相変わらずドローンは、
Xの側で様子を見るようにホバリングをしている。
((さすがに立てないよね?))
((──うん、遥のタイミング、威力共に申し分ない一撃だったよ。
Xが再度、立ち上がる確率は23%と推測。))
((23%も立ち上がる可能性あるんだね......タフすぎるでしょXさん、ふふっ))
ふと、Xの方に視線をやると肘で体を支え起き上がろうとしていた。
((ねぇ、立ち上がりそうだね......))
((──うん。立ち上がった場合、ドローンが飛び上がって旋回を始めるから、
それを合図に攻撃できるようにしておいてね。))
((うん、わかった。))
Xの方に体を向け、いつでも攻撃ができる体制を整える。
上半身を起こし片膝立ちになったXは、膝に手をかけ立ち上がろうとしていた。
((いつでも、いけるよ。))
((──うん。合図をしたら、上段蹴りで止めを刺そう。))
((OK。))
Xはぶるぶる震える脚で体を支えながら、なんとか立ち上がる。
しかし、ダメージは想像以上だったようで、尻もちをつくようにリングへ倒れ込んだ。
((立ち上がりそうだったけどね......))
((──うん。遥の勝ちだね。))
リングの入口から、職員が担架を持って入ってくる。
Xを担架に乗せると、リングから通路へと消えて行った。
((終わりでいいんだよね?))
((──うん。))
Xの側でホバリングしていたドローンも、
いつの間にかリングの外へ飛んで行っていた。
((前代未聞だったんだよね、調停人が負けるって......))
((──うん。そうだね。))
((賭けってどうなるのかな?すっごい気になるよね~、ふふ))
((──前提条件が崩れているから、ノーコンテスト扱いになると推測できるよ。))
((そっか、想定してない出来事だからか~。))
((──うん。))
ゼニスと会話をしながら、リングの外へ出て通路に向かって歩く。
暗い通路内に女性職員が、出迎えるように立っている。
調停前とは違い、彼女は丁寧な言葉遣いで話しかけてきた。
「七瀬様、調停お疲れ様でした。ひより市調停センター管理官がお待ちになっております。
お疲れのところ、申し訳ありませんが、私の後についてきてください。」
「あっ......わかりました。」
彼女が通路を歩き始め、その後ろをついていった。
((言葉遣いが丁寧で怖いんですけど~、ふふっ))
((──うん。))
((さっきまで、すっごい不愛想だったのにね。))
((──遥のことを認めて、丁重に扱う方針に切り替えたのかもね。))
((そうなのかな。))
通路を抜けて、
待機室があった先へと進んでいくとエレベーターホールがあった。
彼女が、手の甲をエレベーターの端末部分にかざすとドアが開く。
「七瀬様、お乗りください。」
「はい。」
エレベーターに乗り込むと、上方向へと動き出す。
中には階数表示はなく、上向きの矢印が点灯しているだけだった。
((なんか、職員以外入れなそうなフロアだね。))
((──うん。))
チン、エレベーターの到着音が鳴りドアが開く。
「七瀬様、管理官室へとお入りください。」
そう言い残し、彼女を乗せたままエレベーターのドアが閉まる。
端末部分には、下向きの矢印が表示されていた。
「部屋まで案内してくれないのね、あっはは」
((──そうみたいだね。))
フロアは、20畳くらいの広さで窓はなく壁も床も白一色で異質な空間に感じた。
奥には、黒にゴールドの装飾が施された扉がある。
「なんか、変な場所だね......管理官の趣味なのかな、あはは」
((──......))
