華と番犬。

西日がオレンジ色から少しずつ茜色になりつつある。校舎の方に目をやれば、ほの暗い薄い闇色をした影が校舎全体を包んでいた。
春から初夏にかかる暖かい風が吹き、凛はふうっと息を吐くと校庭の体育倉庫裏から美術室へ戻ろうと歩き出す。部活の最後のゴミ捨てが終わればあとは帰るだけだ。
美術室に置いてある通学鞄を取りに戻る際に女子に囲まれるのは正直煩わしいが、毎日のことなのでいちいち気に留めていたらキリがない。
「今日も匠海とあまり顔を合わさなかったな。まぁその方がお互い良いかもしれない」
彼は誰に聞かせるでもなくそう呟いた。匠海への好意をある程度認めることで少しは気持ちが軽くなった。だけど、だからと言ってどうもしない。
匠海との仲を今更変えたくないし、変えようとも思わない。煩わしいのは女子だけで十分だ。幼馴染の匠海との関係すら、気に揉むような事にはしたくない。
そんなことを思いながら歩いていた、その時。
「よお凛。今からお前に話しがある」
低く重みのある落ち着いた聞き慣れた声に、凛の心臓がドクンと跳ねる。まるで心臓が、久々に聞いた匠海の声に喜んでいるみたいだと凛は感じた。だが、そんなこと幼馴染の匠海に思うはずがない、と思い直す。
一瞬でも感じた動揺を認めたくなくて、凛は落ち着き払って匠海を見た。
「どうした匠海。そんなに急用なのか? 私でよければ相談にのろう」
凛は柔らかい口調になるよう努めて言った。同時に穏やかな微笑みを浮かべて匠海を見上げる。

その笑みを見て、匠海は胸に込み上げる燃えるような熱を鎮めるように両手の拳を強く握りしめた。身体中に熱が回り、心臓がうるさいぐらい鳴っている。