華と番犬。

「最近の私はお前といると変だ。心臓の音が早くなって、顔が原因不明で熱くなる。喉も乾くし、平静でいられない」
「凛、まさかお前も、もしかして」
「こんなの私らしくない。冷静ではない私なんて……私じゃない。今のままではおそらく匠海にも迷惑になるだろう。だからもう私のことは放って、」
凛の言葉はそこで途切れた。匠海が正面から思い切り、凛を抱きしめる。凛の切れ長の美しい目が大きく見開かれる。
「なっ……何をする、放せ!」
暴れるように激しく身じろぎする凛に、匠海は思わずそれを抑えつけるように両腕に力を込める。
剣道部で日々鍛えられた匠海と、文化部の凛との力の差は同性といえど圧倒的に違っていた。
振り払おうにも振り払えない。凛はさらに顔がカッと熱くなるのを感じ、焦りに拍車がかかる。
「……っ! いい加減にしろ。私を今すぐ放せ!」
「凛、少しは落ち着いて俺の話しを聞け」
宥めるような低く落ち着いた匠海の声が、凛の耳元で聞こえる。凛は幼い子供のように恥も外聞もなく頭を左右に振った。
「嫌だ。私はお前の言葉を、気持ちを聞く気はない。自分の気持ちさえ認めたくはないのに……!」
「とにかく落ち着いて聞け」匠海の声に力が加わる。
その迫力に負けたのか、凛の動きがわずかにおとなしくなった。匠海は小さく息を吐き出すと、両手で彼の腕を掴んで身体を少し離すと、凛の顔を見つめた。
「俺はお前と付き合いが長いから家庭が厳しいことも、お前が日々女子に迷惑していることも知っている」
「なら、なぜ好きなどと言える……!」
「俺はお前を混乱させたいわけでも、精神的に追い詰めたいわけでもないが……凛のことが好きだ。恋愛として好きになったんだ」
真っ直ぐに凛を射抜く匠海の瞳。目を逸らしたいのに、逸らすことができない。
「だが俺は自分の気持ちなんざ、どうでもいい。凛、お前に幸せになってほしい。だからお前は自分の気持ちに正直になれ」