートに入っていたのでスポーツ施設に行くのにどれに乗っても良さそう。暑くて、歩いたら地面に焦げつきそうだった。
「こっちだよ」
さくら先輩に袖を引かれてバスを降りる。
「遠的かららしい。公園に特設会場出来てるらしい」
「特設会場……」
スポーツ施設の隣接公園の一角に遠的の施設が出来ていた。
芝生の上に白い布を張った特設会場は神々しくて、まるで神様が降りてくる、建て替えられたばかりの神社のように見える。
そもそも遠的は的まで六十メートルという大きさのせいで設備のある学校が少ない。嶺南も近的しかないし、それは普通だ。
「さくら先輩、これ、三人立ちの団体戦で県対抗って認識ですよね? 小太郎先輩と同じチームなのは他校の三年生ですか?」
「強化選手に決まってから、一ヶ月ちょっと合わせてるからそこそこ息も合ってるわよね。インターハイではライバルだったのに」
「他の二人も遠的経験者なんですね?」
「インハイの県大会で加賀美小太郎氏と競射で争った三年生は遠的設備もある高校。もう一人は多分、どこかの弓道場で遠的やってるんじゃないかな」
「全然違いますもんね、未経験で遠的は出来ないですもんね」
「落だね、加賀美小太郎氏」
三人いる、最後の順番が小太郎先輩だった。
祈るように見守る。遠的は的が大きいけど、勝敗は中る場所で点数制だ。
小太郎先輩は十点連続で、大前の六点も、中の七点もカバーした。
見慣れた近的とは違う遠的の矢は空に向かって、放物線を描いて的に吸い込まれていく。
全部の県が終わって、小太郎先輩のいる地元のチームはこの時点で二位。明日の近的も頑張って。
少年の部は午前中だったので、割と穏やかだったけど、午後の成年の部は風が出て、荒れた。それも運。
午後も少しさくら先輩と見学していると、休憩中の小太郎先輩が声をかけてきた。
「小太郎先輩、お疲れ様です。大活躍でしたね」
「応援ありがとう。また二人で一緒に来たの?」
「電車でナンパされる優生くんを助けて来たのよ」
「……ナンパ?」
小太郎先輩がボクの顔を見た。
「インハイの応援の時もナンパされてたよね、優生くん」
「ボク、どうも声掛けやすいらしくて……見るからに弱っちいから」
「あ、休憩終わりだ。監督と打ち合わせあるから、またね」
小太郎先輩は振り返りながら、
「気をつけて帰って。二人とも」
「また、明日来ます!」
「二人とも、とかついでのように」
さくら先輩がつぶやいた。僕たちは帰りも最寄り駅まで一緒に帰った。
「さくら先輩」
「ん?」
帰りの電車は土曜日の午後まだ早めでガラガラだった。向かい合わせの四人席にゆったり二人で座って、話をした。
「さくら先輩、僕のこと気持ち悪くないですか?」
「? なんで? どういう意味?」
「ボク、気持ち悪いって言われたことがあって」
「誰に? どこが? なんで?」
「身内に。多分、ボク、男のストーカーみたいなのに遭ったことがあるから」
「男に好かれて気持ち悪いってこと? そんなの、優生くんがどうにかできる問題じゃないでしょ」
「知らないうちに、周りの人を嫌な思いにさせてないか不安で」
「好きになるのが同性でも異性でも関係ないでしょ。ただ、そのストーカーが優生くんの気持ちを無視して自分の気持ちを押し付けてくるのが、気持ち悪いとかはあるけど。気持ち悪いのはそういう人で、優生くんじゃないでしょ」
「……」
「気持ち悪かったら、ショーゲン先輩とか、今日ナンパして来た子達が声かけないでしょ。自信持っていいよ。かっこいいんだよ、優生くん。弱っちくなんか見えないよ」
「さくら先輩が気持ち悪くなかったら、良いです」
「少なくとも、私や紬や加賀美小太郎氏は全然そんなこと思わないから」
乗り換えたら、少し混んできたので当たり障りのない話をして、帰った。
さっきから、チラチラこっちを見ていた女の子二人組が話しかけて来た。髪の毛もクルンクルンのふわふわだ。
ブロック大会が開催されるのがその遊園地の裏側のスポーツ施設と公園。だから降りる駅は一緒なんだけど。
「誰かと待ち合わせとかですか? もし男の人だったら、四人ででも」
ボクはふわふわな女の子になりたいけど、ふわふわな女の子と付き合いたい訳じゃない。
「ボク、遊園地じゃなくて、国民スポーツ大会の応援に行くんです」
「えー、残念。じゃあ、連絡先とか教えてもらったり出来ますか?」
「えっと、ちょっと……」
話してると、ボクの横に隣の車両から移動してきて誰かが座った。
「この子、連絡先とか教えらんないのよ、事務所に言われてんの」
女の子たちは残念そうに元の席に戻って行った。
「さくら先輩の登場タイミング!」
「優生くん、またナンパされてたの?」
「外に出る度に声かけられる感じなら、もう、お断りの定型文決めといたらどう? 彼女いるんで無理です、とか」