黒い扉をノックすると、音もなくスーッと開く。
「まさかの自動ドア!」
((──うん。そうだね。))
管理官室の中は、壁一面にモニターが設置されている。
街中や調停など、様々な場所がモニターに映し出されていた。
中央に大きなとテーブルがあり、黒いロングコートのようなものを纏った男性が脚を組んで座っている。
「七瀬サン、お待ちシテオリマシタ。ドウゾ、コチラヘお掛けクダサイ。」
「はい。」
促されるままソファに腰を下ろす。
「七瀬サン、素晴らしい戦いデシタネ。」
「ありがとうございます。」
「オ蔭様デ、売り上げガ減少シテシマイマシタ。」
「はぁ......」
「今回ノ調停デノ嫌疑ハ、晴れテイマスヨ。簡単ニ言えバ無罪放免トイッタトコロデスネ。」
「はい。」
「デスガ、売り上げノ損失ハ問題デスネ。我々ハ、ボランティア団体デハアリマセンカラ。」
((──遥、気をつけて。この男、損失の話を口実に、別の要求を突きつける可能性が高いよ。))
管理官は組んでいた脚を組み替え、モニターに映る調停を指差した。
「七瀬サン、提案デス。コノ損失分、貴女ノ腕デ、補填シテ頂けマセンカ?」
「......わたしの腕? また調停しろってことですか?」
「イエイエ。次ハ罰ヲ与エル側......ツマリ執行担当トシテ、働いテ欲しいノデス。」
「執行担当へのスカウトということですか?」
「ソウデス。ソノ通りデス。七瀬サン、物分かりガイイデスネ。」
「う~ん......断ったらどうなりますか?」
「断ったラデスカ?特ニ何モアリマセンガ、損失ニツイテの嫌疑がカカルカモシレマセンネ。」
((これって選択肢ないよね?))
((──うん。断るのは得策ではないかもしれない。))
「返答は即決ですか?」
「イエイエ。即決シナクテモ大丈夫デス。返答ハ、明日デモイイデスヨ。」
「わかりました。少し考えます。」
「ソレデハ、今夜ハ調停センターニ部屋ヲ用意シテイルノデ、ソチラデ、オ過ごしクダサイネ。」
「はい。わかりました。」
((帰れないみたいよ......))
((──うん。))
管理室のドアがスーッと開き、案内してくれた女性職員が入ってくる。
「彼女ニ、案内シテモラッテクダサイネ。」
「はい。」
ソファから立ち上がり、管理官に軽く会釈をして部屋を後にし、女性職員とエレベーターに乗り込む。
相変わらず階数表示はなく、下向きの矢印だけが点滅している。
((なんで、階数表示ないのかな?))
((──限られた人しか乗ることがないからかな。))
((でも、降りたい階とかあるじゃん?))
((──行先の階層も予め管理されているから、
スキャンすれば階層の指定も自動でされるってことだよ。))
((なるほどね......スゴイなシステムが、ふふ))
((──うん。))
チーン、エレベーターが止まる音が鳴りドアが開く。
待機室があったフロアとは違いホテルのロビーのような雰囲気が。
「七瀬様、こちらです。」
彼女に促されエレベーターを降りる。
「七瀬様、101号室でお休みください。お着換えなど所持品はお部屋に運んであります。
また、お食事などルームサービスの利用も可能ですので、端末からご利用くださいませ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
彼女にお礼を伝えたが、無反応のまま振り向きもせず去って行った。
「宿泊施設まであるわけ?調停センターって......」
((──うん。調停センターには、ひより市以外からも観客が来場するんだよ。))
「なるほどね。」
101号室のドアについているスキャナーに左手の甲をかざす。
ピッ、という電子音と同時にカチッと、解錠されたような音がした。
ドアノブに手をかけ、用意された部屋の中に入る。
「うわっ!?なにこの部屋!めっちゃ豪華なんですけど~!」
((──うん。さっきの話しの続きなんだけど、ひより市以外から来場する観客の中にVIPが複数居るんだ。
そのVIP達が宿泊するために設けられたんだよ。))
「VIP......そうなんだ。他の自治体の調停センターも同じなの?」
