「ねえ、オレってほんとに邪魔じゃないよね?」
「何言ってんだ?」
昼休み。俺は教室までやってきた美甘と、いつも一緒に食べてる八ツ屋を連れて、校舎から少し歩いた食堂まで足を運んでいた。
「だって、美甘くんは真琴を誘ったんでしょ? オレってやっぱ邪魔じゃない?」
「後で山越と矢崎も合流するって言ってただろ」
「それはそうだけどさ~」
俺の前には湯気が立つうどん、そして八ツ屋の前には大きなトンカツ定食。俺たちは先に食券を買いに行かせてもらって、今は美甘が確保してくれた六人席で座りながらアイツを待っている。ちなみに山越と矢崎は部活のミーティングが少しあるらしく、それが終わったらこっちへ来るらしい。
「でも、なーんか引っかかるんだよなあ」
「だからなにがって聞いてるだろ」
「え~……うーん」
八ツ屋の野郎はあれからしつこく俺と美甘の関係を聞いてきたけど、昨日チョコを渡しに行っただけで何もないと俺が言い続けていたらこのザマだ。いったい何がコイツの心にしこりを残させているのか。
「――ごめんね。遅くなって」
美甘が定食の乗ったトレーを持って、席まで帰ってきた。
「あ、おかえり美甘くん! オレたち全然待ってないから大丈夫よ!」
「それならよかった。……や、柳くんもお腹すいてない? 料理冷えちゃってないかな」
「俺は多少冷えた方が食べやすいから」
「あっ、そうだよね。うどん、熱いもんね」
俺のきつねうどんから昇る湯気越しに、座った美甘の緩んだ微笑が見える。
「じゃあ山越くんたち来る前に先食べちゃお~」
「うん。二人もあと十分くらいしたら来ると思うから」
八ツ屋と美甘の言葉を合図に手を合わせた俺たちは、箸を持って動かし始めた。
「そういえば美甘くんと喋るの、オレ超久しぶり」
「二年になってから全然会わなかったもんね」
「そうそう。時々俺たちの教室の前通る時に、馬鹿笑いする山越くんの声が廊下から聞こえるくらいだね」
「あははっ。昇の笑い声、最近近所迷惑になってるらしくて、クレームきてるって本人が嘆いてた」
「ええっ、それマジ!?」
二人の会話を聞き流しながら俺はうどんを掴んで思い切り息を吹きかける。十分に冷まさないと俺の舌はすぐ火傷するから、丁寧な下準備が必要だ。
「あ、真琴。ちょっと汁ちょうだい」
「ん」
俺がうどんを啜って咀嚼している間、八ツ屋がレンゲで掬ってスープを飲んだ。出汁が効いたそれは確かにうまいけど、俺はうどんだけで腹が満たされるので、八ツ屋はよく熱いうちにこうやって言ってくる。本人の目の前にはでっかいトンカツの定食があって、みそ汁とはまた違うハーモニーが生み出されるとかなんとか。
俺は普段、菓子で間食ばっかしてるから食事の時にはお腹が空かない。だからたいていうどんとかそばとか、軽めのものを選ぶことが多かった。
「……っ!? げほっ、ごほ……っ!」
「八ツ屋? 急にどうした?」
「や……ッ、むせ……!」
どうやら突然咽たらしい。俺はいったん箸を持つ手をとめ、口を押さえながら咳き込む八ツ屋の背を擦る。
「まっ……やめ……!」
でもなぜか嫌がられた。首をふるふると横に振って、怯えたような目で何かを訴えかけてきている。
「――柳くん」
耳に届いたのは、美甘の落ち着き払った静かな声。
「ん?」
「オレのプリン、あげようか?」
「え、本当に? いいの?」
俺の八ツ屋への関心は一気に消え失せた。擦るのもやめて、美甘が差し出した透明な器に収まるプリンを受け取る。
学食の人気デザートらしいプリンは、残念なことに定食にしかついてこない。でもどうしても食べたかった俺は、これまで八ツ屋に一口くれと再三お願いしてきたけど、本当に少ししかくれたことがなかった。だからこんなにあっさり一個もらえるとは思わなくて、胸がいっぱいになるほど嬉しい。
