不機嫌な幼なじみと鈍感な僕

一度不機嫌にしてしまうと彼の機嫌はなかなか直らない。

それ以降、佐野夫婦が来たタイミングも相まって遼人と話す機会が減ってしまい、ついには縁日が終わっても言葉を交わすことはなかった。片付けを終えていざ声を掛けようと思っても気がつけば彼の姿はどこにもなかった。

約束通り、星杏ちゃんが「旭、行こう?」迎えに来てくれたので河川敷の花火を見に行く。

しかし星杏ちゃんと並んで空を眺めていても何処か上の空だった。夜空に打ち上がる花火は綺麗なのに、気が気ではなかったのは遼人のことを考えていたからだった。

「旭、元気ないけどどうしたの?」
「えっと……。遼のことが気になって……」

 上の空であることがバレてしまったのか、星杏ちゃんに問われて狼狽える。

「ふーん。旭の元気ない時ってさ、大体遼人と喧嘩した時だよね」
「えっ……」

 特に意識していた訳ではないが、彼女に言われて思い返してみれば、思い悩んでしまう時は大抵遼人と喧嘩した時だ。遼人の考えていることが分からなくて、彼の気持ちを汲んであげられなかった時、酷く落ち込む自分がいた。

「ずっと遼人のこと考えてばっかでしょ」
「そ、そんなことはないよ……」

「旭って嘘つけないからバレバレ、多分きっといつものとこだよ」
「でも……」

「あたしはいいから。どうせ振られた身だし、旭を独り占めしたくて図々しくお願いしただけだから」
 星杏ちゃんを一人この場所に残しておくわけにはいかない。でも、遼人のことが気になって仕方がない。
「ほーら、行きな?あたしは大丈夫だから」

彼女が笑顔で肩を押して促してきた勢いで旭は「ごめん」と彼女に謝ると急いでその場から駆けだした。





河川敷から走って遼人がいると思われる場所へと向かう。途中で園に立ち寄り、まだ帰ってきていないことを確認した後、施設に置いてあった自転車を借りて目的地へと向かう。浴衣で自転車は漕ぎずらかったが、そんなの気にならなかった。

漕いで十分ぐらいの広い公園に辿り着くと、自転車を園内入り口に置いて遼人の姿を探す。歩きながら辺りを見渡していると、屋根付きの正方形をしたベンチに遼人が体育座りで座っていた。

「遼、こんなとこで何してんの?」

 旭は真っ先に遼人の元へ向かったが、彼は旭の姿を見留めるなり、体育座りで組んでいた足を解くと、此方に背を向けて座ってしまった。

「別に、旭には関係ねぇよ」

 そんな遼人にもめげずに旭はベンチに回り込んで向かい合う。

「関係ないわけないじゃん。遼、怒ってるよね?」
「はぁ?」
「明らかに機嫌悪い」
「何もねぇよ……。カメラは悪かったと思ってる。けど、唯一人になりたいだけだし。お前はいいのかよ、星杏と花火見に行ったんだろ」
「あ、うん」

 遼人に星杏ちゃんと花火大会に行っていたことに驚いたが、よくよく考えれば彼女が兄である彼に事前に話していてもおかしくはない。

 カメラを濡らした時も遼人の様子が何処か違うと感じていたのでもしかしたら何かしら関連があるのかもしれない。

「ごめん、遼に言わずに勝手に行って」

 ベンチに座り込んで俯く遼人に旭は頭を下げて謝る。

「別に、そんな気はしてたし……」
「だから、ごめん。遼も誘えばよかったって後悔してる。今からでも間に合うから行こ?」
「やだ、行かねぇ」

 遼人の右腕を引っ張って、「いいから行こ?」と星杏ちゃんのいる所へ促そうとするが、彼の身体は断固として動かない。そんな諍いを続けていると痺れを切らした遼人に「だから、行かねぇ―って‼」と腕を振りほどかれてしまった。