不機嫌な幼なじみと鈍感な僕

学校の無い休日のお昼過ぎの最寄り駅前。

「先輩、ありがとうございました」

旭は部活の先輩である、黒髪長身、センター分け喜多田俊二(きただしゅんじ)先輩に深々と頭を下げてお辞儀をした。

ほんの数時間前、電車に揺られて隣町の大きなカメラ屋さんに行った。買うものは勿論、一眼レフのカメラ。

予算は多い方ではなかったが、漸くアルバイト代が貯まったのでお世話になっている部の中でカメラに詳しい喜多田先輩から、レクチャーを受けながら無事に購入することができた。

カメラが入った紙袋を大事に抱えて最寄りの駅前で先輩との別れ際、旭は終始顔が綻んでいた。

「いいや、なんもだよ。佐野の手助けになったなら良かった。佐野、佐野もやっと、カメラを手にしたからにはコンテスト本気で挑むんだろ?」

「コンテスト……。うんーできれば出したいですけど……。何を撮りたいかまだ分からなくて」

「だよな。でも嬉しいよ。カメラ手にしたら世界変わるぞ、佐野の写真、期待してるからな」

「先輩、それはかえってプレッシャーになります」

「はは、そうだよな。まぁ気楽に撮れ。じゃあ、また月曜な」

「はい、お疲れ様です」

 旭に手を振り、駅のバス停へと向かっていく先輩を見送り、一息つく。

この後、家に帰ってカメラを弄ろうかと考えていると、ふと遼人の顔が浮かんだ。

 どうせなら遼に自慢してこようか。

遼は旭の家と『めぐみ園』との中間に位置するラーメン屋で働いている。土日はほぼほぼ働いていると聞いているので確実にいるだろう。

カメラの話しなんてまた疎まれるかもしれないけど、昼食はまだだったし、丁度いい。

そうと決まれば旭は遼人のバイト先まで歩みを進めた。


こじんまりとした二階建ての建物の一階が、遼人の働くラーメン屋『星乃』だ。最近流行りの大手有名ラーメン屋というよりは、夫婦で経営している昔ながらのラーメン屋。
旭も幼い頃よく、佐野夫妻と食べに来たことがあるお店だった。

中へと入ると、厨房には黒いTシャツにタオルを首と頭に巻いた、中年の男性が汗を流しながら立っていた。
この人が店主の星崎さん。そして厨房のすぐ側のレジにはその男性の奥さんがお客さんのお勘定の相手をしていた。