「……ありがとう」
「ううん。オレでよかったら、毎日あげる」
美甘は柔らかく細めたグレーの瞳を弓形に描き、桃色の唇を緩く深めていた。俺はその優しい眼差しに少し落ち着かなくなって、湯気が少なくなり始めたうどんを箸で一本掬った。
「――うおおお! 腹減ったあああ!」
「うわうるさ」
山越がトレーを持ったままアホみたいなスピードで美甘の隣に着席する。俺のうどんは丼の中に滑り落ちた。でも山越のトンカツは崩れることなく、山盛りキャベツの上で整列していた。――俺のせっかく冷ましたうどんを返せよ。
「よーす」
後からやってきた矢崎も、しょうが焼き定食の乗ったトレーを片手で持ちながら、山越の横に座った。がたいのいい男が二人並ぶ姿は少し窮屈そうだ。
「おつかれ、二人とも」
「おつー。てか珍しいじゃん。海寧がマコっちゃんたちと食うとかさ」
「うん。……でもこれからは一緒に食べたいなって」
「あ、そうなん?」
キャベツを口に詰め込もうとした山越が釣り目をぱちぱちと瞬かせる。
「いいんじゃないか? 賑やかになって楽しそうだ」
「いやそりゃ俺だって賛成よ。でもなんか理由とかあんのかと思ってさ」
矢崎と山越の視線が美甘に集まる。
「あっ、うん、理由……理由だよね」
言いづらそうに眉を下げた美甘は、うどんを冷ます俺をチラッと見たかと思うと、つぐんだ口を開いた。
「そ、その……オレはただ、柳くんと仲良くなりたいなって思ってて」
「――グフ……ッ!」
八ツ屋がまたむせた。
「お前……」
「ゲホッ……だ、だいじょうぶだから真琴」
俺の擦る手も嫌がっといて何回むせれば気が済むんだ。
「なになに、ヒロくんってばもうお年なの?」
「いや……うん……」
山越のからかいにも反応しない八ツ屋は、気まずそうに美甘の手元辺りをチラチラ見ていた。そこには焼き魚の定食があるだけだけど、もしかして今更魚が食いたくなったとか?
「海寧、柳とは連絡先交換したのか?」
味噌汁を含んだ矢崎が話を戻す。
「う、うん。昨日の夜、一年の時のグループチャットから拾って……」
「昨日? ……はっ、お前まさかっ、出来立てほやほやの彼女も放っておいてマコっちゃんと!?」
「あ、いやそれは――」
「昇、あんま他人の恋愛事情に突っ込むなよ」
「っえー! でもでも、海寧の心を射止めた彼女は気になるだろ……!」
コイツは食事中でもうるさいな。俺は食べてる最中に会話できないからいつも八ツ屋が一方的に話しかけてくるだけだけど、どうもこの二人には似たような匂いを感じる。モテに必死なことも共通点と言えばそうだし。
「なあなあ、正直さ、どんな子なのよ。やっぱモデル仲間? 超美人?」
「おい昇、喋ってばっかだと昼休み終わるぞ」
「いや俺のハイパー掻きこみ力ならいける」
「……そうやって一気に詰め込んで気持ち悪くなったことあったよな?」
矢崎の凛々しい眉毛がピクピク震えている。
「てかマコっちゃんもヒロくんも気にならねえんか!?」
言い返せなくなった山越はこっちに飛び火してきた。
最悪だ。俺はあとプリンだけなんだから静かに食わせてくれ。
「うーん、オレはとくに……」
「うそだろ!? ヒロくんなら分かってくれると思ったのに!」
「まあ……オレは別に、もう知らなくてもいいかなって」
「そんなッ、じゃあマコっちゃん……はダメだ。もうプリンに集中してる」
俺は一口掬って頬張ったプリンにさっそく感動していた。
このなめらかさに濃厚な味わい。舌に乗せた瞬間とろけて、クリーミーなカスタードが口いっぱいに広がる幸せ。一度口に運んだらもう止められない。
「なあ海寧~。もうお前しかオレの味方はいねえよお。少しでいいからさあ、教えてくんね? ねっ?」
「………………」
「海寧? おーい、どうした? どこ見てる? マコっちゃん?」
