君だけがパーフェクト


ツンツン

「ん?」
「どうしたの、なんか考え事?さっきから呼んでるのに全然きづかないから」
「あっ、ごめん」
「平気?」
「うん、大丈夫だよ」
「そっかー。なら俺、自分の教室に戻るね。
また勉強教えてよ」
「うん、そうだね」
「今日一緒に帰れる?」
「帰れるよ」
「じやあ、帰り迎えに来るわ」
「あぁ、分かった」

はあーっ、僕はこんな人間だったのか。
器の小ささに自己嫌悪だ。
亮太がちゃんとシュウ君に気持ちを伝えてくれたのに、僕はなんで何も言えなかったんだろう。


******


「響、帰ろうぜ〜」
「うん」
「今日ってカテキョの日だったよな?」
「そうだけど」
「ちょっとだけ時間ない?」
「別にいいけど、どっか行きたいの?」
「前に言ってただろう、最近できた大きな本屋の事。文房具が色々置いてあって隣にカフェがあるって」
「あー、そういえばそんな事言ってたね」
「思いだしてくれた?そこにちょっと寄って行かない?」
「うん、そうだね。少しなら」
亮太がオススメしてくれた本屋があったんだった。
「うわ、こんなに大きな本屋だとは思わなかったよ。
いつも行く本屋が決まってたから一度も来た事なかったけど、こんなに広いとかえって迷いそうだなぁ(笑」
最近色々と考える事が多くて本を読む余裕も無かったからなんか無性に本が読みたくなってきたかも。
「亮太、気になる本があるんだけど買ってきてもいいかな?」
「勿論いいよ。響は本が好きだからなー。ちょっとは元気でた?」
もしかして僕の事を元気づけようとしてくれてたとか?
本当に亮太ってヤツは!!
「本を買ったらそっちの文具コーナー行ってみない?」
「あぁ、いいよ。じゃあ、これ買ってくるからちょっと待ってて」
「うん、文具コーナーの方にいるから後で来てよ」



えっーっと、文具コーナーは何処かな?こっちか。
あっ、いたいた。
「亮太、お待たせ」
「響、これ見てよ」
文具コーナーの横にはガラス製品が置かれていた。
「これ見てよ。ビー玉とおはじき。こんな所に売ってたんだ〜と思って。響の気に入ったのがあればプレゼントしたいんだけど」
「あっ、本当だ。何年ぶり?久しぶりに見た」
「気に入ったのある?」
「うーん、ありがとう。でも今回は遠慮しておくよ」
「そうなの?」
「うん、あのビー玉は特別だったんだ。世界に一つしか無い。大きさも色も全部違ってた。本当の宝石みたいだったんだ。だからこれからゆっくり探していけたらいいなって思ってる。亮太も一緒に探してくれる?」
「勿論だよ。本当に気に入った物を探そうな」
「うん」
「あっ、隣のスペースにカフェがあるんだけど、少しだけ寄っていかない?」
「いいよ」
「雑誌も本も沢山置いてあって試し読みが出来るから、続きが読みたから買って帰れるのがいいと思うんだ」
「へぇ〜、そんなシステムなんだ」
「なに飲む?買ってくるよ」
「じゃあ、カフェラテで」
「前もカフェラテだったよな。俺も同じのにしよ」
あ〜、もう亮太ってなんであんなにさり気ない優しさがあるんだろ。
「お待たせ」
「これカフェラテのお金」
「俺が誘ったんだからいいよ」
「これからも一緒に来たいからこういう事はちゃんとしておきたいんだ」
僕はテーブルにお金を置いた。
「そうか。ありがとう,貰っておくね」
あれ、なんで?亮太の爪がすごくキラキラしてる。
「亮太、爪どうしたの?凄くキレイなんだけど」
「あっ、これ?シュウのお母さんがネイリストなんだけど、シュウも結構そういうのに詳しくてさ。この前爪ヤスリって言うの?爪磨きかな?それで磨き方を教えくれたんだよ。俺ってそう言うのに疎いからさ。爪がガタガタだったんだよな。でも磨いたらピカピカになってさ。凄いよな。」
「そーなんだ。キレイだね」
僕の知らない所でそんな事してたんだ。
亮太の手を触ったって事?
あーっ、嫌だなぁ。
何故か分からないけど、いつもシュウ君の存在が僕を苦しめる。
シュウ君と会ったの?何処で?爪ってシュウ君が磨いてくれたの?
亮太に聞けばきっと答えてくれる。でも聞けない。シュウ君はただの後輩、可愛い弟、分かっているのになんでこんなに不安なんだろう。

