超新釈 エモ恋 小野小町――メロい恋と儚い恋の話




■■■はじめに■■■



 小野小町(おののこまち)といえば、絶世の美女であると言われています。
 クレオパトラ、楊貴妃(ようきひ)、そして、小野小町が、世界三大美女と言われています。

 小野小町は、平安時代の貴族の娘であり、優れた歌人でした。
 百人一首や、古今和歌集などに和歌が収録されています。

 小野小町の和歌を読んだ印象は、儚くて、切ない、恋の話だと思いました。
 繊細でセンチメンタルな感性を持ち合わせていた人だったようです。
 そして、すごくキュートで、恋に真っ直ぐな人でもあります。
 
 モテていたのは本当のようで、恋の話が多い印象です。
 小野小町の恋は「儚い夢みたいな恋」だったようです。
 
 ときに、純愛の気持ちを書いたり、
 ときに、片思いの気持ちを書いたり、
 そして、ときには、叶わない恋のことが書かれています。

 そんな、小野小町の和歌を令和の価値観に合わせ、
 今の言葉で超訳してみました。




■■■目次■■■


・メロい夢・うたた寝は夢の中・儚いままで・ルームウェアに願いを込めて・チルいのは私の中だけ・思い出で静かに泣く・恋の果て・ドキドキ・景色は移ろうから、君はもう、私を見ない・時雨の中での約束・悲しみは複雑・アクアリウム・ブルー・「かわいい」・雨乞い少女・時々、陰キャになったのかなって思っちゃうよ・昼も夜も・バーチャルな夢の中よりも・真夜中・悲しみに吹かれて・恋は何色にうつろうの?・列島が最強寒波に覆われた朝・待っていられるよ・恋の音・ずっと・仲良くて、尊い・散って、散らかして・君が私のことを忘れた世界・期待しすぎちゃう私・嫌いな君。もう、諦めなよ・私にだってプライドはある・その程度じゃ、私を振り向かせられないよ・勘違いしてるんでしょ?・月面旅行・拒否ってない私と楽しそうなベイサイド・空想少女と海の神様・ネイビーのマフラー・春は私を置いてけぼりにする・月と秋のグランピング・月の所為・この場所で私は君に恋してた・ヤマブキ色の心・恋とパドル・出会いの数だけの、さよなら・儚い雲になる・もし、私が儚いブルーに溶けても






☆メロい夢


 思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と
 知りせばさめざらましを(古今和歌集 552)


 メロい夢だったから、目を覚ましたくなかったよ。
 君が私の夢に入り込んだのは、
 きっと、寝る前に君のストーリーを見たからだね。
 
 交換したばかりの君のインスタのアカウントが、
 真夜中、私の心を揺らしたんだ。

 夢の中で夢だとわかっていたら、
 私はずっとメロついたままだったのにね。





☆うたた寝は夢の中

 
 うたたねに恋しき人を見てしより
 夢てふものはたのみそめてき(古今和歌集 553)


 夢って、頼りなくて嫌になっちゃうな。
 うたた寝しても、どうせ君は、
 もう、私の夢になんて出てくれないんでしょ?
 
 私がバカみたいに期待するようになったのは、
 あの日、君が私と夢の中で過ごした所為だよ。

 ねえ、夢でもいいから君に会いたいよ。
 





☆儚いままで


 はかなくも枕さだめず明かすかな夢
 語りせし人を待つとて(玉葉和歌集 1593)



 儚い雰囲気の夢を見るために、
 儚い曲のプレイリストをSpotifyで流す真夜中。
 
 夢の中で君を待つ、
 私は儚い一部になれましたか。
 儚い夢の中で君と私は、
 仲良く過ごすことができましたか。
 
 





☆ルームウェアに願いを込めて

 

  いとせめて恋しき時は
  むばたまの夜の衣をかへしてぞ着る(古今和歌集 554)


  ジェラピケのルームウェアを裏返しに着て、
  今は、もこもこをしっかり感じていたいんだ。
  そのくらい夢の中で君に会えたらいいなって思うくらい、
  私の恋しさは、消えないよ。





☆チルいのは私の中だけ
 


 花の色はうつりにけりないたづらに
 わが身世にふるながめせしまに(百人一首 9、古今和歌集 113)


 スタバのカウンター席に座り、
 雨の街を眺めているよ。
 
 チルい時間は私の中だけで、
 その間に、街路樹の桜が散っていくよ。
 
 春色だったはずの世界は、
 すっかり雨で濡れてしまって、
 ピンクもグレーの中に散ってしまったね。
 
 ねえ、来年の春は、
 君と何色の街を眺めているかな。
 
 



