旭の予感は的中し、遼人をあの日から学校で見かけることはなくなった。星杏ちゃんの話によるとオーディションで入賞は逃したものの、最終選考まで残ったことで芸能事務所の目に留まり都内でダンスレッスンを本格的に受けることが多くなったという。
だから最近では遼人のアルバイト先のラーメン屋に足を運んでも見掛けることはなくなった。中華料理屋のオバさんや遼人を知る周りの人達は芸能活動に足を踏み入れた彼を、全力で応援しているが旭は複雑だった。
遼人に問われた時は想像もつかなかったが、いざいつも一緒だった遼人を見掛けなくなると寂しさは日に日に増していた。
碌に弁解もできていない。きっと遼人は星杏ちゃんと自分が付き合っていると勘違いしたままで、彼自身のことを邪魔だと思われてしまっているに違いなかった。
このまま遼は自分の手の届かないところまで行ってしまうのだろうか。
弁解できないことへの後悔をあるけど、これ以上彼を欲してしまわぬように、このままそっとして置く方が最良な気がした。
真冬の間、屋上は閉鎖されてしまうため、旭は教室で御昼休みを過ごしていた。友人に体育館でバスケをしないかと誘われたが乗り気ではなかった旭は机に進路希望調査を広げて弁当をつつく。
「あさひっ」
「星杏ちゃん」
背後から肩を叩かれ、箸で掴んでいた赤ウインナーを落としそうになりながら振り返ると星杏ちゃんが前の座席に横向きになって腰を掛けた。
「進路、まだ一年なのに早いよね」
「うーん……でも、星杏ちゃんは大学行くんでしょ?」
「うん、まぁね。あたし、星が好きなの。辛い時とか施設の窓から星を眺めてる時とか乗り越えられる気がして……
だからもっと大学に行って勉強したいなって思ってるんだ」
「すごいなー。きっと遼は芸能人になるんだろうし。僕はどうなんだろう……」
「これは?」
星杏ちゃんが指を指した先は机上に置いていた一眼レフのカメラだった。結局十月初旬から十一月中旬にかけて行われた写真のコンテストは、最終選考に残る先輩たちの一方で旭は選考にすらならなかった。
才能のある逸材はすぐに功績を残していく。旭は才能すらない凡人なのだと現実を見せつけられた気分だった。
それならば好きなものを撮って趣味で終わらせる方が自分には合っているかもしれない。
「でもあたし、この写真好きだよ。遼人がムッてしてる顔。これって遼人が旭にだけしか見せない顔だよね。しかもバイト中ですって感じがして日常の遼人全開」
カメラと一緒に机に上げていたL判専用のアルバムファイル。星杏ちゃんがパラパラと中身を捲り、旭に写真を見せてきた。
「確かに僕もその写真好きだけど、褒められると恥ずかしい……」
遼人への恋情も込められた一枚。本当は戸棚の奥に自分の気持ちと一緒に仕舞っておこうと思ったけど、募る寂しさでいつでも眺められるように持ち歩くようになってしまった。
「旭、遼人さぁ。二年に上がる前に向こう行くって言ってた。事務所の人に提案されたんだって。向こうで住まいも全部手配して面倒みるから、向こうの学校に編入して本格的に活動してみないかって」
「そっか……」
別に驚きはしなかった。遼人ならいずれそうなる、遠い存在になってしまうと思っていたから……。
旭は静かに頷き、アルバムを閉じると窓の外を眺めた。
「旭、ごめん……。結構前にさ、遼人に聞かれて私嘘言った。旭と付き合ってるって」
「え?」
雲が厚い灰色の空をぼんやりと眺めていると、星杏ちゃんに声を掛けられ一驚した。星杏ちゃんは申し訳なさそうに頭を俯けている。
「なんでそんなことを……」
「遼人がはっきりしないから。あたし悔しくて……。ねぇ旭、このままでいいの?遼人が向こうに行ったら本当に取り返しのつかないことになるよ?」
「でも遼はきっと僕と居ない方が……」
今更遼人あったところで何も話すことなんかない。遼人はきっと自分がいない方がもっと気楽にやれる。自分の言葉足らずで彼をイライラさせることもない。
「いいから‼今日、遼人のレッスン、一時に終わるんだって。迎えに行ってあげたら?」
「でも午後の授業があるし……」
言い訳を繰り返していると向かいから大きな溜息が聞こえてくる。
星杏ちゃんは怒りながら、机の側面のフックにかかっている旭のリュックを乱暴にとりあげると、机上に広げていたカメラを乱雑に入れて胸に押し付けてきた。
「旭、本当そういうところ鈍感だよね。あたしが背中押してあげてるんだから気づきなよ」
「ごめん……。僕、星杏ちゃんに酷いことしてばっかだよね……」
「そう思うなら早く行って ‼遼人にちゃんと伝えなよ」
