華と番犬。

心臓を射るようなどこまでも力強く真っ直ぐな匠海の言葉に、凛は言葉に詰まった。彼の綺麗な黒い瞳が揺れる。
「お前の気持ちは嬉しいが……だから私にどう生きろと言うのだ」
「俺に凛の人生の責任は取れないから偉そうなことは言えねえが、仮にお前があの家を出たら俺が必ず支える」
「匠海……」
凛の潤んだ麗しい瞳に、匠海は思わず抱き締めたくなる衝動を堪えようと、彼の華奢な腕を掴む両手に力がこもる。
白い凛の頬がほんのり薄紅色に染まり、小さな唇がうっすら開いているのを見た途端、匠海の胸が、身体中が熱を持つ。
「お前がこの先、どんな未来を選択しても俺が一生横にいて凛を守ってやるよ」
「お前という奴は、本当に……!」
何かに突き動かされるように心臓がドクンと脈打ち、目頭が熱くなる。次の瞬間、凛は匠海の手を振り払い、彼の厚い身体に両腕を回して抱きついた。
「お前には負けた。私も匠海のことが好きだ」
「そ、れは本当か?」
珍しく戸惑った口調の匠海の声が耳元で響く。
「自分の気持ちに素直になることはできないと思っていた。だからお前に「自分に素直になれ」と言われて腹がたった。だけど私は匠海のそういうところが昔から好きだった」
思わず匠海の瞳が大きく見開く。これまで当たり前のように傍にいた凛の今まで聞いたことのない本音に、胸がざわついた。自分は凛の一番の理解者でなんでも知っていたようで、そうではなかったのだ、と。
「昔からお前は私の憧れで、大切な存在だ。これからもずっと」
穏やかで静かな凛の声が、放課後の体育倉庫裏に響く。
二人以外の人間の姿も気配も、音もないこの瞬間は、二人きりの世界だった。


おわり