☆思い出で静かに泣く


 春雨のさはへふるごと音もなく
 人に知られで濡るる袖かな



 「泣いてないよ」
 って強がるほど、私は強くないから、
 白いセーターの袖は寂しさで濡れているよ。
 
 春の雨が穏やかに降り続けるように、
 私は今、静かに泣いている。




 

☆恋の果て


 恋ひわびぬしばしも寝ばや
 夢のうちに見ゆれば逢ひぬ見ねば忘れぬ(新千載和歌集 1156)



 恋の果てに、うまく眠れない日々が続いているよ。
 眠れない片思いは、会いたい気持ちを増幅させているよ。

 夢の中で、もし君に会えたら、
 もう、君に会えたことにしてしまおう。

 そうすれば、きっと、寝ている間だけでも、
 君への愛しさは消えるはずだから。


 

 

☆ドキドキ



 人に逢はむ月のなきには思ひおきて
 胸はしり火に心やけをり(古今和歌集 1030)
 


 新月の夜、そわそわして、
 真夜中をいつもの散歩道を歩いている。
 いつも通り、私はひとりぼっちで寂しいね。

 ローソンの青白い看板の下で、
 iPhoneを取り出して、
 送ったメッセージを確認したけど、
 君からの返信は、まだ来ないね。

 付き合いたいけど、付き合えないから、
 君との恋はうまくいかないよ。

 そう思ってたのに、来ないと思ってた返信が表示された。
 その瞬間、一気に期待感で、
 私の心臓は冷静にドキドキし始めた。






☆景色は移ろうから、君はもう、私を見ない


 心からうきたる舟にのりそめて
 ひと日も浪にぬれぬ日ぞなき(後撰和歌集 779)



 
 この恋の最初は、水上バスに乗って、
 華やかなウォーターフロントを巡るようだったね。
 
 だけど、今は、お互いに黙ったまま、
 そっぽを向いているみたいだよね。
 きっと、私が手を繋いでも、
 君はもう、握り返してもくれないよね。
 そう考えると、毎日、泣きたくなるよ。
 
 ねえ、私のこと見てよ。
 出会った頃のように。

 




☆時雨の中での約束


  今はとてわが身時雨にふりぬれば
  言の葉さへにうつろひにけり(古今和歌集 782)



  あの日、約束したこと覚えてるよね。
  私は覚えているよ。

  あの頃は、まだ、お互いに大人になりきれていなかったね。
  あの日、誓った言葉は、
  冬が秋を終わらせるために降らせる、
  冷たくて、穏やかな雨みたいなものだったね。

  その雨に打たれ続けて、
  大人になった今、あの日の約束は、
  もう、無効になってしまったね。
 
 
 

☆悲しみは複雑


 おろかなる涙ぞ袖に玉はなす
 我はせきあへずたぎつせなれば(古今和歌集 557)


 

 くだらない涙なんて、
 さっさと拭い去ってしまおうよ。

 君はそうやって、いつも能天気だよね。
 そんなことじゃ、私の涙は枯れないよ。

 そんなことより、私が望んでいるのはね。
 私の深い悲しみを吹き飛ばせるくらい、
 笑顔になれるほどの楽しみだよ。


 


☆アクアリウム・ブルー


 わびぬれば身をうき草の根をたえてさそふ
 水あらばいなむとぞ思ふ(古今和歌集 938)


 
 あなたからのメッセージが、また来たね。
 もう、あまり、あなたに関心がないんだ。
 それでも、あなたは誘ってくるんだね。
 
 私はね、青色LEDのアクアリウムの中で、
 酸素で揺れる水草だと思うんだ。
 気まずくなるのも嫌だし憂鬱だから、
 優しく断るね。
 
 「いつか行けたら、行ってみたいね」 
 
 流されやすい女だと、思わないでね。



 
 
☆「かわいい」


 あはれてふことこそうたて
 世の中を思ひはなれぬほだしなりけれ(古今和歌集 939)
 


 「かわいいね」って、
 魔法をかけようとする君にうんざりだよ。

 「かわいい」は自分にかける魔法だから、
 君が私を縛ろうとする言葉じゃないんだよ。
 



☆雨乞い少女


 ちはやぶる神も見まさば立ちさわぎ
 天の戸川の樋口あけたまへ(小町集)



 校舎の屋上で制服姿の私は最強なんだ。
 さあ、私の力で、
 日本中の水不足を解消してしまおう。

 神様、お願いです。
 プールの水を一気に抜くほど、
 雨を降らせてください。

 のちに私は伝説の雨乞い少女となった。

  



