放課後の図書室なんて初めて来た。というか、図書室という場所自体、入学したての校舎内見学で訪れたきりかもしれない。入ってすぐ、後から深水が来た時にわかりやすいよう、目立ちそうな席に座り、上谷は鞄を置く。今回の大勉強会は、深水が言い出したことだ。元々はテストを控えた上谷が一人で珍しく自習をするつもりで、放課後図書室に行こうかな、とこぼしたところ、深水が「先輩ってそんなに成績悪いんですか?」とストレートに聞いてきたので、こちらも素直に頷いてやると「じゃあ、図書室で大勉強会しましょう」という提案をしてくれた。深水の方が圧倒的に成績が良いので、勉強を見てくれるのは大変ありがたい…のだが。いくらなんでも、一つ上の学年の課題はわからないんじゃないか? という不安と、勉強会開催が決まった時に深水が言っていた「もし先輩が留年したら、俺と同学年ですね。…そっちも捨て難いな」という言葉が気になっている。捨て難いわけないだろ。
図書室は静かだが、利用者が少ない、というわけではないようだった。上谷の席から見える範囲だけでも、自習や読書に励む生徒数名と、司書の女性がいる。
……ここには、幽霊なんか出そうにないな。
除霊のためにいろいろな場所を渡り歩くうち、上谷にもなんとなく、出る場所と出ない場所の違いがわかってきた。じゃあ具体的にどう違うのか、と聞かれると、感覚、としか答えることができないのだが…。
「…ねえ、深水くんってさ」
突然、知っている名前が聞こえてきたので、意識がそちらに集中する。上谷が使っているテーブルの隣、女子生徒二人が体を寄せ合っていた。学年ごとに色の違う上履きから察するに、深水と同じ学年だろう。
「彼女とか、いるのかな?」
「え、いないんじゃない? 他校はわかんないけど、少なくとも同学年には…」
「だよね? えー、やっぱり聞いてみようかな。でもそれってもう、好きバレしちゃうよね」
「彼女いるか聞くくらいなら大丈夫だよ。でも、深水くんかあ…ライバル多そうだな」
「最近人気だもんね…」
最近、人気なんだ。盗み聞きは良くない。思いつつ、耳を傾けてしまう。
「カミヤ事変があったから、特にね」
「カミヤ事変?」
「あの時、教室いなかった? 一個上の学年にカミヤっていう、とにかく明るくて結構目立つ先輩がいるんだけどさ。その人が突然”おじゃまします!”って教室入ってきて、まっすぐ深水くんのところへ行って”お前、メンマが割り箸からできてるって普通に嘘じゃん! 妹に笑われたんだけど!”って言ったんだよね」
「何それやば! うわー、絶対見たかった」
「やばいよね。それで深水くんがいつも通りの無表情で”すみません。まさか信じる人がいるなんて”って謝っててさ。結局そのまま二人で教室出て行っちゃったから、続きはどんな話してたかわからないんだけど…その時の、深水くんの表情が…なんていうか」
「無表情だったんでしょ?」
「そうだよ。そうなんだけど…うーん、むずい。とにかくその一件があってから”あ、深水くんって意外と話しやすい人かも”ってみんながなって、今はもう、深水くん争奪戦」
「そもそも顔がかっこいいもんね…」
「ね…倉田さんとか、やばくない? 今日の昼休み、見た?」
「見た見た! 露骨だよねほんと。あんなの、好きですって言ってるようなもんじゃん」
「倉田さんがライバルになるならやめとこうかな…勝ち目ないし…」
「アンタね…」
携帯を確認する。少し遅れそうです。というメッセージが数十分前に届いたきり、深水からは何も連絡がない。
…迎えにいくか。いや別に、深水の様子が気になったとか、そういうわけではない。女の子たちの話が気になったわけでもなくて、ただ単に、遅いなと思っただけで、時間がかかりそうなら別日にしてもいいって伝えたくて、いやそれは携帯のメッセージでも済むんだけど、直接言った方が早いかなって…うん、そう。絶対にそう。それだけ。