「かわい……はあッ!?」
「うおっ、ビックリした」
なんか前が騒がしいけど俺はこのプリンに向き合わないといけねえんだ。
「海寧顔赤くね?」
「えッ、そ、そう?」
「もういいだろ昇。あと十分だぞ」
「待って! じゃああとこれだけっ、彼女がどんなタイプなのかだけ教えてくれ海寧~!」
ああ、早く食いすぎた。もう半分もない。俺、このプリンでバケツプリン作ってほしいって学食に嘆願書出そうかな。
「え、えっと、タイプ?」
「そう! もう簡単なのでもいい!」
「うーん……」
「ほら美人とかキレイとか可愛いとか性格が明るいとか~」
「そ、それなら数えきれないくらいあるけど……。そうだな、一つだけ、出すなら――」
もう最後の一口だ。次はいつ会えるんだろう。俺もやっぱ次から定食にしようかな。でも食いきれねえしな。値段もうどんとかに比べたら二百円くらい高えし。ああでも美甘が本当に毎日くれるんだったら、すげえ嬉しいけど……。
「かっ、カッコよくて、かわいいところ……」
「――ゴホゴホッ!」
俺が最後のプリンを咀嚼していたらまた八ツ屋がむせた。コイツのせいで感動が飛んでいった。
「八ツ屋……」
「ごめんごめんごめん! 今度オレのもあげるから!」
「嘘じゃねえよな。絶対だぞ」
「うんうん!」
適当に頷きやがって。
「ヒロくんマジで年じゃん。知らん間に老けた?」
「昇、時間」
「あああっ、分かったって!」
矢崎に急かされた山越がカツとご飯をリスみたいに掻きこんで平らげる。顔は厳ついから小動物には間違っても見えねえけど。
ふと視線を感じて前を向けば、美甘がじっと俺を見ていた。
来たときは普通だったのにもう頬が赤い。本当に体温が高いんだな。
でも今日は美甘のおかげで、俺はプリンが食えた。コイツも甘いものが好きなんだから食べたかっただろうに、俺に丸々一個くれて、優しいっていうのは本当みたいだった。
「何言ってんだ?」
昼休み。俺は教室までやってきた美甘と、いつも一緒に食べてる八ツ屋を連れて、校舎から少し歩いた食堂まで足を運んでいた。
「だって、美甘くんは真琴を誘ったんでしょ? オレってやっぱ邪魔じゃない?」
「後で山越と矢崎も合流するって言ってただろ」
「それはそうだけどさ~」
俺の前には湯気が立つうどん、そして八ツ屋の前には大きなトンカツ定食。俺たちは先に食券を買いに行かせてもらって、今は美甘が確保してくれた六人席で座りながらアイツを待っている。ちなみに山越と矢崎は部活のミーティングが少しあるらしく、それが終わったらこっちへ来るらしい。
「でも、なーんか引っかかるんだよなあ」
「だからなにがって聞いてるだろ」
「え~……うーん」
八ツ屋の野郎はあれからしつこく俺と美甘の関係を聞いてきたけど、昨日チョコを渡しに行っただけで何もないと俺が言い続けていたらこのザマだ。いったい何がコイツの心にしこりを残させているのか。
「――ごめんね。遅くなって」
美甘が定食の乗ったトレーを持って、席まで帰ってきた。
「あ、おかえり美甘くん! オレたち全然待ってないから大丈夫よ!」
「それならよかった。……や、柳くんもお腹すいてない? 料理冷えちゃってないかな」
「俺は多少冷えた方が食べやすいから」
「あっ、そうだよね。うどん、熱いもんね」
俺のきつねうどんから昇る湯気越しに、座った美甘の緩んだ微笑が見える。
「じゃあ山越くんたち来る前に先食べちゃお~」
「うん。二人もあと十分くらいしたら来ると思うから」
八ツ屋と美甘の言葉を合図に手を合わせた俺たちは、箸を持って動かし始めた。
「そういえば美甘くんと喋るの、オレ超久しぶり」
「二年になってから全然会わなかったもんね」
「そうそう。時々俺たちの教室の前通る時に、馬鹿笑いする山越くんの声が廊下から聞こえるくらいだね」
