不機嫌な幼なじみと鈍感な僕

蛍光灯の明かりに照らされ、綺麗に輝くビー玉を眺めながら昔のことを思い出す。
 遼と仲良くなった日のことを……。
母親が亡くなり、自分を引き取ってもらえる親戚は居なかった。

保健所の職員に連れて行かれ、『今日からここが旭君の家』だと言われて放り出された。

当然、当時の旭には状況がのみ込めず、初めての環境に知らない子供たち。そして知らない大人に囲まれて誰とも心を開けずにいた。

案内されたのは四人部屋。配膳された夕食にも手を付けづに旭は部屋の隅で蹲っていた。時折職員が旭の様子を見に来るものの、俯いてやり過ごす。とにかく家に帰りたかった。

母親と一緒に住んでいたアパートに……。病気で寝込んでいる母のために傍で看病していた旭に優しく『旭、ありがとう』と撫でてくれていた手が恋しい。

「おい、お前。新入りだろ。風呂の時間終わるぞ?」
 唐突に声を掛けられて顔を上げると、僅かに釣り上がった目に茶色い瞳。

肌の白い同じくらいの年の男の子が両腕を組んで立っていた。明らかに自分に声を掛けられているがキツイ口調が旭の心を余計に閉ざした。

 首を左右に振って拒絶を示すと男の子の表情じゃ更にムッとする。

「風呂入らないとか汚ねーぞ」
「汚くないもん……」
「なら入ってこいよ。じゃないとお前の事、キタナイマンって呼ぶぞ?」

『やーい、キタナイマン』と何度も呼んで煽ってくる。幾ら旭でもそれが否定的な意味で揶揄われていることが分かった。「違うもん」と反発してもずっと煽ってくる声が五月蠅くて耳を塞ぐが声は止まない。

「汚くないもん……。こんなとこ嫌だ。ママのとこ帰りたい……」
「はぁ?ここに来たらもう帰れないんだよ」
「っひく……やだっ。かえりたいっ」

 『帰れない』という言葉が旭を悲しくさせ、次第に涙が溢れてくる。堪らずにワンワンと泣いていると、部屋に大きなお兄ちゃんが入ってきた。旭の状態を見るなり、お兄ちゃんは男の子に近づくと男の子の頭目がけてげんこつをした。

「りょう‼新しい子のこといじめんなよ」
「レイ兄ぃ。いってぇじゃんか。俺は苛めてないっ」

 男の子は両手で頭を抑えてはお兄ちゃんのことを睨む。きっとこの部屋では一番偉いのだろう。

「じゃあなんで泣いてんだよ。いいから謝れ」
「やだ。俺、悪くねーもん」
「マツー。りょう、新しい子のこと苛めてなかったか?お前、ずっと部屋にいたんだろ?」

 部屋の向かいにある二段ベッドの上段にいた中くらいのお兄ちゃんに大きいお兄ちゃんが話し掛ける。

「キタナイマンとか呼んで苛めてた」

 上段で本を読んでいたお兄ちゃんは本から顔をあげるとそう答えた。