翌朝。
教室がやけにざわついていた。俺は廊下側の一番後ろにある自分の席に歩いて近づく。すると、前の席からバッと振り返った八ツ屋の猫目と目が合った。
「美甘くんに彼女ができたって!!」
「へえ、そうなんだ」
リュックを下ろして椅子に座る。
「いや反応うっす! 反応うっす!」
「うるせえ。朝から喚くな」
「いや知ってたけどね? 真琴の反応なんて知ってたけどね!?」
なんか今日はいつにも増してハイテンションだな。
「もうちょっとオレをノらせてくれたっていいじゃん~」
「話聞いたらいいことあんの」
「そりゃあもちろんでございますよ真琴様」
八ツ屋がニッコリと笑い、机に置いた俺のリュックの上に飴玉を二つ落とす。オレンジとブドウ味。まあ悪くない選択だ。
「そんで、なに? 美甘に彼女?」
俺はオレンジと書かれた小袋を開けながら、八ツ屋に詳細を尋ねた。
「いや~、オレもさっき聞いたばっかなんだけどさ。なんか昨日のバレンタインデーで好きな子に告白されたらしいよ」
「ふーん」
あ、これけっこう酸味があるタイプのオレンジだな。
「でもって情報源は山越だから、かなり信憑性も高い。ついに難攻不落の王子が落ちたんだ!」
「……王子?」
「美甘くんのあだ名! 物腰も穏やかで柔らかくて、皆に分け隔てなく優しい王子みたいな人だから、女の子たちがそう呼んでるの!」
知らない方がおかしいんだ、とでも言いたげな八ツ屋のぶしつけな視線が刺さる。
でもそうは言ったって知らないものは知らないし。王子なんて呼ばれてるとこ見たことねえし。
「まあいいや。真琴のそれは今に始まったことじゃないよな」
八ツ屋が残念そうに肩を落として呟いた。俺は普通にムカついたので、目の前の椅子の脚を蹴っておいた。
「うわっ、ビックリした……。もう足癖悪いんだから~」
「てかなんでそんな盛り上がってんの? 美甘に彼女できようができまいがどうでもよくね」
「おおっ、これはこれは……いいところに気がつきましたな真琴殿!」
いや殿ってなに。
「美甘くんに彼女ができたということはだよ。それはつまりっ……、オレみたいな超絶イケメンではないけどまあ彼氏にするにはアリかな、みたいなオシャレ風見た目気い遣い男子にもチャンスが巡ってくるというワケ!」
コイツ、自分への評価高いな。
「あっ、なんだよその顔は! オレにも夢くらい見させろよ!」
「いや……、八ツ屋の場合は内から滲み出てくる下心がキモいんだよな。顔はそんな悪くねえのに」
「……えっ、これオレ貶されてる? それとも褒められてる!?」
一人でせわしなく百面相する八ツ屋を前に、俺はリュックを片付け、パーカーのポケットからチョコを取り出した。もらったオレンジの飴を噛み砕いたせいで、口の中が空っぽになっていた。
「あ、それ」
「なに?」
「いやさあ、なんか昨日美甘くんのSNSに意味深な投稿があって……」
百面相を早々に終わらせた八ツ屋が自分のスマホをタップして、俺にそれを見せてくる。
「ほらこれ。ハッピーバレンタインっていう一文と、今真琴が持ってるのと同じチョコだけを撮った写真」
俺は手元のチョコを置いて画面を覗き込んだ。……確かに、安っぽい包みにくるまれたチョコが、やたらとシックな格好いいフィルターをつけられて撮影されている。
「美甘くん、普段はモデルしてる時の写真とか、たまに美味しそうなスイーツの投稿があったりするだけなんだけど……」
「こんなの投稿するのはおかしいって?」
「そうそう。しかもこれ、一部の子達の間では匂わせなんじゃないかって」
「匂わせ?」
聞き慣れない単語に俺は小首を傾げた。
「うん、いわゆる彼女から貰いましたよ~的な。直接は言えないけど、でも皆にアピールしたいから、その存在を仄めかす投稿のことを匂わせって言うんだよ」
「ふーん。言えないって、有名人は大変なんだな」
「まあ皆が皆、真琴みたいに淡白だったら恋人ぐらい公表できるだろうけどねえ」
世の中には本気で恋しちゃってる人もいるから……と、八ツ屋は遠い目をして、俺の机の上にあるチョコを指でいじっていた。
「でも正直、美甘くんがこういうことするなんて意外だったな」
俺は邪魔な指を退かしてチョコを奪う。