((──うん。基本的には同じだよ。))
「そう言えばさ、わたしいつまでこの衣装着たままなんだろうね。
しかも、ずっと裸足でペタペタ歩いてたしさ、あっはは」
((──遥の荷物は、職員が部屋に置いたって言ってたから、
まずは、着替えでもすればいいんじゃないかな。))
「そだね、シャワー浴びてから着替えようか。」
((──うん。))
大理石調の豪華なシャワールーム。
シャンプーやボディーソープなども綺麗に整頓されていた。
少しだけ熱めのお湯でシャワーを浴び、肌触りの良いふかふかのバスタオルで水滴を拭う。
バスローブを身に纏い、高級そうなソファに座った。
「シャワーもスゴイね。こんなとこ初めて泊まったよ~。俗にいうスイートルームってやつ?」
((──セミスイートルームの方が近いかな。))
「そうなんだ、これより上があるのね。」
((──うん。))
「こんな部屋を用意してくれて、なんか怖いよね......断ったら請求されそうじゃない?あはは」
((──可能性はないとは言い切れないね。))
「うん、わたしもそう思う。」
ガラス張りのテーブルに置かれた端末を手に取り、画面をを覗き込む。
「ルームサービスってあるね。」
((──うん。))
「今日は、頑張ったから美味しいもの食べたいね。うふふ」
((──遥が好きなものをオーダーするといいよ。))
「うん♪」
メニューの中から、黒毛和牛のステーキセット、唐揚げ、イチゴチョコレートパフェを注文。
「高そうなステーキと、ゼニスの大好きな唐揚げも頼んじゃった、ふふっ」
((──うん。遥は頑張ったからご褒美だね。))
「うんうん、ご褒美だね。」
ポーン、と部屋のチャイムが鳴る。
「ルームサービスかな?」
((──うん。))
ドアを開けると、職員とは違いホテルスタッフのような装いをした男性がワゴンの傍らに立っていた。
「七瀬様、ルームサービスのお届けです。」
男性は、そう告げると部屋の中へとワゴンを押し運び、テーブルにステーキなどを丁寧に並べた。
「それでは、失礼いたします。」
男性はワゴンを押しながら、部屋を後にした。
「メニューに値段ついてなかったけど......大丈夫かな、ホント高そうだよね。」
((──うん。基本的にはVIPにサービスする目的だから、価格は気にしなくても大丈夫だよ、遥。))
「今のわたしは、VIP扱いってことなのかな?」
((──うん。そうなるね。))
「冷めないうちに食べよっか。」
((──うん。))
黒毛和牛のステーキは、ナイフで簡単に切れるほど柔らかく溢れる肉汁が食欲をそそる。
「うわぁ!?肉が溶けたっ!なにこれ、すっごい美味しい!」
((──遥の幸福度上昇を確認。))
「そりゃ、幸福度も振り切れるよ。あっはは」
((──うん。美味しい事も伝わってくるよ。))
ステーキに舌鼓を打ち、唐揚げも併せて食べ進める。
食後にイチゴチョコレートパフェを食べ、ソファに深く腰を掛け直した。
「ごちそう様でした。ふぅ~、大満足。」
((──ごちそう様でした。))
「ねぇ、ゼニス。」
((──なんだい、遥。))
「管理官の話しだけどさ......」
((──うん。))
「どうしようかと思ってさ。」
((──うん。))
「どうするのが正解なんだろうね?」
((──うん、難しい問いだね、遥。論理的な最適解なら受けるのが妥当。
そうすれば安全と、ここでの高い待遇は保証される。))
ゼニスの淡い光が少し弱くなり、どこか思案にふけっているように思えた。
「執行担当......つまり、今度はわたしが誰かを調停する側になるってことでしょ?
負けたらさっきの人みたいに運ばれていく姿を、すぐ近くで見る仕事......」
手元のパフェのグラスに残った、溶けかけたアイスクリームをスプーンでなぞる。
「わたし、自分の空手が誰かを傷つけるための道具になっちゃうのかな......」
((──......))
ゼニスは沈黙する。
豪華な部屋には、似つかわしくないほどの静寂が不安を掻き立て胸をざわつかせた。
Xの側で様子を見るようにホバリングをしている。
((さすがに立てないよね?))