☆時々、陰キャになったのかなって思っちゃうよ


 うつつにはさもこそあらめ
 夢にさへ人めをもると見るがわびしさ(古今和歌集 656)



 夢の中ですら、人見知りになってしまうから、
 時々、陰キャになったのかなって思っちゃうよ。

 目覚めても、時々、目立つことも、
 人の目線とか、そういうのは好きじゃない。
 だけど、私は理解しているよ。
 そういうこともあるってことを。





☆昼も夜も


 かぎりなき思ひのままに
 夜も来む夢路をさへに人はとがめじ(古今和歌集 657)

 

 僕は君の元へ行くよ。
 限りない思いは、果てしない君への恋だから。
 また夢の中でも、会おうね。
 




☆バーチャルな夢の中よりも


 夢路には足もやすめず通へども
 うつつにひとめ見しごとはあらず(古今和歌集 658)


 僕はね、夢の中で、迷路に迷い込んだときも、
 君に会えたら、それだけで最高なんだよ。
 そうは言っても、僕はバーチャルよりも、
 リアルで君に会いたい。

 



☆真夜中
 

 秋の夜も名のみなりけり
 逢ふといへば事ぞともなく明けぬるものを(古今和歌集 635)



 ねえ、君と会わない真夜中は、長く感じるのに、
 君と過ごす真夜中は、どうして短く感じるんだろうね。




☆悲しみに吹かれて

 
 秋風にあふたのみこそ悲しけれ
 わが身むなしくなりぬと思へば(古今和歌集 822)
 



 黄色い秋風に吹かれても、
 私は変わらないままだね。

 冷たさで季節が巡ろうとしているけど、
 ひとつの願いも叶わないままだね。
 
 空のままの虚しい願いも、
 このまま、あてもなく消えてしまえばいいのに。
 



☆恋は何色にうつろうの?


 色見えでうつろふものは
 世の中の人の心の花にぞありける(古今和歌集 797)
 


 出会いは、マチアプで簡単に成立するけど、
 沼る恋になる前にうつろう気持ちは止められないね。

 プラスチックの造花は、
 キラキラ色を変えて美しいけど、
 うつろう恋は、
 そのキラキラすら気にも止めないのかもね。

 



☆列島が最強寒波に覆われた朝


 おきのゐて身をやくよりもかなしきは
 宮こしまべのわかれなりけり(古今和歌集 墨滅歌 1104)



  朝、スタバでコーヒーを飲みながら、
  冬の朝の街をぼんやりと眺めているよ。

  チルい時間の中で、
  最果ての街に暮らす、君のことを思い出すよ。
  こんな都会の中で、君のことを思い出すなんて、
  変なことかもしれないね。
 
  列島は今シーズン最強寒波に覆われていて、
  この銀色の街ですら、
  澄んだ青色のように、凍てついているよ。
  
  君の街も、今日は冷え込んでいそうだね。
  だから、私の想像の中で、
  暖炉の赤色で、凍えた君を暖めてあげる。
 




☆待っていられるよ


  宵々の夢のたましひ
  足たゆくありても待たむとぶらひにこよ(小町集)


  ねえ、夢のなかでも、待っているよ。
  夜のなか、立ち尽くしていても、
  君のこと、私はずっと待っていられるよ。
 




☆恋の音


  湊入 ( みなといり ) の 玉造江 ( たまつくりえ ) に
  こぐ舟の音こそたてね君を恋ふれど(新勅撰和歌集 651)


  今日も19時に港を出るフェリーの汽笛が聴こえる。
  夕闇のなか、私は自転車に身を任せ、
  制服のスカートの裾をはためかせ、
  いつもの坂道を下っている。

  岸を離れる低音は、
  恋の音みたいで、悲しくなるね。
  
  君に恋したことを、まだ、君になんて、
  私から、告げられるわけなんてないよね。
  ゆっくりと、動き始めるフェリーを見ながら、
  君に私の恋が届けばいいなって、願った。
 
  
 

☆ずっと


 露の命はかなきものを
 朝夕に生きたるかぎり逢ひ見てしがな(続後撰和歌集 1281)


 君となら、朝も夜も、
 ずっと、会っていたいよ。
 
 今日が生まれる前に、生まれた水滴が、
 今日の朝日でキラキラして、
 すぐに消えてしまうように、
 生きている今日は、一瞬だから。
 



☆仲良くて、尊い


 世の中はあすか川にもならばなれ
 君と我とが中し絶えずは(風雅和歌集 1232)