「ほら、美甘くんって優しいじゃん? その優しさってみんなに振り撒かれてるじゃん? 誰かが傷つかないように特別扱いしてる子なんて今まで一人もいなかったのに、こんなありふれたチョコ一つ貰っただけで写真撮って投稿しちゃうくらい、その子のことが好きってことじゃん?」
それでも気にせず八ツ屋は話しかけてくるので、俺はチョコを口に入れながら話をぶったぎった。
「それ、ただ甘いものが好きで皆に見せただけじゃねえの」
「ええ……どういうこと?」
「だって俺もこれ昨日美甘にあげたし」
口の中に濃厚なチョコレートの甘さが広がって、俺の唇が無意識に緩み出す。
「……ええッ!?」
八ツ屋が跳び跳ねた。
「なに急に」
「えっ……いや、これ真琴もあげたの!?」
「うん。欲しそうだったから」
「欲しそう……? 美甘くんに言われたの?」
「……いや? でも渡したらすげえ喜んでたし」
そういえば昨日の夜、『これからよろしくね』っていうメッセージと、ニコニコの顔文字が美甘から送られてきてたな。多分、同じ甘党としてってことだろうけど。
「こ、これってどうなの……? 美甘くんが投稿した写真は真琴があげたチョコってこと……? たしかにどこにでも売ってるチョコだけど、今回は真琴とたまたま被っちゃっただけ……? いやでもそんな偶然が……?」
両手を組みながら八ツ屋がぶつぶつと念仏を唱え始めたので、俺は飴玉とチョコが入っていた空の袋を手に持った。後ろのゴミ箱へ行こうと席を立つ。
「――やっ、柳くん!」
その途中で、扉の側に立っていた美甘から声を掛けられた。
「おっ、おお、おはよう」
「……はよう」
「あのっ、えっと……ちょ、ちょっと廊下で話したいんだけど……」
チラチラと忙しない目の動きで室内を見渡してから、廊下を震える指で差す美甘。顔が赤いけど、やっぱ熱あるんじゃねえのかな。
「――どぅわアッ!?」
俺が目線より少し高い額に手を伸ばせば、美甘がなぜか奇声を上げて走り去った――と思ったらすぐ戻ってきた。
「ごごごごめんッ!」
「いや……今日熱測った? すげえ顔真っ赤だけど」
「あっ、オ、オレって平熱高いんだよね!! たぶんそれのせいかな!?」
へえ……教室のドア開けるだけでこんな寒いのに、それはそれで羨ましいな。てか彼女できたからなのか、八ツ屋以上にコイツもテンション壊れてないか。
「それで、なんか用だった?」
俺は通行の邪魔にならないよう、ゴミだけ捨ててから教室を出た。廊下の手すりに背中を凭れさせ、駆け寄ってきた美甘を軽く見上げる。窓から差し込んだ冬日が、綺麗なブロンドを淡い光のようにキラキラと反射させていた。
「えっと……こ、これっ、柳くんに渡したくて……!」
「ん? なに?」
広げた手のひらに落とされたのは、イチゴの絵柄に包まれた三つの飴玉。俺が一番好きなイチゴミルク味だ。
「や、柳くんそれ好きだよね」
「……よく知ってたな」
「だっていつも見てたから!」
「ああ……そうなんだ」
俺が食べるところを見て、自分も食った気になってたってことか? 昨日の発言からして、コイツは甘党であることをずっと隠してたみたいだし。
「じゃあ俺もこれ」
探ったポケットの中から、昨日とは違う菓子の包みを取り出す。
「えッ、わっ、オレにも!?」
「チョコクランキー。好き?」
「ッ、好きぃ……ッ!!」
すげえ勢いで菓子ごと手を掴まれた。
「なんか……近くね」
「ああッ、ごめん!!」
どんどんこっちににじり寄ってくるので手を押し出せば、美甘は飛び跳ねて教室側の壁にぶつかった。ほかに人がいなくてよかったけど、なぜか俺たちの周りにはぽっかりと穴が開いたように人気がない。美甘の後ろからこっそりと窓を開け、こっちを窺う八ツ屋と目が合った。
「……? 八ツ屋――」
「柳くん……っ!」
美甘がまた俺の前に戻ってきて八ツ屋の姿が隠れる。
「あ、なに?」
「今日のおふぃっ、お昼……」
盛大に噛んだな。
林檎色に染まった頬がきゅっと締まって、長い下睫毛の縁に水っぽいきらめきがチカチカと見えた。
「気にすんなって。昼がどうした?」
「あっ……い、一緒に、食べたくて……」
「いいよ。俺普段八ツ屋と食べてるけど、一緒でもいい?」
「っもちろん!」
――その時、ちょうど始業のチャイムが鳴った。廊下にパラパラといた他の奴らが自分の教室へと入っていく。
「じゃ、じゃあオレ迎えに行くから、柳くんは待ってて」
「分かった」