「あははっ。昇の笑い声、最近近所迷惑になってるらしくて、クレームきてるって本人が嘆いてた」
「ええっ、それマジ!?」
二人の会話を聞き流しながら俺はうどんを掴んで思い切り息を吹きかける。十分に冷まさないと俺の舌はすぐ火傷するから、丁寧な下準備が必要だ。
「あ、真琴。ちょっと汁ちょうだい」
「ん」
俺がうどんを啜って咀嚼している間、八ツ屋がレンゲで掬ってスープを飲んだ。出汁が効いたそれは確かにうまいけど、俺はうどんだけで腹が満たされるので、八ツ屋はよく熱いうちにこうやって言ってくる。本人の目の前にはでっかいトンカツの定食があって、みそ汁とはまた違うハーモニーが生み出されるとかなんとか。
俺は普段、菓子で間食ばっかしてるから食事の時にはお腹が空かない。だからたいていうどんとかそばとか、軽めのものを選ぶことが多かった。
「……っ!? げほっ、ごほ……っ!」
「八ツ屋? 急にどうした?」
「や……ッ、むせ……!」
どうやら突然咽たらしい。俺はいったん箸を持つ手をとめ、口を押さえながら咳き込む八ツ屋の背を擦る。
「まっ……やめ……!」
でもなぜか嫌がられた。首をふるふると横に振って、怯えたような目で何かを訴えかけてきている。
「――柳くん」
耳に届いたのは、美甘の落ち着き払った静かな声。
「ん?」
「オレのプリン、あげようか?」
「え、本当に? いいの?」
俺の八ツ屋への関心は一気に消え失せた。擦るのもやめて、美甘が差し出した透明な器に収まるプリンを受け取る。
学食の人気デザートらしいプリンは、残念なことに定食にしかついてこない。でもどうしても食べたかった俺は、これまで八ツ屋に一口くれと再三お願いしてきたけど、本当に少ししかくれたことがなかった。だからこんなにあっさり一個もらえるとは思わなくて、胸がいっぱいになるほど嬉しい。
「……ありがとう」
「ううん。オレでよかったら、毎日あげる」
美甘は柔らかく細めたグレーの瞳を弓形に描き、桃色の唇を緩く深めていた。俺はその優しい眼差しに少し落ち着かなくなって、湯気が少なくなり始めたうどんを箸で一本掬った。
「――うおおお! 腹減ったあああ!」
「うわうるさ」
山越がトレーを持ったままアホみたいなスピードで美甘の隣に着席する。俺のうどんは丼の中に滑り落ちた。でも山越のトンカツは崩れることなく、山盛りキャベツの上で整列していた。――俺のせっかく冷ましたうどんを返せよ。
「よーす」
後からやってきた矢崎も、しょうが焼き定食の乗ったトレーを片手で持ちながら、山越の横に座った。がたいのいい男が二人並ぶ姿は少し窮屈そうだ。
「おつかれ、二人とも」
「おつー。てか珍しいじゃん。海寧がマコっちゃんたちと食うとかさ」
「うん。……でもこれからは一緒に食べたいなって」
「あ、そうなん?」
キャベツを口に詰め込もうとした山越が釣り目をぱちぱちと瞬かせる。
「いいんじゃないか? 賑やかになって楽しそうだ」
「いやそりゃ俺だって賛成よ。でもなんか理由とかあんのかと思ってさ」
矢崎と山越の視線が美甘に集まる。
「あっ、うん、理由……理由だよね」
言いづらそうに眉を下げた美甘は、うどんを冷ます俺をチラッと見たかと思うと、つぐんだ口を開いた。
「そ、その……オレはただ、柳くんと仲良くなりたいなって思ってて」
「――グフ……ッ!」
八ツ屋がまたむせた。
「お前……」
「ゲホッ……だ、だいじょうぶだから真琴」
俺の擦る手も嫌がっといて何回むせれば気が済むんだ。
「なになに、ヒロくんってばもうお年なの?」
「いや……うん……」
山越のからかいにも反応しない八ツ屋は、気まずそうに美甘の手元辺りをチラチラ見ていた。そこには焼き魚の定食があるだけだけど、もしかして今更魚が食いたくなったとか?