 
 ただ、仲良くしたいだけだよ。
 ただ、忙しさにも、負けたくないだけだよ。
 君との時間は、ものすごく尊いから。
  



☆散って、散らかして

 
 木がらしの風にも散らで
 人知れず憂き言の葉のつもる頃かな(新古今和歌集 1802)



 秋風が強く吹き、
 イチョウ並木の黄色が一気に揺れた。
 午後の日差しの中で、
 揺れる木々は綺麗すぎて、泣きたくなるよ。
 
 風の冷たさと一緒に、私の憂鬱も、
 吹き飛ばしてくれたいいのにな。
 
 仮にこの気持ちを口にしてしまえば、
 ひらひらと、想いが舞い、
 アスファルトに積もる、
 イチョウの葉と友達になるね。

 そうすれば、
 この恋も黄色い世界の一部になるだろうね。
 
 


☆君が私のことを忘れた世界

 
 我が身こそあらぬかとのみ辿らるれと
 ふべき人に忘られしより(新古今和歌集 1405)



 君と会っていない期間は、
 私すら存在していない、
 空っぽの世界だったよ。
 
 君が私のことを忘れて、
 別の人を選んでいてもいいよ。

 私も迷ったままじゃ、前を向けないから。

 
 

 
☆期待しすぎちゃう私


 空をゆく月のひかりを雲間より見でや
 闇にて世ははてぬべき(小町集)


 
 来るはずもないDMを待って、
 何度もiPhoneの通知ばかり気にしちゃうよ。
 
 その間に、ベランダから、
 雲に隠れたままの月を眺め続けている。
 雲は途切れず、光が射さない夜。
 月すら微笑んでくれないみたいだね。




☆嫌いな君。もう、諦めなよ
 

 みるめなきわが身をうらと知らねば
 やかれなで海士の足たゆく来る(古今和歌集 623)




 ねえ、いい加減、諦めたら?
 私はね、君になんて、もう、興味すらないんだよ。

 間接的に距離とってるのもわからないんだね。
 それでも話しかけてくるんでしょ。
 君のね、言葉の裏が読めないところが嫌いなんだよ。
 
 



☆私にだってプライドはある


  われをきみ思ふ心の毛の末にありせば
  まさに逢ひみてましを(小町集)


  は? なに言ってるの?
  あんたの、そのプライドをどうにかできないの?
 
  ただ、「会いたい」って言えばいいだけじゃん。
 
  裾カラーのライトゴールドの塗り幅くらい、
  私のこと気になってるなら、
  多少、会ってあげてもいいよ。
  

 
 
 
☆その程度じゃ、私を振り向かせられないよ


 ともすればあだなる風に
 さざ波のなびくてふごと我なびけとや(小町集)

 

 その軽はずみなセリフ、どこで覚えたの?
 それ、即効性あるの? 
 意味がわからない。
 
 波風立つ安い言葉だけで、
 人の恋が簡単になびくと思わないで。
 私の恋は私で決めるものだから。
 
 



 
☆勘違いしてるんでしょ?
 

 海人 ( あま ) のすむ里のしるべにあらなくに
 うらみむとのみ人の言ふらむ



 恨むんだったら、最初から近づくなよ。

 どうせ、逆恨みでしょ?
 私の親切ひとつだけで、勘違いしてるんでしょ?

 違うよ、それ。
 あなたに興味があるわけじゃないの。
 ただ、私は感じよく、私の理想を生きたいだけなの。



 
 
 
☆月面旅行

 
 あやしくもなぐさめがたき心かな
 姨捨 ( をばすて ) 山の月も見なくに(続古今和歌集 1850)



 不思議だね。
 苦しい想いは消えないよ。
 月面旅行へ旅立ち、
 センチメンタルになったわけじゃないのに。
 




☆拒否ってない私と楽しそうなベイサイド


 みるめかる海人の行きかふ湊路 ( みなとぢ ) に
 なこその関も我はすゑぬを(新勅撰和歌集 652)


 
 ベイサイドのオープンテラスのカフェで、
 ひとり、いろんな人たちが楽しそうに行きかうのを、
 ぼんやりと眺めている。

 別に拒否ってるわけじゃないのにね。
 
 せっかくのジェラートも、
 あっという間に溶けてしまいそうだし、
 君のことを考えるのは、もうやめよう。

 最近、君は私に会ってくれないね。




☆空想少女と海の神様


 花咲きて実ならぬものは
 わたつ海のかざしにさせる沖つ白浪(後撰和歌集 1360)