「うんっ、それじゃあまた……あとで」
美甘は何度か俺のほうを振り返りつつ、端にある1組の教室に小走りしていった。
俺も扉を開けて自分の席に戻ると、八ツ屋の訝し気な視線がじろじろと舐め回してきてウザかったので、頭に手刀をお見舞いしておいた。
それにしても、美甘とまともに話すのは昨日を含めてまだ二回目だけど、意外と面白い奴だったな。特に噛んだときは俺も少し吹きそうだった。
ずっとなんか一生懸命だし、挙動不審で変な奴なのは昨日の印象と変わらないけど……。
でも同じ甘党同士仲良くしていきたいと考えるくらいには、俺もアイツに対してうっすらと好印象を抱いていた。
教室がやけにざわついていた。俺は廊下側の一番後ろにある自分の席に歩いて近づく。すると、前の席からバッと振り返った八ツ屋の猫目と目が合った。
「美甘くんに彼女ができたって!!」
「へえ、そうなんだ」
リュックを下ろして椅子に座る。
「いや反応うっす! 反応うっす!」
「うるせえ。朝から喚くな」
「いや知ってたけどね? 真琴の反応なんて知ってたけどね!?」
なんか今日はいつにも増してハイテンションだな。
「もうちょっとオレをノらせてくれたっていいじゃん~」
「話聞いたらいいことあんの」
「そりゃあもちろんでございますよ真琴様」
八ツ屋がニッコリと笑い、机に置いた俺のリュックの上に飴玉を二つ落とす。オレンジとブドウ味。まあ悪くない選択だ。
「そんで、なに? 美甘に彼女?」
俺はオレンジと書かれた小袋を開けながら、八ツ屋に詳細を尋ねた。
「いや~、オレもさっき聞いたばっかなんだけどさ。なんか昨日のバレンタインデーで好きな子に告白されたらしいよ」
「ふーん」
あ、これけっこう酸味があるタイプのオレンジだな。
「でもって情報源は山越だから、かなり信憑性も高い。ついに難攻不落の王子が落ちたんだ!」
「……王子?」
「美甘くんのあだ名! 物腰も穏やかで柔らかくて、皆に分け隔てなく優しい王子みたいな人だから、女の子たちがそう呼んでるの!」
知らない方がおかしいんだ、とでも言いたげな八ツ屋のぶしつけな視線が刺さる。
でもそうは言ったって知らないものは知らないし。王子なんて呼ばれてるとこ見たことねえし。
「まあいいや。真琴のそれは今に始まったことじゃないよな」
八ツ屋が残念そうに肩を落として呟いた。俺は普通にムカついたので、目の前の椅子の脚を蹴っておいた。
「うわっ、ビックリした……。もう足癖悪いんだから~」
「てかなんでそんな盛り上がってんの? 美甘に彼女できようができまいがどうでもよくね」
「おおっ、これはこれは……いいところに気がつきましたな真琴殿!」
いや殿ってなに。
「美甘くんに彼女ができたということはだよ。それはつまりっ……、オレみたいな超絶イケメンではないけどまあ彼氏にするにはアリかな、みたいなオシャレ風見た目気い遣い男子にもチャンスが巡ってくるというワケ!」
コイツ、自分への評価高いな。
「あっ、なんだよその顔は! オレにも夢くらい見させろよ!」
「いや……、八ツ屋の場合は内から滲み出てくる下心がキモいんだよな。顔はそんな悪くねえのに」
「……えっ、これオレ貶されてる? それとも褒められてる!?」
一人でせわしなく百面相する八ツ屋を前に、俺はリュックを片付け、パーカーのポケットからチョコを取り出した。もらったオレンジの飴を噛み砕いたせいで、口の中が空っぽになっていた。
「あ、それ」
「なに?」
「いやさあ、なんか昨日美甘くんのSNSに意味深な投稿があって……」
百面相を早々に終わらせた八ツ屋が自分のスマホをタップして、俺にそれを見せてくる。
「ほらこれ。ハッピーバレンタインっていう一文と、今真琴が持ってるのと同じチョコだけを撮った写真」
俺は手元のチョコを置いて画面を覗き込んだ。……確かに、安っぽい包みにくるまれたチョコが、やたらとシックな格好いいフィルターをつけられて撮影されている。
「美甘くん、普段はモデルしてる時の写真とか、たまに美味しそうなスイーツの投稿があったりするだけなんだけど……」
「こんなの投稿するのはおかしいって?」
「そうそう。しかもこれ、一部の子達の間では匂わせなんじゃないかって」
「匂わせ?」
聞き慣れない単語に俺は小首を傾げた。