「しれっと嘘つける自信ないです」
「じゃあ、心に決めた人がいるんで、なら?」
「……」
「ねぇ、キラキラ女子だったね、今の子達」
「ボクがふわふわキラキラ女子ならよかった」
「あー、わかる。私も男の子だったら、よかった。そうしたらこの病気とか関係ないのに。優生くんと『私たち、入れ替わってる〜』ならよかったかな」
「……先輩、ふわふわキラキラ女子じゃないじゃないですか」
「おいっ」
デコピン。
「加賀美小太郎氏はふわふわキラキラ女子とか苦手そう」
「……フルネーム呼びですか?」
「この前加賀美小太郎氏が私のこと、ももちゃんって呼んだもんだから、紬怒っちゃってさ。お互いフルネーム呼びにしなさいって」
「特別感ってやつですか?」
「そー、可愛いよね。紬」
「そんな可愛いわがまま言ってみたいです」
「言えば良いじゃん! 言おうよ、わがまま」
駅に着いて、バスに乗り換えた。遊園地の敷地がデカすぎて、裏手のスポーツ施設まで歩くと二十分くらいかかる。目的地は沢山の路線バスのルートに入っていたのでスポーツ施設に行くのにどれに乗っても良さそう。暑くて、歩いたら地面に焦げつきそうだった。
「こっちだよ」
さくら先輩に袖を引かれてバスを降りる。
「遠的かららしい。公園に特設会場出来てるらしい」
「特設会場……」
スポーツ施設の隣接公園の一角に遠的の施設が出来ていた。
芝生の上に白い布を張った特設会場は神々しくて、まるで神様が降りてくる、建て替えられたばかりの神社のように見える。
そもそも遠的は的まで六十メートルという大きさのせいで設備のある学校が少ない。嶺南も近的しかないし、それは普通だ。
「さくら先輩、これ、三人立ちの団体戦で県対抗って認識ですよね? 小太郎先輩と同じチームなのは他校の三年生ですか?」
「強化選手に決まってから、一ヶ月ちょっと合わせてるからそこそこ息も合ってるわよね。インターハイではライバルだったのに」
「他の二人も遠的経験者なんですね?」
「インハイの県大会で加賀美小太郎氏と競射で争った三年生は遠的設備もある高校。もう一人は多分、どこかの弓道場で遠的やってるんじゃないかな」
「全然違いますもんね、未経験で遠的は出来ないですもんね」
「落だね、加賀美小太郎氏」
三人いる、最後の順番が小太郎先輩だった。
祈るように見守る。遠的は的が大きいけど、勝敗は中る場所で点数制だ。
小太郎先輩は十点連続で、大前の六点も、中の七点もカバーした。
見慣れた近的とは違う遠的の矢は空に向かって、放物線を描いて的に吸い込まれていく。
全部の県が終わって、小太郎先輩のいる地元のチームはこの時点で二位。明日の近的も頑張って。
少年の部は午前中だったので、割と穏やかだったけど、午後の成年の部は風が出て、荒れた。それも運。
午後も少しさくら先輩と見学していると、休憩中の小太郎先輩が声をかけてきた。
「小太郎先輩、お疲れ様です。大活躍でしたね」
「応援ありがとう。また二人で一緒に来たの?」
「電車でナンパされる優生くんを助けて来たのよ」
「……ナンパ?」
小太郎先輩がボクの顔を見た。
「インハイの応援の時もナンパされてたよね、優生くん」
「ボク、どうも声掛けやすいらしくて……見るからに弱っちいから」
「あ、休憩終わりだ。監督と打ち合わせあるから、またね」
小太郎先輩は振り返りながら、
「気をつけて帰って。二人とも」
「また、明日来ます!」
「二人とも、とかついでのように」
さくら先輩がつぶやいた。僕たちは帰りも最寄り駅まで一緒に帰った。
「さくら先輩」
「ん?」
帰りの電車は土曜日の午後まだ早めでガラガラだった。向かい合わせの四人席にゆったり二人で座って、話をした。
「さくら先輩、僕のこと気持ち悪くないですか?」
「? なんで? どういう意味?」
「ボク、気持ち悪いって言われたことがあって」
「誰に? どこが? なんで?」
「身内に。多分、ボク、男のストーカーみたいなのに遭ったことがあるから」
「男に好かれて気持ち悪いってこと? そんなの、優生くんがどうにかできる問題じゃないでしょ」
「知らないうちに、周りの人を嫌な思いにさせてないか不安で」
「好きになるのが同性でも異性でも関係ないでしょ。ただ、そのストーカーが優生くんの気持ちを無視して自分の気持ちを押し付けてくるのが、気持ち悪いとかはあるけど。気持ち悪いのはそういう人で、優生くんじゃないでしょ」
「……」
「気持ち悪かったら、ショーゲン先輩とか、今日ナンパして来た子達が声かけないでしょ。自信持っていいよ。かっこいいんだよ、優生くん。弱っちくなんか見えないよ」
「さくら先輩が気持ち悪くなかったら、良いです」
「少なくとも、私や紬や加賀美小太郎氏は全然そんなこと思わないから」
乗り換えたら、少し混んできたので当たり障りのない話をして、帰った。
