「しまったぁ〜〜」
思わず頭を抱え込んで天を仰いでしまった。
「えっ、何?どーした?大事件か?」
サクが慌てて俺の側に走り寄ってきた。
「弁当、、、弁当忘れた〜」
「はっ??弁当ってか!なんだよー、それ!マジで大事かと思ったのにーっつ」
「いや、俺にしたら大事だよ。今まで忘れた事なんて無かったんだからさ。うっかりしてた」
「そんなこと言ってないで早く買いに行った方がいいんじゃないの?売り切れちゃうぞ」
「あぁ、だよなぁ〜ちょっと行ってくるわ」
「ほーーい、いってらっしゃい」
あーーぁ、最近の俺どうかしてるよなぁ
売店まで走っていこうと廊下に出て4組の前を通った時、偶然響が教室から出てきた。
「あっ、ヒビキ〜」
「あれ、亮太、何処行くの?」
「今日弁当忘れちゃってさぁ、売店でパンでも買おうかなぁって思って」
「そうなんだ…もしかして焼きそばパンとナポリパンを買うつもり?週一回しか買えないでしょ」
「えっ、そうなの?知らなかったんだけど。
何なの?そのナポリパンって?」
「ほんとに知らないんだ。ケチャップを絡めたナポリタンがパンの中に入ってて、ソーセージが上に乗ってるんだよ。僕、今から買いに行こうと思ってたんだ」
「マジで?じゃあ一緒に行く?」
「いいけど、早く行かないと売り切れちゃうよ」
「じゃあ急いで行こう」
俺と響はダッシュで売店まで走って行った。
何?この列は・・・。
「嘘だろう?俺、初めて来たからさ〜、まさかこんなに並んでるとは」
「だって週一でしか買えないパンだから、みんな狙ってるんだよ。
僕たちも買えるといいけど、ギリギリ買えるか買えないか…かも」
「よし、この荒波の中に入っていくぞ。買えたらあっちの角に集合な」
「うん、分かった。でも自信ないよ。僕、大丈夫かな?」
「昼飯抜きとか考えられないよ。検討を祈る!じゃあな」
俺たちは、この人気パン争奪戦の荒波へと飲み込まれ込ていった。
「ぐへえぇぇーー」
クタクタなんですけどぉ〜。
かろうじて焼きそばパンを1つとおにぎりセットを1つ買えた。
響は大丈夫だったんだろうか?
あんなクールなイケメンが荒波の中で戦えたのか心配だな。
早くあの角に行って、響の様子を見ないと。
「あっ、響!どうだった?買えた?」
「亮太!買えたよ。ナポリパンとおにぎりセットは買えた」
「えっ、なかなかやるじゃん」
「前にいた女子がなぜか譲ってくれたんだ」
「へっ?譲ってくれたって?なんだよそれ〜。
ずるい、やっぱりイケメンメガネ君は女子に人気なんだな」
「そんなことないよ。たまたまだよ。それよりさ、亮太は焼きそばパンを買ったんだよねー。僕はナポリパン…これ、半分こしない?
焼きそばパンもナポリパンも両方食べてみたかったんだよね」
「いいよ。何処で食べる?どっか適当な場所ないかなぁ〜〜。
あっ、美術室でいいんじゃない?あそこ穴場だから、他の生徒とかあんまり来ないし」
「そうだね。じゃあそこにしようよ」
俺達は美術室へと続く階段を上っていった。
俺にとっては、行き慣れた場所。
「さぁ、入ろうか?」
扉を開けようとしたけど、扉が開かない。
「あれ?鍵がかかってる、なんで?」 「・・・・・・・」
しばらくの沈黙の後、ハッと思い出した事がある。
「美術の先生、今日は休みなんだ!
あぁー、先生がいない時は美術室のカギは開いてないんだよ。どうする?」
「こっちって北舍だよね?僕たちの教室がある南舎の屋上は鍵がかかってて出入り禁止になってるけど、北舎の屋上は内側のつまみを回してカギをかけるタイプのはずだから北舎の屋上に行ってみようよ」
「そうなの?よく知ってるな」
「ははは、実はちょっと前にね〜」
「ちょっと前?」
「なんでも無いよ。じゃあ、行こうか」
「あぁ、分かった」
亮太の顔を見てみたくて北舎をウロウロしてた時になんとなく屋上に行った事があるなんて口が裂けても言えない。
「本当だ!つまみで回すタイプだ。これなら外に出られるよ。屋上に来るのって初めてかも」
ガチャ
「うわあ〜〜〜っ、何これ!屋上ってこんな風になってたんだ。意外と高いんだなー。外の景色が気持ちいいね。ドラマの世界みたいじゃん」
「本当だね。でも何処に座ろうか?」
「あっ、それそれ!腹も減ったしなぁー」
どこに座ってもいいわけで、こんなに広いスペースを選びたい放題だなんて贅沢だよなぁ。
「ここら辺でよくない?」
景色がよく見える場所に足を伸ばして座ってみた。
「はい、焼きそばパン半分こ」
「ありがとう」
2人同じタイミングで焼きそばパンにかぶりついた。
「わっ、うっま!」
「うん、美味しいね」
「2人で食べるから余計にうまいのかな?」
「そうだね。一緒に食べるからおいしいのかもね」
「ナポリパンも食べてみる?はい、亮太の分」
「うん、ありがとう」
普段は絶対に足を踏み入れない場所に2人で来てるって。なんかこの特別感がすごくいい。
「先生に見つかって怒られるまで、こうやってたまに来れるといいな〜」
「ははは、怒られること前提なんだ」
風が気持ちいいなー。
なんとなく、うん…なんとなく…今なら聞けるかも。
「なぁ響」
「うん、何?」
「この前、なんで俺のこと抱きしめた?」
「・・・・・」
「俺、混乱してるよ。響は俺のことどう思ってるの?俺は響の事が好きだと思う」
「僕も…僕も…亮太の事が好きだよ。でも本気になっちゃダメなんだ。これ以上大切な存在に亮太がなるのは…ちょっと」
「えっ、どう言う事?意味がよく分かんないんだけど」
「亮太には分からないだろうね。
でも僕はこれ以上亮太を好きになっちゃいけないんだ」
えっ?何を言って、、、?