旭は押し付けられた鞄を抱えて座席を立つと星杏ちゃんはそっぽを向いていた。冷たく突き放してくる星杏ちゃんに後ろ髪を引かれながらも旭は教室を後にした。
だから最近では遼人のアルバイト先のラーメン屋に足を運んでも見掛けることはなくなった。中華料理屋のオバさんや遼人を知る周りの人達は芸能活動に足を踏み入れた彼を、全力で応援しているが旭は複雑だった。
遼人に問われた時は想像もつかなかったが、いざいつも一緒だった遼人を見掛けなくなると寂しさは日に日に増していた。
碌に弁解もできていない。きっと遼人は星杏ちゃんと自分が付き合っていると勘違いしたままで、彼自身のことを邪魔だと思われてしまっているに違いなかった。
このまま遼は自分の手の届かないところまで行ってしまうのだろうか。
弁解できないことへの後悔をあるけど、これ以上彼を欲してしまわぬように、このままそっとして置く方が最良な気がした。
真冬の間、屋上は閉鎖されてしまうため、旭は教室で御昼休みを過ごしていた。友人に体育館でバスケをしないかと誘われたが乗り気ではなかった旭は机に進路希望調査を広げて弁当をつつく。
「あさひっ」
「星杏ちゃん」
背後から肩を叩かれ、箸で掴んでいた赤ウインナーを落としそうになりながら振り返ると星杏ちゃんが前の座席に横向きになって腰を掛けた。
「進路、まだ一年なのに早いよね」
「うーん……でも、星杏ちゃんは大学行くんでしょ?」
「うん、まぁね。あたし、星が好きなの。辛い時とか施設の窓から星を眺めてる時とか乗り越えられる気がして……
だからもっと大学に行って勉強したいなって思ってるんだ」
「すごいなー。きっと遼は芸能人になるんだろうし。僕はどうなんだろう……」
「これは?」
星杏ちゃんが指を指した先は机上に置いていた一眼レフのカメラだった。結局十月初旬から十一月中旬にかけて行われた写真のコンテストは、最終選考に残る先輩たちの一方で旭は選考にすらならなかった。
才能のある逸材はすぐに功績を残していく。旭は才能すらない凡人なのだと現実を見せつけられた気分だった。
それならば好きなものを撮って趣味で終わらせる方が自分には合っているかもしれない。
「でもあたし、この写真好きだよ。遼人がムッてしてる顔。これって遼人が旭にだけしか見せない顔だよね。しかもバイト中ですって感じがして日常の遼人全開」
カメラと一緒に机に上げていたL判専用のアルバムファイル。星杏ちゃんがパラパラと中身を捲り、旭に写真を見せてきた。
「確かに僕もその写真好きだけど、褒められると恥ずかしい……」
遼人への恋情も込められた一枚。本当は戸棚の奥に自分の気持ちと一緒に仕舞っておこうと思ったけど、募る寂しさでいつでも眺められるように持ち歩くようになってしまった。
「旭、遼人さぁ。二年に上がる前に向こう行くって言ってた。事務所の人に提案されたんだって。向こうで住まいも全部手配して面倒みるから、向こうの学校に編入して本格的に活動してみないかって」
「そっか……」
別に驚きはしなかった。遼人ならいずれそうなる、遠い存在になってしまうと思っていたから……。
旭は静かに頷き、アルバムを閉じると窓の外を眺めた。
「旭、ごめん……。結構前にさ、遼人に聞かれて私嘘言った。旭と付き合ってるって」
「え?」
雲が厚い灰色の空をぼんやりと眺めていると、星杏ちゃんに声を掛けられ一驚した。星杏ちゃんは申し訳なさそうに頭を俯けている。
「なんでそんなことを……」
「遼人がはっきりしないから。あたし悔しくて……。ねぇ旭、このままでいいの?遼人が向こうに行ったら本当に取り返しのつかないことになるよ?」
「でも遼はきっと僕と居ない方が……」
今更遼人あったところで何も話すことなんかない。遼人はきっと自分がいない方がもっと気楽にやれる。自分の言葉足らずで彼をイライラさせることもない。
「いいから‼今日、遼人のレッスン、一時に終わるんだって。迎えに行ってあげたら?」
「でも午後の授業があるし……」
言い訳を繰り返していると向かいから大きな溜息が聞こえてくる。
星杏ちゃんは怒りながら、机の側面のフックにかかっている旭のリュックを乱暴にとりあげると、机上に広げていたカメラを乱雑に入れて胸に押し付けてきた。
「旭、本当そういうところ鈍感だよね。あたしが背中押してあげてるんだから気づきなよ」
「ごめん……。僕、星杏ちゃんに酷いことしてばっかだよね……」
「そう思うなら早く行って ‼遼人にちゃんと伝えなよ」
旭は押し付けられた鞄を抱えて座席を立つと星杏ちゃんはそっぽを向いていた。冷たく突き放してくる星杏ちゃんに後ろ髪を引かれながらも旭は教室を後にした。
