不機嫌な幼なじみと鈍感な僕

園に到着し玄関柵の前で立ち止まる。星杏ちゃんは早々に旭に手を振り、施設内に入っていくのに対して、遼人はその場に立ち止まったまま、旭と向かい合っていた。

「遼、入らないの?」

「あ、えっと……。あのさ」

首を傾げて問うてみるが、遼人はこめかみを人差し指で掻きながら何か言いたげに口ごもっていた。
「旭、昼はごめん」

 あのー……、を繰り返し、漸く出てきた遼人の言葉に驚いたが、旭は目を細め。微笑むと静かに首を振った。

「ううん、気にしてないから。いつものことでしょ?遼の不機嫌王子様スイッチ」
「不機嫌王子様って……⁉」
「僕も遼を寂しくさせちゃってるから、おあいこだよ」
「さ、寂しくねーし」

 両手の親指を擦り合わせて、僅かに頬を赤らめている。本心が丸わかりの遼人の態度に、旭は口元を抑えてクスリと笑う。

 すると、「何がおかしいんだよっ」と顔を真っ赤にして怒ってきたので、それがまた面白かった。

「そうだ。遼、浴衣着ないの?着たかったら文子さんに遼の分も頼んでみるよ?」
「着ない……。星杏も着るんだろ?被るし嫌だ」

ふと、思い立って遼人に提案してみたが先ほどの怒った名残でそっぽを向いたままだった。

「いいじゃん。兄妹仲良く浴衣。遼なら絶対似合いそう」
「うるせぇ。俺は見せもんじゃないし」
「見せもんじゃなくても、遼の浴衣見たい人沢山いそう。衣装効果で御客さんも寄ってくるんじゃない?」

 遼人の隠れファンは多いだろうし、遼人が浴衣を着ると噂が広まれば沢山の人が縁日に来てくれるのは間違いないだろう。旭自身も縁日を盛り上げたい気持ちがある。相乗効果狙いで提案した意図もあるが、本心ではただ単純に彼の浴衣姿を見たい。

 しかし、当の本人は乗り気じゃないのか深い溜息を吐く。

「あーあー。旭がそんなこと言うから余計に着たくなくなった。じゃあな」

 呆れたように呟いた後、遼人は旭に背を向けて柵の中へ入ると施
設の入口へ向かってしまった。

また失言をしてしまっただろうか……。旭は自身の肩に掛けてい
た鞄のストラップを両手で握ると遠ざかる遼人の背中を寂寞たる思いで見つめていた。