響の言葉の意味が分からないでいる。
「これ以上好きになって、亮太の事が大切な存在になってしまったら・・・。失うのが怖いんだよ」
「何、失うって?意味が分かんないよ。
まだ始まってもいないのに、なんで失うんだよ」
「亮太には分かんないだよ、失う事の怖さがー」
「だからなんでそんなふうに思うのか、ちゃんと説明してくれよ。言ってくんなきゃ分かんないだろ?
俺には怖がらずに教えて欲しい
俺達が動き出さなきゃ何も始まらないんだから」
「わかったよ・・」
僕がなぜ亮太をこれ以上好きになっちゃいけないのか。
恋に臆病になってしまった理由。
僕は小さい頃から綺麗な物や美しいものを見るのが大好きだった。
両親が忙しかったから、子供の頃はおじいちゃんの家によく遊びに行っていた。
ある日小さな商店に連れて行って貰った。
『一つだけ好きな物を買っていいよ。』
おじいちゃんにそう言われて、僕はビー玉を選んだんだ。
「おじいちゃん、これ何?」
『あーっ、これはビー玉だよ。初めて見るのか?』
「うん、凄くキレイだよ。宝石みたい」
『これは手作りっぽいなぁ。おじいちゃんもこんなに綺麗なビー玉は初めてみたよ。ほら、こうやって近くで覗いてごらん、違う世界が見えるから』
僕は片目でビー玉の中を覗いてみた。
「わぁー、キラキラしてる」
『どうだ。気に入ったか?これにするか?』
「うん!これにする」
ビー玉の中は世界がひっくり返って見えた。
おじいちゃんはそれを小さな箱に入れて僕に渡してくれたんだ。
それが僕の1番の宝物になった。箱から出して毎日覗いてた。
その日もビー玉を取り出して転がして遊んでた。
でも途中でテレビを見たくなってビー玉を片付けるのをすっかり忘れてしまった。
たまたま帰って来た母親がビー玉に気づかずに踏んづけて転びそうになってしまって。
大激怒されて、『持ってるビー玉を全部出しなさい!』って取り上げられて捨てられた。
泣いて謝ったけど許してはもらえなかった。
父さんも兄さんも『気の毒に』みたいな顔をして僕を見てたけど何も言ってはくれなかった。
あの時の悲しみは今でも忘れられない…。
まぁ、片付けなかった僕が一番悪いんだけど。
大切にしていたものが僕の元から一瞬で無くなる。子供の僕にはそれを受け入れる余裕なんてなかった。
「亮太は僕にとってそのビー玉なんだよ。
輝いていて美しいんだ。
毎日見ていたい。でもあの時みたいに僕の元からなくなってしまうんじゃ無いかと思うと怖いんだよ。
大切な物じゃ無ければなくなっても怖く無い。
大切だから怖いんだ。だからこれ以上亮太を好きになったらダメなんだよ」
「どういう事??子供の頃にビー玉を買ってもらってすごく大切にしてたっていうのは分かるよ。
お母さんに捨てられて悲しかったって事も。
それがトラウマになってるのも分かる。
でもそれって、ビー玉だったからダメだったって事だよね?
じゃあさ、おはじき…?だったら良かったって事?」
「えっ?」
「手作りのビー玉じゃなくて、手作りのおはじきだったらどうだったのかなって。
おはじきってあれだろう…、半球のドーム型のやつ。俺が子供の頃に見た事あるよ。上の部分がぷくって膨らんでて。
まぁ、ビー玉みたいに世界はひっくり返らないだろうけど(笑
それだったら捨てられなかったのかなぁって。
色んな形があっていいと思うんだけど」
「色んな形……」
形を変えれば残せたのかな?
「俺は響を受け止めるよ・・・。
いつも側にいる、響の手の届く場所にいる。
だから好きになっちゃいけないとか言わないでくれよ。
突然いなくなったりしないから。」
「ははは、おはじきかぁ・・・。全く思いつかなかったよ」
「形を変えていこうよ。2人でさ」
「そーだね。すでにもっと好きになってるよ、亮太の事」
「そうか、なら仲直りのキスとかしみる?」
「仲直りってなんだよ。別にケンカなんてしてないだろう?」
「これ以上好きになったらダメとか言ってなかったっけ?俺、傷ついたんだよなぁ」
「ごめん…」
「いいよ、これでさっきの無しな」
亮太の唇はあったかくて柔らかくて、僕の不安を一瞬で取り除いてくれる。
これ以上好きにならないなんて無理に決まってた。
「亮太,大好きだよ」
「もう一回言って」
「いやだ」
「じゃあ、もう一回キスしよ」
「なんでそーなる?」
2回目のキスだね。