たくさんの言い訳をしながら、上谷は荷物をまとめて立ち上がる。椅子を引く時、やたらと大きな音が出てしまった気がして、足早に図書室を出た。
「……今出て行ったの、カミヤ先輩じゃない?」
「ね! 近くで見ると結構かっこいいかも。私、カミヤ先輩にしようかな…」
「…アンタはまず、その移り気の早さを直した方がいいと思う…」
図書室は静かだが、利用者が少ない、というわけではないようだった。上谷の席から見える範囲だけでも、自習や読書に励む生徒数名と、司書の女性がいる。
……ここには、幽霊なんか出そうにないな。
除霊のためにいろいろな場所を渡り歩くうち、上谷にもなんとなく、出る場所と出ない場所の違いがわかってきた。じゃあ具体的にどう違うのか、と聞かれると、感覚、としか答えることができないのだが…。
「…ねえ、深水くんってさ」
突然、知っている名前が聞こえてきたので、意識がそちらに集中する。上谷が使っているテーブルの隣、女子生徒二人が体を寄せ合っていた。学年ごとに色の違う上履きから察するに、深水と同じ学年だろう。
「彼女とか、いるのかな?」
「え、いないんじゃない? 他校はわかんないけど、少なくとも同学年には…」
「だよね? えー、やっぱり聞いてみようかな。でもそれってもう、好きバレしちゃうよね」
「彼女いるか聞くくらいなら大丈夫だよ。でも、深水くんかあ…ライバル多そうだな」
「最近人気だもんね…」
最近、人気なんだ。盗み聞きは良くない。思いつつ、耳を傾けてしまう。
「カミヤ事変があったから、特にね」
「カミヤ事変?」
「あの時、教室いなかった? 一個上の学年にカミヤっていう、とにかく明るくて結構目立つ先輩がいるんだけどさ。その人が突然”おじゃまします!”って教室入ってきて、まっすぐ深水くんのところへ行って”お前、メンマが割り箸からできてるって普通に嘘じゃん! 妹に笑われたんだけど!”って言ったんだよね」
「何それやば! うわー、絶対見たかった」
「やばいよね。それで深水くんがいつも通りの無表情で”すみません。まさか信じる人がいるなんて”って謝っててさ。結局そのまま二人で教室出て行っちゃったから、続きはどんな話してたかわからないんだけど…その時の、深水くんの表情が…なんていうか」
「無表情だったんでしょ?」
「そうだよ。そうなんだけど…うーん、むずい。とにかくその一件があってから”あ、深水くんって意外と話しやすい人かも”ってみんながなって、今はもう、深水くん争奪戦」
「そもそも顔がかっこいいもんね…」
「ね…倉田さんとか、やばくない? 今日の昼休み、見た?」
「見た見た! 露骨だよねほんと。あんなの、好きですって言ってるようなもんじゃん」
「倉田さんがライバルになるならやめとこうかな…勝ち目ないし…」
「アンタね…」
携帯を確認する。少し遅れそうです。というメッセージが数十分前に届いたきり、深水からは何も連絡がない。
…迎えにいくか。いや別に、深水の様子が気になったとか、そういうわけではない。女の子たちの話が気になったわけでもなくて、ただ単に、遅いなと思っただけで、時間がかかりそうなら別日にしてもいいって伝えたくて、いやそれは携帯のメッセージでも済むんだけど、直接言った方が早いかなって…うん、そう。絶対にそう。それだけ。
たくさんの言い訳をしながら、上谷は荷物をまとめて立ち上がる。椅子を引く時、やたらと大きな音が出てしまった気がして、足早に図書室を出た。
「……今出て行ったの、カミヤ先輩じゃない?」
「ね! 近くで見ると結構かっこいいかも。私、カミヤ先輩にしようかな…」
「…アンタはまず、その移り気の早さを直した方がいいと思う…」
