齊藤さんと志保さんが付き合ってるって知ったのは、フラれてからそんなに経ってなかったかな。
直接聞いたわけじゃなくて。他愛もない話の流れで、それを知ったの。見計らったかのようなタイミングだよね。白黒ついたし情報解禁、みたいな。
明日香ちゃんも、みんな、私にはあえて言わなかったんだと思う。だって、私が齊藤さんのこと好きだって知ってたから。志保さんもわかってたよ、きっと。
でもまあ、みんなで過ごす時間は変わらず楽しかったから。
最初はさすがにちょっと気まずかったけど、すぐにいつも通りに戻って。飲み会もやってたし、バイトも普通に行ってた。
齊藤さんと志保さんの距離は、ますます近くなってた。
……って、ようやくその事実に気づいたんだよ、私は。フィルターが外れて、目の前の現実とやっと向き合えたの。
素直に「お似合いだな」って思えた。妹としか見られてない私と、大人で綺麗で、齊藤さんを引っ張れるようなカッコいい女性となんて……比べるまでもないよね。
しばらくして、私はバイトを辞めた。大学三年の夏頃。
就活も始まるからっていう、いかにもそれっぽい理由をつけて。それに、若いうちはいろいろやってみたかったし。
まあ、半分は本当で、半分は嘘だけど。
それから一年。
結婚式の二次会に呼ばれたの。「すごい、結婚したんだ」って素直に嬉しかった。何をプレゼントしようかなって、うきうきで考えたくらい。
ドレス姿の志保さん、綺麗だったなあ。
──うん。未練なんてなかったし、私も彼氏いたし、心から「おめでとうございます」って言えたよ。
まあ、さっきも言ったけど、おいしいところだけ綺麗に思い出に残ってる感じ。「あんなこともあったなあ」って遠い目、みたいな。
──ちょっと、年寄りくさいとか言わないでよ。
でさ、職場結婚だから集まってるメンツもほとんど同じで。「久しぶりーっ!」って、懐かしい顔ぶれで盛り上がってたんだよね。
そんなとき……ふとした会話の流れで、明日香ちゃんがさ。
「齊藤さん、本当に志保さんのことが好きだったもんね。結婚できてよかったよね」
って、言ったんだよね。
周りの人たちも当たり前のように笑顔で同意してた。
──ああ、って思った。
フラれたときよりダメージが大きかったかもしれない。
なんかさ。あのとき見えてなかったものが、全部、繋がっちゃったんだよね。
みんな私が齊藤さんのこと好きって知ってた。
みんな齊藤さんが志保さんのこと好きって知ってた。
みんな私の恋が実らないものだって知ってた。
だから、みんな本当のことを私に隠してた。
こんなつらい真実、気づきたくなかったよ。
明日香ちゃんは、どんな気持ちで「応援するね」って言い続けたんだろうね。どんな気持ちで、フラれた私を慰めてくれたんだろうね。
みんな、どんな目で私を見てたんだろうね。かわいそうだな、哀れだなって思われてたのかな。誰が本当のことを言うか相談してたのかな。もしかしたら、笑われてたのかもしれないよね。
それでね。やっと、理解するの。
私は……ヒロインなんかじゃなかった。
こんなの、ただの道化だよ……。
ってね。
──うん。わかってる。明日香ちゃんも、みんなも、何も悪くないよ。
私が明日香ちゃんの立場でも、同じことしてると思うもん。本当のことなんて、言えないよね。傷つくってわかってるんだから。
だから、みんな……やさしかったんだよ。
二次会はちゃんと楽しかった。最後まで。
でも、電車に乗ってひとりで帰る道のりは……なんだか、ゆっくりと夢から醒めていくようで。
思えば……中三のときも、高二のときも、こんな感じだった。好きになって、浮かれて、空回りして。
結局、私はずっと道化でしかなかったんだよ。
普通さ、少し考えればわかるじゃん。
一世一代のつもりで言った告白も全部断られて、異性から告白なんてされたこともない私なんて……最初から、ヒロインになれるわけなかったんだよ。
こうして、恋に恋して、自分に酔っていた私は。
王子様のやさしいキスで目覚めたのではなく、痛いほどみっともない現実に叩き起こされたのでした。
めでたし、めでたし。