 波が打ち寄せる瞬間のしぶきって、
 ヘアクリップに咲いた白い花に似ているね。


 

☆ネイビーのマフラー


 岩のうへに旅寝をすればいと寒し
 苔の衣を我にかさなむ(後撰和歌集 1195)


 「寒いね」って、言う私はあざといかもね。
 君のネイビーのマフラーを
 そっと巻いてほしいなんて言ったら、
 君はどんな反応するかな。

 
 
 

☆春は私を置いてけぼりにする
 

 卯の花のさける垣根に時ならで
 わがごとぞなく鶯の声(続古今和歌集 1543)


 
 寂しさを纏ったままで、
 前なんて向けないや。
 
 季節は私だけを
 置いてけぼりにしたみたいだね。
 
 鳥の鳴き声も、
 公園のフェンスの隅に咲く白い花も
 みんな私と同じで、寂しそうだね。
 
 それでも季節は巡る。
 もうすぐ、夏だね。






☆月と秋のグランピング


 山里に荒れたる宿をてらしつつ
 幾世へぬらむ秋の月影(続後拾遺和歌集 1029)


 
 白いドームテントの中で、電球色に包まれ、
 チルアウトしてしまいそうだよ。

 夜のグランピングは静かに、
 穏やかに時間が流れていくね。

 透明ビニール越しに見える、
 月の光は、何万回の秋を照らしたんだろう。
 とか、普段、考えないことを、
 考えてしまうね。
 




☆月の所為


 秋の月いかなる物ぞ我がこころ
 何 ( なに ) ともなきにいねがてにする(新勅撰和歌集 283)


 
 別に恋しいわけじゃないんだよ。
 ただ、眠れなくて、月を見ているだけだよ。
 そわそわして、眠れない理由を、
 どうしても、秋の月の所為にしたくて。

 

 

 
☆この場所で私は君に恋してた
 

 吹きむすぶ風は昔の秋ながら
 ありしにもあらぬ袖の露かな(新古今和歌集 312)

 

 この場所で、
 秋いっぱいの風を感じ取れるのは、
 ふたりでいたあの日と変わらないね。
 
 その間に、何度も君のことで、
 何度も泣いたし、泣くたびに、
 君との思い出はどんどん過去になったよ。
 
 私も君もすっかり変わったんだ。
 きっと、私も君も大人になっちゃったんだよ。
 

 

 

☆ヤマブキ色の心


 色も香もなつかしきかな
 蛙 ( かはづ ) なくゐでのわたりの山吹の花(新後拾遺和歌集 145)


 カメラロールの中は、
 川辺の黄色い世界ばかりだね。
 なにもかもなつかしいよ。
 
 iPhoneをそっと、テーブルに置き、
 ふと、昔のことを思い出した。
 ヤマブキの中で、
 私は今、昔よりもずっと落ち着いている。
 
 


 
 
☆恋とパドル

 
 海人のすむ浦こぐ舟のかぢをなみ世を
 うみわたる我ぞ悲しき(後撰和歌集 1090)


 
 恋なんて、いつだって、
 あてなんて、ないものでしょ?
 パドルを捨てて、海を渡るサップみたいに。
 
 誰だって、つらい世の中だから、
 誰かが隣にいないと、心細いよ。

 もし、悲しさを和らげてくれるなら、
 誰かが私の隣に居続けてほしいな。





☆出会いの数だけの、さよなら


 あるはなくなきは数そふ世の中に
 あはれいづれの日までなげかむ(新古今和歌集 850)


 
 出会った数だけ、
 天国へ旅立っていくから、
 果たせなかった約束の数と、
 さよならの数だけ、増えていくよ。

 生きているうちに、
 あと、どれだけの、
 約束を誓い、さよならを言うんだろう。
 
 

 
☆儚い雲になる


 はかなくて雲となりぬるものならば
 霞まむ空をあはれとは見よ(続後撰和歌集 1228)



 ねえ、約束してよ。
 もし、私がこの世から、旅立ったら、
 しっかり悲しんでね。

 私だって、死んだら、
 きっと、儚い雲にのように、
 世界中をかすかに、曇らせると思うから。
 
 


 

☆もし、私が儚いブルーに溶けても


 はかなしや我が身の果てよ
 浅みどり野辺にたなびく霞と思へば(新古今和歌集 758)


 
 儚いね。
 夕闇の先のブルーのように、
 私のことなんて、忘れてしまってもいいよ。
 
 私の存在なんて、
 ブルーの中に薄く溶ける、
 儚い感じが、ちょうどいいから。

 
 



【参考資料】
https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/komati.html