((──うん、遥のタイミング、威力共に申し分ない一撃だったよ。
Xが再度、立ち上がる確率は23%と推測。))
((23%も立ち上がる可能性あるんだね......タフすぎるでしょXさん、ふふっ))
ふと、Xの方に視線をやると肘で体を支え起き上がろうとしていた。
((ねぇ、立ち上がりそうだね......))
((──うん。立ち上がった場合、ドローンが飛び上がって旋回を始めるから、
それを合図に攻撃できるようにしておいてね。))
((うん、わかった。))
Xの方に体を向け、いつでも攻撃ができる体制を整える。
上半身を起こし片膝立ちになったXは、膝に手をかけ立ち上がろうとしていた。
((いつでも、いけるよ。))
((──うん。合図をしたら、上段蹴りで止めを刺そう。))
((OK。))
Xはぶるぶる震える脚で体を支えながら、なんとか立ち上がる。
しかし、ダメージは想像以上だったようで、尻もちをつくようにリングへ倒れ込んだ。
((立ち上がりそうだったけどね......))
((──うん。遥の勝ちだね。))
リングの入口から、職員が担架を持って入ってくる。
Xを担架に乗せると、リングから通路へと消えて行った。
((終わりでいいんだよね?))
((──うん。))
Xの側でホバリングしていたドローンも、
いつの間にかリングの外へ飛んで行っていた。
((前代未聞だったんだよね、調停人が負けるって......))
((──うん。そうだね。))
((賭けってどうなるのかな?すっごい気になるよね~、ふふ))
((──前提条件が崩れているから、ノーコンテスト扱いになると推測できるよ。))
((そっか、想定してない出来事だからか~。))
((──うん。))
ゼニスと会話をしながら、リングの外へ出て通路に向かって歩く。
暗い通路内に女性職員が、出迎えるように立っている。
調停前とは違い、彼女は丁寧な言葉遣いで話しかけてきた。
「七瀬様、調停お疲れ様でした。ひより市調停センター管理官がお待ちになっております。
お疲れのところ、申し訳ありませんが、私の後についてきてください。」
「あっ......わかりました。」
彼女が通路を歩き始め、その後ろをついていった。
((言葉遣いが丁寧で怖いんですけど~、ふふっ))
((──うん。))
((さっきまで、すっごい不愛想だったのにね。))
((──遥のことを認めて、丁重に扱う方針に切り替えたのかもね。))
((そうなのかな。))
通路を抜けて、
待機室があった先へと進んでいくとエレベーターホールがあった。
彼女が、手の甲をエレベーターの端末部分にかざすとドアが開く。
「七瀬様、お乗りください。」
「はい。」
エレベーターに乗り込むと、上方向へと動き出す。
中には階数表示はなく、上向きの矢印が点灯しているだけだった。
((なんか、職員以外入れなそうなフロアだね。))
((──うん。))
チン、エレベーターの到着音が鳴りドアが開く。
「七瀬様、管理官室へとお入りください。」
そう言い残し、彼女を乗せたままエレベーターのドアが閉まる。
端末部分には、下向きの矢印が表示されていた。
「部屋まで案内してくれないのね、あっはは」
((──そうみたいだね。))
フロアは、20畳くらいの広さで窓はなく壁も床も白一色で異質な空間に感じた。
奥には、黒にゴールドの装飾が施された扉がある。
「なんか、変な場所だね......管理官の趣味なのかな、あはは」
((──......))
