ゼニスは視界の隅で笑う~裁きはリングで決する、不条理な監視社会で生き残れるか~

菓子パンをモグモグしていると
調停について少し疑問が湧いてきた。

少し天井を見上げ、
目を閉じ、考えをまとめる。

「ねぇゼニス、
 どんな感じで調停になるのかってところに、
 少し疑問があるんだよね。」

((──どんな点に疑問を感じているのかな?))

「例えば、
 ショッピングモールで、
 AさんにBさんがぶつかりました。
 そこで、BさんがAさんに謝って、
 Aさんがその謝罪を受け入れたら、
 調停にはならないでしょ。」

((──うん。
  遥の認識で、間違いないよ。))

「でも、
 AさんがBさんの謝罪を受け入れなかったら、
 調停になるのはわかるんだけど......
 これって、自分たちで申告するものなの?」

((──なるほど。
  街中で起きる些細な出来事が、
  どのように調停へ進んでいくのか?
  その流れを知りたいんだね。))

「うん、そんな感じ。」

((──簡単に説明すると、些細な出来事も含めて、
  どのような事が起きているのかという情報は、
  情報統括省の自治体管理センターに、
  随時送られているんだ。))

「えっ!? 
 情報統括省の自治体管理センター......?」

((──遥は、調停だけじゃなくて、
  この社会のルール全体を覚えていないよね。
  だから、今は細かいところを気にしなくていいよ。
  話を続けるね。))

「うん......」

((──常時監視体制と言えば、わかりやすいかな。
  だから、何かトラブルが起きた場合には、
  区分に応じて、担当者が現場に駆け付ける形になっているよ。
  犯罪行為であれば、警察。
  犯罪に該当しないトラブルであれば警備員だね。))

「そうなんだ......すごいシステム......
 AIでも使ってるのかな?」

((──システムの仕組みに気づいたんだね。
  詳細は公開されていないけれど、
  AIが使われている可能性は高いと思うよ。
  少し話が逸れたから、続きに戻すね。))

「うん、お願い。」

((──つまり、常時監視システムがあることで、
  現場に到着するまでが早い、ということだね。
  警備員、もしくは警察が到着した時点で、
  調停することは確定している。
  そのあと、トラブル内容の確認と本人確認を行い、
  調停の手続きが完了する、そういう流れだよ。))

「警備員って、民間企業じゃないの?」

((──遥の言う通り、警備員は民間企業だよ。
  ただ、犯罪に該当しないトラブルへの対応を委託されている立場だから、
  情報統括省が管理している。
  警察も警備員も、役割としては変わらないと、
  覚えておけばいいよ。))

「なるほどね......警察予備?準警察?
 みたいなことかな......」

テーブルに置いてあった飲み物を手に取り、
一口飲んで、ふうっと息をついた。

((──ここまでで、何か質問はあるかな?))

「ううん、特にないかな......
 だんだん理解できてきたよ。」

((──うん、それは良い傾向だね。))

「あとは、調停の日付とか、
 時間が送られてくるのかな?」

((──うん、正解だよ、遥。
  スマホに、調停の日時が送られてくる。
  当然だけど、無視すれば区分変更になるのは、もう知っているよね。))

「うん、覚えてるよ。」

ソファに座ったまま、
伸びをする。

「ここまで、初めてのことばっか聞いてるとさ......
 ホント違う世界に迷い込んだみたいだよね。あっはは」

((──遥がそう感じるのも、無理はないね。))

「わたしが、覚えてないだけなんだもんね......」

((──そうだね。))

「ゼニスのサポートがあるから、
 覚えてなくても生きていけるのは大きいよね。」

((──そう言ってくれると嬉しいな。))

「ほんと、ゼニスがいなかったらヤバいでしょ。ふふっ」

((──遥のことは、
  しっかりサポートするから安心してね。))

「うん。ずっと頼りにしてるよ。」

ソファからベッドへ移動し、
仰向けに寝転がる。

ゼニスを見つめながら、
軽く伸びをして、起き上がった。

「調停って、話し合いなんだよね?
 少しのトラブルで、時間を取られるって考えると......
 なんか時間がもったいない気がするよね。
 『ごめんなさい』して、許してくれたらそれでいいのに......
 でも全部がそうなるわけじゃないか。」

((──うん。
  遥の言うことはもっともだね。
  軽微なトラブルも含めて、件数自体は、年々減少傾向にある。
  制度としては間違いなく、機能しているのも事実かな。))

「そだね。聞けば聞くほど、すごい制度だよ。」

((──調停について、かなり理解が深まったんじゃないかな。))

「そだね。かなり深まったと思うよ。」

((──それなら良かった。))

「ちなみに、調停って単に話し合いするんだよね?」

((──話し合いも含めて、様々な形式があるよ。))

「様々な形式って言っても、
 まさかオセロとかで決めないよね?あっはは」

((──遥は面白い発想をするね。
  でも、あながち間違ってもいないかな。))