「海寧、柳とは連絡先交換したのか?」
味噌汁を含んだ矢崎が話を戻す。
「う、うん。昨日の夜、一年の時のグループチャットから拾って……」
「昨日? ……はっ、お前まさかっ、出来立てほやほやの彼女も放っておいてマコっちゃんと!?」
「あ、いやそれは――」
「昇、あんま他人の恋愛事情に突っ込むなよ」
「っえー! でもでも、海寧の心を射止めた彼女は気になるだろ……!」
コイツは食事中でもうるさいな。俺は食べてる最中に会話できないからいつも八ツ屋が一方的に話しかけてくるだけだけど、どうもこの二人には似たような匂いを感じる。モテに必死なことも共通点と言えばそうだし。
「なあなあ、正直さ、どんな子なのよ。やっぱモデル仲間? 超美人?」
「おい昇、喋ってばっかだと昼休み終わるぞ」
「いや俺のハイパー掻きこみ力ならいける」
「……そうやって一気に詰め込んで気持ち悪くなったことあったよな?」
矢崎の凛々しい眉毛がピクピク震えている。
「てかマコっちゃんもヒロくんも気にならねえんか!?」
言い返せなくなった山越はこっちに飛び火してきた。
最悪だ。俺はあとプリンだけなんだから静かに食わせてくれ。
「うーん、オレはとくに……」
「うそだろ!? ヒロくんなら分かってくれると思ったのに!」
「まあ……オレは別に、もう知らなくてもいいかなって」
「そんなッ、じゃあマコっちゃん……はダメだ。もうプリンに集中してる」
俺は一口掬って頬張ったプリンにさっそく感動していた。
このなめらかさに濃厚な味わい。舌に乗せた瞬間とろけて、クリーミーなカスタードが口いっぱいに広がる幸せ。一度口に運んだらもう止められない。
「なあ海寧~。もうお前しかオレの味方はいねえよお。少しでいいからさあ、教えてくんね? ねっ?」
「………………」
「海寧? おーい、どうした? どこ見てる? マコっちゃん?」
「かわい……はあッ!?」
「うおっ、ビックリした」
なんか前が騒がしいけど俺はこのプリンに向き合わないといけねえんだ。
「海寧顔赤くね?」
「えッ、そ、そう?」
「もういいだろ昇。あと十分だぞ」
「待って! じゃああとこれだけっ、彼女がどんなタイプなのかだけ教えてくれ海寧~!」
ああ、早く食いすぎた。もう半分もない。俺、このプリンでバケツプリン作ってほしいって学食に嘆願書出そうかな。
「え、えっと、タイプ?」
「そう! もう簡単なのでもいい!」
「うーん……」
「ほら美人とかキレイとか可愛いとか性格が明るいとか~」
「そ、それなら数えきれないくらいあるけど……。そうだな、一つだけ、出すなら――」
もう最後の一口だ。次はいつ会えるんだろう。俺もやっぱ次から定食にしようかな。でも食いきれねえしな。値段もうどんとかに比べたら二百円くらい高えし。ああでも美甘が本当に毎日くれるんだったら、すげえ嬉しいけど……。
「かっ、カッコよくて、かわいいところ……」
「――ゴホゴホッ!」
俺が最後のプリンを咀嚼していたらまた八ツ屋がむせた。コイツのせいで感動が飛んでいった。
「八ツ屋……」
「ごめんごめんごめん! 今度オレのもあげるから!」
「嘘じゃねえよな。絶対だぞ」
「うんうん!」
適当に頷きやがって。
「ヒロくんマジで年じゃん。知らん間に老けた?」
「昇、時間」
「あああっ、分かったって!」
矢崎に急かされた山越がカツとご飯をリスみたいに掻きこんで平らげる。顔は厳ついから小動物には間違っても見えねえけど。
ふと視線を感じて前を向けば、美甘がじっと俺を見ていた。
来たときは普通だったのにもう頬が赤い。本当に体温が高いんだな。
でも今日は美甘のおかげで、俺はプリンが食えた。コイツも甘いものが好きなんだから食べたかっただろうに、俺に丸々一個くれて、優しいっていうのは本当みたいだった。