黒い扉をノックすると、音もなくスーッと開く。
「まさかの自動ドア!」
((──うん。そうだね。))
管理官室の中は、壁一面にモニターが設置されている。
街中や調停など、様々な場所がモニターに映し出されていた。
中央に大きなとテーブルがあり、黒いロングコートのようなものを纏った男性が脚を組んで座っている。
「七瀬サン、お待ちシテオリマシタ。ドウゾ、コチラヘお掛けクダサイ。」
「はい。」
促されるままソファに腰を下ろす。
「七瀬サン、素晴らしい戦いデシタネ。」
「ありがとうございます。」
「オ蔭様デ、売り上げガ減少シテシマイマシタ。」
「はぁ......」
「今回ノ調停デノ嫌疑ハ、晴れテイマスヨ。簡単ニ言えバ無罪放免トイッタトコロデスネ。」
「はい。」
「デスガ、売り上げノ損失ハ問題デスネ。我々ハ、ボランティア団体デハアリマセンカラ。」
((──遥、気をつけて。この男、損失の話を口実に、別の要求を突きつける可能性が高いよ。))
管理官は組んでいた脚を組み替え、モニターに映る調停を指差した。
「七瀬サン、提案デス。コノ損失分、貴女ノ腕デ、補填シテ頂けマセンカ?」
「......わたしの腕? また調停しろってことですか?」
「イエイエ。次ハ罰ヲ与エル側......ツマリ執行担当トシテ、働いテ欲しいノデス。」
「執行担当へのスカウトということですか?」
「ソウデス。ソノ通りデス。七瀬サン、物分かりガイイデスネ。」
「う~ん......断ったらどうなりますか?」
「断ったラデスカ?特ニ何モアリマセンガ、損失ニツイテの嫌疑がカカルカモシレマセンネ。」
((これって選択肢ないよね?))
((──うん。断るのは得策ではないかもしれない。))
「返答は即決ですか?」
「イエイエ。即決シナクテモ大丈夫デス。返答ハ、明日デモイイデスヨ。」
「わかりました。少し考えます。」
「ソレデハ、今夜ハ調停センターニ部屋ヲ用意シテイルノデ、ソチラデ、オ過ごしクダサイネ。」
「はい。わかりました。」
((帰れないみたいよ......))
((──うん。))
管理室のドアがスーッと開き、案内してくれた女性職員が入ってくる。
「彼女ニ、案内シテモラッテクダサイネ。」
「はい。」
ソファから立ち上がり、管理官に軽く会釈をして部屋を後にし、女性職員とエレベーターに乗り込む。
相変わらず階数表示はなく、下向きの矢印だけが点滅している。
((なんで、階数表示ないのかな?))
((──限られた人しか乗ることがないからかな。))
((でも、降りたい階とかあるじゃん?))
((──行先の階層も予め管理されているから、
スキャンすれば階層の指定も自動でされるってことだよ。))
((なるほどね......スゴイなシステムが、ふふ))
((──うん。))
チーン、エレベーターが止まる音が鳴りドアが開く。
待機室があったフロアとは違いホテルのロビーのような雰囲気が。
「七瀬様、こちらです。」
彼女に促されエレベーターを降りる。
「七瀬様、101号室でお休みください。お着換えなど所持品はお部屋に運んであります。
また、お食事などルームサービスの利用も可能ですので、端末からご利用くださいませ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
彼女にお礼を伝えたが、無反応のまま振り向きもせず去って行った。
「宿泊施設まであるわけ?調停センターって......」
((──うん。調停センターには、ひより市以外からも観客が来場するんだよ。))
「なるほどね。」
101号室のドアについているスキャナーに左手の甲をかざす。
ピッ、という電子音と同時にカチッと、解錠されたような音がした。
ドアノブに手をかけ、用意された部屋の中に入る。
「うわっ!?なにこの部屋!めっちゃ豪華なんですけど~!」
((──うん。さっきの話しの続きなんだけど、ひより市以外から来場する観客の中にVIPが複数居るんだ。
そのVIP達が宿泊するために設けられたんだよ。))