「えっ!?オセロでもいいの?」

((──うん。
  過失割合が低い方が、内容を決めることができるから、
  オセロを選択することも、不可能ではないよ。
  ただし、オセロで調停を行った記録は、今のところ存在しないけどね。))

「可能なんだ......すごいね。」

ソファに戻り、
飲み物を飲んで、軽く息を吐く。

深く座り直し、ゼニスを見つめた。

「過失割合は事故とかと同じようなイメージ?」

((──うん、そうだよ。))

「考えた人もすごいけど、
 導入した政府もすごいな、ふふっ」

((──そうだね。))

「なんか、たくさん話したから、
 眠くなってきたよね。ふふっ」

((──うん。休息も大事だよ。))

「ふわぁ......だね......」

ベッドに戻り、そのまま横になる。
ゆっくりと目を閉じると、意識が深く沈んでいった。

ゼニスの光が、限界まで減衰する。
空間の奥で、識別不能な処理が立ち上がった。

......監_視......系――再_構......成......
――対......象_群......抽......出――
......優......先......度......付――与......

――遙/深_度......睡......眠......
......介......入......可_否......判......定――
――実......行......制......限......解――除――

......感_覚......層......分......離......
――影......響......半......径......算......出――
......誤......差......収......束......

――――――――――

......ph_a......se......3_
――移......行......確......定――
......r_u......n......

――――――――――

_#_opt_l_ne_
......参_照......再......配......列......
――条......件......更......新――

――――――――――

......準......備......
――対......応......開......始――

処理は、音もなく進行していた。
その静けさが、夜を越えて続いていく。

カーテンの隙間から差し込む光が、
部屋をゆっくりと明るく照らしていく。

やさしい光が瞼を刺激し、
徐々に意識がクリアになってきた。

「ふわぁ〜......よく眠れた〜。おはよ、ゼニス。」

((──おはよう、遥。昨日の睡眠も、安定していたよ。))

「ゼニスは寝ないもんね? ふふっ」

((──うん。
  人間と違って、睡眠は必要ないからね。))

「そりゃそうか。あはは」

ベッドから降り、バスルームへ向かう。
シャワーを浴びて、サッと身支度を整え、部屋へと戻った。

「ねぇ、もしかしてだけど、
 自治体も調停センターって名称でいいのかな?
 それって、傍聴みたいなのできるんじゃない?」

((──うん。地区にある調停センターでは、
  軽微なトラブルについては、当事者同士の解決を重視しているから、
  観覧は行われていない。
  けれど、犯罪が扱われる自治体の調停センターでは、観覧が可能だよ。))

「......観覧?」

((──うん。
  本人確認を行った上で、観覧チケットを購入すれば問題ない。))

「チケットは、購入するんだね......無料だと思ってたよ......」

((──無料ではないんだ。
  観覧には、チケットの購入が必須になるよ。))

「チケットを買ったら、誰でも見れるんだね?」

((──そうだね。自治体にもよるけれど、
  会場の大きさが異なるから、収容人数には限りがあるよ。))

「なるほど......
 なんか、ライブとか、格闘技の試合みたいだね。ふふっ」

((──イメージとしては、近いと思うよ。
  調停の観覧は人気があるから、予約しておく方法もある。))

「予約すれば、席が確保できるんだ......っていうか!人気あるの!?」

((──うん。調停は、人気があるよ。))

「そうなんだ......面白いのかな?」

((──個人差はあるだろうけど、観覧者が多いのは、事実だね。))

「そう言われると、めっちゃ見たくなるんですけど〜!あっはは」

((──遥らしいね。))

冷蔵庫から缶コーヒーを取り出し、
グビグビと飲み干す。

「開催日とか決まってるんだよね?」

((──取り扱い件数にもよるけれど、
  不定期開催と考えた方がいいかもね。))

「件数が少ないと、定期的に開催できないからだね。」

((──その通り。だから、不定期開催なんだ。))

「うんうん、納得。」

((──遥は、調停を観覧したいんだね?))

「うん!見てみたいよね!」

ソファに腰を下ろし、ゼニスを見つめる。

((──少し待っててね。
  ひより市で、調停が開催されるか、調べてみるよ。))

「ありがと、ゼニス。」

((──お待たせ。本日、夜に開催予定があるよ。))

「おぉ〜!タイムリーすぎる!」

((──うん。タイミングが、とても良かったね。))

「あとは、チケット買えるかどうかかな?」

((──そうだね。見たいなら、予約しておこうか?))

「いいの?」

((──もちろん。))

「じゃあ、お願いしようかな。」

((──OK。予約するね。))

「なんか、わくわくするね。」

((──遥。観覧予約ができたよ。))

「やった〜!」

((──あとは、時間までに、会場へ行けば大丈夫だよ。))

「うん......場所ってどこなんだろ?」

((──タクシーで、行けばいいと思うよ。))

「あっ、そうだね。駅前にタクシーたくさん停まってるもんね。」

((──うん。))

バッグに、財布と鍵を入れる。
靴を履き、ドアを開けて外へ出た。