静まり返った校舎内と人の影がなくなった校庭に、その日最後のチャイムが鳴り響いた。
四月半ば過ぎの穏やかで暖かい西日が人気(ひとけ)のない紺色に染まりつつある廊下に差し込む。昼間の騒がしさが嘘のように消え、耳が痛くなるほどの静寂に包まれた廊下は、日の当たらない場所はひんやりと冷たい。
その中を早足で一人、男子生徒が足音を響かせながら歩いていた。首筋辺りで清潔に切り揃えられた黒髪、透き通るような白い肌。高い鼻筋に切れ長の美しい目と小ぶりで形のよい唇。
すれ違えば誰もが必ず二度見するような顔立ちの整った男子ーー雨宮凛は、先ほどから何度目か分からないため息をこぼした。
女子がこの場に居れば間違いなく黄色い声が飛ぶであろう憂いの表情を顔面に浮かべた彼は、ふと窓の外を見た。
校庭の端に間隔を開けて植えられた桜の木は、青々とした葉が風に煽られてそよいでいる。
暫くその様子をぼんやりと眺めた彼は、また長く続く廊下に目を戻すと再び歩き出した。
こうして凛が放課後に人知れず、浮かない表情でため息を吐くことはほとんど毎日のことだった。
原因は彼が所属する美術部の女子たちだった。彼女たちは部活動もロクにせず、毎日凛に声を掛けたり追いかけ回されたりしていた。そもそも美術部に入部する理由すら、「凛様がいるから美術部を志望した」と言う人間がほとんどだった。
その上に今日は数日続く寝不足のせいーーこれは女子は関係ないがーーがたたり、創作の作業中に彫刻刀で手の平を切ってしまった。
保健室に行くも誰もおらず、仕方なく勝手にガーゼと包帯を使って自分で手当てをした。
「今日は最悪だな……」
そう低い声で呟いたあと、「いつも完璧でないといけない私が」と心の中で付け加え、自嘲気味にふっと片方の口の端を上げたーーその時。
四月半ば過ぎの穏やかで暖かい西日が人気(ひとけ)のない紺色に染まりつつある廊下に差し込む。昼間の騒がしさが嘘のように消え、耳が痛くなるほどの静寂に包まれた廊下は、日の当たらない場所はひんやりと冷たい。
その中を早足で一人、男子生徒が足音を響かせながら歩いていた。首筋辺りで清潔に切り揃えられた黒髪、透き通るような白い肌。高い鼻筋に切れ長の美しい目と小ぶりで形のよい唇。
すれ違えば誰もが必ず二度見するような顔立ちの整った男子ーー雨宮凛は、先ほどから何度目か分からないため息をこぼした。
女子がこの場に居れば間違いなく黄色い声が飛ぶであろう憂いの表情を顔面に浮かべた彼は、ふと窓の外を見た。
校庭の端に間隔を開けて植えられた桜の木は、青々とした葉が風に煽られてそよいでいる。
暫くその様子をぼんやりと眺めた彼は、また長く続く廊下に目を戻すと再び歩き出した。
こうして凛が放課後に人知れず、浮かない表情でため息を吐くことはほとんど毎日のことだった。
原因は彼が所属する美術部の女子たちだった。彼女たちは部活動もロクにせず、毎日凛に声を掛けたり追いかけ回されたりしていた。そもそも美術部に入部する理由すら、「凛様がいるから美術部を志望した」と言う人間がほとんどだった。
その上に今日は数日続く寝不足のせいーーこれは女子は関係ないがーーがたたり、創作の作業中に彫刻刀で手の平を切ってしまった。
保健室に行くも誰もおらず、仕方なく勝手にガーゼと包帯を使って自分で手当てをした。
「今日は最悪だな……」
そう低い声で呟いたあと、「いつも完璧でないといけない私が」と心の中で付け加え、自嘲気味にふっと片方の口の端を上げたーーその時。