僕の大切な物を一瞬で奪ってしまうのがシュウ君かも…。そう思うと不安で仕方がない。

「亮太は、最近買った本って何があるの?」
不安を打ち消す為に思いついた質問をしてみた。
「俺?この前新刊の漫画買ったよ」
「漫画?漫画なんて読むの?」
「うん、俺はなんでも読むよ。でも漫画はあんまり買った事なかったんだけど、湊もサクも買うって言ってたからなんか気になってさ。
読んでみたら意外と面白かったんだよなぁ。」
「へえ〜、漫画かぁ、あんまり読んだことないかも」
「だよな。響きが漫画とか想像出来ないよ。読み終わったらシュウに貸す事になってるんだ」
「シュウ君?」
またシュウ君?なんでいつもシュウ君の話が出るんだろう。だから不安なのかも。亮太にとっては何気ないんだろうけど、亮太の口からシュウの名前が出るたびに胸が苦しくなる。
「そーだよ」
「シュウ君かー。ねえ、亮太、僕もその漫画読んでみたいんだけど」
「そうなの?意外だな。良かったら俺の家にとりにくる?
丁度読み終わったから」
「えっ、亮太の家に?」
「あっカテキョくるから時間ないか」
「まだ大丈夫だけど、亮太の家って初めてかも。行ってもいいの?」
「全然大丈夫だけど、ここから10分くらいかかるけど。じゃあ行こうか」


「お邪魔しまーす」
「はい、どうぞ」
「結構キレイにしてるんだね」
「うーん、あんまり物を置かないようにしてるんからかな。じゃないと散らかって片付けられないんだよなぁ」
「僕の部屋は本だらけだけよ。本意外ないかも」
「響らしいなあ」
「あっ、これ、僕が作ったバスケットボール」
「うん、飾ってあるんだ。結構気に入ってるよ」
「僕も亮太の作ったスズメ部屋に飾ってあるよ。
本当に鳴きだしそうなくらい可愛いけどね」
「それは言い過ぎだよ」
「そうかなぁ、本気で言ったんだけど」
「あっ、これだよ。はい漫画」
「ありがとう」
受け取った時、亮太の指に触れてしまった。
なんなんだろう?このつるんとした感触。
磨いた爪ってこんなにツルっとしてるんだ。

そう思った時自分でも思いがけない行動をとってしまった。

思わず手首を握りしめて高くて持ち上げ、亮太を壁に追い詰めていた。
逃げ場を塞ぐように僕は壁に手をついた。
「えっ、えっ、なんでこーなってる?顔が近すぎて直視出来ないんだけど」
「亮太,困ってるよな」
「困ってるよ…うん」
「今までは大切すぎて距離を取ってたし、壊したくなくて踏み込めなかった。けど今は渡したくない」
「ちょっと待ってくれよ。なんの事言ってるの?
渡したくないって誰に誰を?意味がよく分からないんだけど」
「でも、もう遅い。キスしてもいいかな?」
「あっ」
逃げ場を無くされた亮太の唇は俺の唇をいとも簡単に受け入れていた。長い沈黙が続いた。

僕の視線は強く握られた腕とは反対の手に注がれていた。
「それにその爪、キレイだね。他の人が気づくかもしれないよ。
それは我慢できないかもな」
「で、でも、俺の爪がガサガサだったからで、磨けば誰でもキレイになるんだよ。ヒ、ヒビキも気になるなら俺が磨いてあげようか?」
「そんな事を言いたい訳じゃないんだけど」



ぴぴぴぴぴぴぴぴ

「あっ、もうそんな時間か、帰らないと」

カテキョに遅れない様にスマホのタイマーをセットしておいた。そうじゃなきゃ、絶対に時間オーバーになると思って。

「じゃぁ、亮太この漫画借りるね」
「うん、玄関まで送るよ」
「じゃあ、また明日」


「あーぁ、シュウ君と会わないでなんて言えないよなあ。もっと自分に自信を持てればいいんだけど」
でも自信ともなんか違うような…。
なんて言う気持ちなんだろう?
シュウ君に僕の気持ちを伝えてもいいものなんだろうか?


******


響、なんか爪の事気にしてたよな。
マジで俺の爪ガサガサだったんだよなぁ。
この前皆んなでボーリングに行ったあの日、シュウとカフェでお茶してたんだけどシュウの爪がピカピカなのに気が付いたんだ。
「なぁ、シュウの爪ってなんでそんなに光ってるの?」
「あぁ、これ?気がついたんだ〜。
僕のお母さんがネイリストなの知ってるよね?
この前暇だからって僕の爪を磨いてくれたんだよ。試供品でもらったとか言って爪磨きでさ」
「へぇ〜、そんなのあるんだ」
「僕持ってるよ。爪磨き…。えっと、確かカバンの中にあったはず〜。あっこれだよ、コレ!」
「どうやって使うの?」
「こうやってまずはヤスリで凸凹を整えてから〜その後にこの爪磨きで磨くと…。そうすると、ほらこんなにピカピカになるんだよ」
「えっ、凄い!俺にもちょっとやらしてくれない?」
「いいよ。はいどうぞ」
「ありがとう〜。えっと、これで凸凹を整えてから、こっちで磨く…と。
マジでか・・・。凄いピカピカじゃん」
「僕まだ持ってるから亮太君にそれあげるよ」
「えっいいの?ありがとう」
こんな事があって家に帰ってきてから自分で必死に磨いたんだよなぁ。なんか恥ずかしいからザックリとしか言えないけど。
響に手にキスされてから自分の手を見る事が増えたんだよなぁ。
あっ俺の爪、汚いなあって思っちゃってさ。