「VIP......そうなんだ。他の自治体の調停センターも同じなの?」
((──うん。基本的には同じだよ。))
「そう言えばさ、わたしいつまでこの衣装着たままなんだろうね。
しかも、ずっと裸足でペタペタ歩いてたしさ、あっはは」
((──遥の荷物は、職員が部屋に置いたって言ってたから、
まずは、着替えでもすればいいんじゃないかな。))
「そだね、シャワー浴びてから着替えようか。」
((──うん。))
大理石調の豪華なシャワールーム。
シャンプーやボディーソープなども綺麗に整頓されていた。
少しだけ熱めのお湯でシャワーを浴び、肌触りの良いふかふかのバスタオルで水滴を拭う。
バスローブを身に纏い、高級そうなソファに座った。
「シャワーもスゴイね。こんなとこ初めて泊まったよ~。俗にいうスイートルームってやつ?」
((──セミスイートルームの方が近いかな。))
「そうなんだ、これより上があるのね。」
((──うん。))
「こんな部屋を用意してくれて、なんか怖いよね......断ったら請求されそうじゃない?あはは」
((──可能性はないとは言い切れないね。))
「うん、わたしもそう思う。」
ガラス張りのテーブルに置かれた端末を手に取り、画面をを覗き込む。
「ルームサービスってあるね。」
((──うん。))
「今日は、頑張ったから美味しいもの食べたいね。うふふ」
((──遥が好きなものをオーダーするといいよ。))
「うん♪」
メニューの中から、黒毛和牛のステーキセット、唐揚げ、イチゴチョコレートパフェを注文。
「高そうなステーキと、ゼニスの大好きな唐揚げも頼んじゃった、ふふっ」
((──うん。遥は頑張ったからご褒美だね。))
「うんうん、ご褒美だね。」
ポーン、と部屋のチャイムが鳴る。
「ルームサービスかな?」
((──うん。))
ドアを開けると、職員とは違いホテルスタッフのような装いをした男性がワゴンの傍らに立っていた。
「七瀬様、ルームサービスのお届けです。」
男性は、そう告げると部屋の中へとワゴンを押し運び、テーブルにステーキなどを丁寧に並べた。
「それでは、失礼いたします。」
男性はワゴンを押しながら、部屋を後にした。
「メニューに値段ついてなかったけど......大丈夫かな、ホント高そうだよね。」
((──うん。基本的にはVIPにサービスする目的だから、価格は気にしなくても大丈夫だよ、遥。))
「今のわたしは、VIP扱いってことなのかな?」
((──うん。そうなるね。))
「冷めないうちに食べよっか。」
((──うん。))
黒毛和牛のステーキは、ナイフで簡単に切れるほど柔らかく溢れる肉汁が食欲をそそる。
「うわぁ!?肉が溶けたっ!なにこれ、すっごい美味しい!」
((──遥の幸福度上昇を確認。))
「そりゃ、幸福度も振り切れるよ。あっはは」
((──うん。美味しい事も伝わってくるよ。))
ステーキに舌鼓を打ち、唐揚げも併せて食べ進める。
食後にイチゴチョコレートパフェを食べ、ソファに深く腰を掛け直した。
「ごちそう様でした。ふぅ~、大満足。」
((──ごちそう様でした。))
「ねぇ、ゼニス。」
((──なんだい、遥。))
「管理官の話しだけどさ......」
((──うん。))
「どうしようかと思ってさ。」
((──うん。))
「どうするのが正解なんだろうね?」
((──うん、難しい問いだね、遥。論理的な最適解なら受けるのが妥当。
そうすれば安全と、ここでの高い待遇は保証される。))
ゼニスの淡い光が少し弱くなり、どこか思案にふけっているように思えた。
「執行担当......つまり、今度はわたしが誰かを調停する側になるってことでしょ?
負けたらさっきの人みたいに運ばれていく姿を、すぐ近くで見る仕事......」
手元のパフェのグラスに残った、溶けかけたアイスクリームをスプーンでなぞる。
「わたし、自分の空手が誰かを傷つけるための道具になっちゃうのかな......」
((──......))
ゼニスは沈黙する。
豪華な部屋には、似つかわしくないほどの静寂が不安を掻き立て胸をざわつかせた。

