ゼニスは視界の隅で笑う~裁きはリングで決する、不条理な監視社会で生き残れるか~

ゼニスの淡い光が、
ゆっくりと明度を落としていく。

真っ暗な部屋の中で、
音のない処理が動き出した。

......思 考――中......
――遙/状 態_確......認――
......脳_接......続――再......
......引っ――k.......oし――
......移――行......う......完――

――感 情......ノ――い......ズ......
......補......正......
――環......境......揺......ラ......ぎ......
......解――析_誤......差_0.06――

――信_号......DA――TE......
......再_配......置......¥
_#......同――期......確_認――

――――――――――

......フ ェ_ー......ズ......2_
――完_z.......全――移_行......
_完_了――

――――――――――

_167_3.169_¥¥¥
......次_段......k_階――
――次_p_ha_se――
......構_t.......ち_築......

――――――――――

――準......備_
......st_た......ア_art――

処理は、静かに終端へ到達した。

夜は音もなく更けていく。
まるで、何事もなかったかのように......

目が覚めると、
白い天井が視界に入った。

カーテンの隙間から差し込む光はやわらかい。

「......ふぁ......」

小さくあくびをして、
そのままベッドの上でごろりと寝返りを打つ。

体はちゃんと休めた感じがする。
思っていたより、
引っ越しの疲れもぜんぜん残っていない。

「おはよ、ゼニス。」

((──おはようございます、遥。))

視界の隅で、
淡い光が静かに揺れている。

いつも通り。
本当に、いつも通りだ。

ベッドから起き上がり、
カーテンを開ける。

朝の光が部屋に広がって、
白い壁と床をやさしく照らした。

「顔洗ってこよ~。」

((──はい。))

洗面所へ向かい顔を洗う。

冷たい水が、
まだ少し眠っていた意識を引き上げてくれる。

「今日は、なにしようかな~?」

((──朝食はどうしますか、遥?))

「そだね~。
 朝ごはんのこと考えてなかったな、えへへ。」

((──では、コンビニエンスストアで調達しましょうか?))

「うん、いいね。」

タオルで顔を拭きながら部屋に戻り、
ショートパンツとボーダーのカットソーに着替える。

「よし、コンビニいこっ!」

((──はい。))

部屋の鍵と財布を持ち、
そのまま部屋を後にした。

コンビニに向かう途中で、
思ったよりも人が多いことに気づいた。

スーツ姿の人、
イヤホンをつけたまま早足で歩く人、
スマホを見ながら駅へ向かう人。

((朝だから、出勤とかの人多いね。))

((──はい。住宅地も多いため、
  駅への人流はそれなりにあります。))

((だよね~。))

((──はい。))

そんなやり取りをしながら歩いていると、
いつの間にか、コンビニに到着していた。

コンビニの自動ドアが開くと、
軽い電子音が鳴る。

店内は、少し混んでいる。
コーヒーマシンの前に1人、
レジにも、2、3人並んでいた。

((朝のコンビニって感じ......ふふふ。))

((──はい。))

棚を見ながら、
おにぎりとサンドイッチの前で少し迷う。

その時、
店内が少しだけバタついたのを感じた。

売り場の方で、
店員さんと男性客が言葉を交わしている。

声ははっきり聞こえないけれど、
空気が、少しだけ張りつめている。

なんとなく気になって、
そちらへ視線を向けると――

男性客のバッグを指しながら、
店員さんが、何かを確認するように声をかけている。

((えっ......もしかして、万引き?))

((──はい。
  その可能性は高いと推測されます。))

そのやり取りを見ていると、
奥の扉が開き、
オーナーらしき人が出てきた。

店員さんに何かを確認すると、
男性客と少し言葉を交わす。

男性客は、
抵抗する様子もなく、ただうなずていた。

そのまま、
店の奥へと連れていかれる。

張りつめていた店内の空気が、
すーっと元に戻った気がした。

((絶対、万引きだよね?))

((──はい。))

((なんか変なタイミングでコンビニきちゃったね......ふふ))

((──万引きは、認知されている件数で
  年間およそ十万件前後発生しています。
  時間換算では、5~6分に一件程度です。
  特に珍しい事例ではありません。))

((おぉ~......さすがゼニス辞書!))

((──正確には、一般的な用語定義ではなく、
  公開されている統計データを参照しています。))

((うんうん、細かいことはいいの......ふふ))

((──はい。))

サンドイッチやおにぎりを選んで振り向くと、
コンビニの外に、
パトカーが停まるのが見えた。

警察官が2人降りてきて、
そのまま店の奥へ入っていく。

少しして、
万引きをしたと思われる男性と一緒に出てきた。

店の外で、
何か言葉を交わしている様子が見える。

その時、
男性の左手の甲に、
何か機械のようなものを当てる動作があった。

一瞬のことで、
何をしているのかはわからない。

((えっ......なに、してるんだろ?))

男性を乗せたパトカーは、
何事もなかったかのように走り去っていった。

((ねぇ、ゼニス......今のなんだったの?))

((──状況から判断すると、
  万引きの疑いで警察が対応したものと思われます。))

((違くて......警察の人がなんか、手の甲に当ててたでしょ?))

((──何をしているのか、確認できませんでした。))

((そっかぁ......なにしてたのか気になるね......))

((──遥は、同様の場面を目にしたことはありますか。))

((ううん、万引きで警察が来たのは初めてかな......))

((──これまでに、
  同様の場面を目にした経験がなかったため、
  違和感と感じてしまったのではないでしょうか。))

((そういうもんなのかな~......))

((──はい。))

冷蔵ケースから飲み物を選んで、
そのまま腕に抱えた。

レジに向かい、
会計を済ませて、コンビニを出る。

((なんか不思議な光景を見た気がするな......))

((──初めて目にする状況だったためだと推測できます。))

((そうなんだろうけどさ......))

((──帰宅して朝食にしましょう、遥。))

((だね、考えても仕方ないもんね、ふふふ))

コンビニ袋を持ち、
アパートへと向かって歩き出した。