「うん、いわゆる彼女から貰いましたよ~的な。直接は言えないけど、でも皆にアピールしたいから、その存在を仄めかす投稿のことを匂わせって言うんだよ」
「ふーん。言えないって、有名人は大変なんだな」
「まあ皆が皆、真琴みたいに淡白だったら恋人ぐらい公表できるだろうけどねえ」
世の中には本気で恋しちゃってる人もいるから……と、八ツ屋は遠い目をして、俺の机の上にあるチョコを指でいじっていた。
「でも正直、美甘くんがこういうことするなんて意外だったな」
俺は邪魔な指を退かしてチョコを奪う。
「ほら、美甘くんって優しいじゃん? その優しさってみんなに振り撒かれてるじゃん? 誰かが傷つかないように特別扱いしてる子なんて今まで一人もいなかったのに、こんなありふれたチョコ一つ貰っただけで写真撮って投稿しちゃうくらい、その子のことが好きってことじゃん?」
それでも気にせず八ツ屋は話しかけてくるので、俺はチョコを口に入れながら話をぶったぎった。
「それ、ただ甘いものが好きで皆に見せただけじゃねえの」
「ええ……どういうこと?」
「だって俺もこれ昨日美甘にあげたし」
口の中に濃厚なチョコレートの甘さが広がって、俺の唇が無意識に緩み出す。
「……ええッ!?」
八ツ屋が跳び跳ねた。
「なに急に」
「えっ……いや、これ真琴もあげたの!?」
「うん。欲しそうだったから」
「欲しそう……? 美甘くんに言われたの?」
「……いや? でも渡したらすげえ喜んでたし」
そういえば昨日の夜、『これからよろしくね』っていうメッセージと、ニコニコの顔文字が美甘から送られてきてたな。多分、同じ甘党としてってことだろうけど。
「こ、これってどうなの……? 美甘くんが投稿した写真は真琴があげたチョコってこと……? たしかにどこにでも売ってるチョコだけど、今回は真琴とたまたま被っちゃっただけ……? いやでもそんな偶然が……?」
両手を組みながら八ツ屋がぶつぶつと念仏を唱え始めたので、俺は飴玉とチョコが入っていた空の袋を手に持った。後ろのゴミ箱へ行こうと席を立つ。
「――やっ、柳くん!」
その途中で、扉の側に立っていた美甘から声を掛けられた。
「おっ、おお、おはよう」
「……はよう」
「あのっ、えっと……ちょ、ちょっと廊下で話したいんだけど……」
チラチラと忙しない目の動きで室内を見渡してから、廊下を震える指で差す美甘。顔が赤いけど、やっぱ熱あるんじゃねえのかな。
「――どぅわアッ!?」
俺が目線より少し高い額に手を伸ばせば、美甘がなぜか奇声を上げて走り去った――と思ったらすぐ戻ってきた。
「ごごごごめんッ!」
「いや……今日熱測った? すげえ顔真っ赤だけど」
「あっ、オ、オレって平熱高いんだよね!! たぶんそれのせいかな!?」
へえ……教室のドア開けるだけでこんな寒いのに、それはそれで羨ましいな。てか彼女できたからなのか、八ツ屋以上にコイツもテンション壊れてないか。
「それで、なんか用だった?」
俺は通行の邪魔にならないよう、ゴミだけ捨ててから教室を出た。廊下の手すりに背中を凭れさせ、駆け寄ってきた美甘を軽く見上げる。窓から差し込んだ冬日が、綺麗なブロンドを淡い光のようにキラキラと反射させていた。
「えっと……こ、これっ、柳くんに渡したくて……!」
「ん? なに?」
広げた手のひらに落とされたのは、イチゴの絵柄に包まれた三つの飴玉。俺が一番好きなイチゴミルク味だ。
「や、柳くんそれ好きだよね」
「……よく知ってたな」
「だっていつも見てたから!」
「ああ……そうなんだ」
俺が食べるところを見て、自分も食った気になってたってことか? 昨日の発言からして、コイツは甘党であることをずっと隠してたみたいだし。
「じゃあ俺もこれ」
探ったポケットの中から、昨日とは違う菓子の包みを取り出す。
「えッ、わっ、オレにも!?」
「チョコクランキー。好き?」
「ッ、好きぃ……ッ!!」
すげえ勢いで菓子ごと手を掴まれた。
「なんか……近くね」
「ああッ、ごめん!!」
どんどんこっちににじり寄ってくるので手を押し出せば、美甘は飛び跳ねて教室側の壁にぶつかった。ほかに人がいなくてよかったけど、なぜか俺たちの周りにはぽっかりと穴が開いたように人気がない。美甘の後ろからこっそりと窓を開け、こっちを窺う八ツ屋と目が合った。
「……? 八ツ屋――」
「柳くん……っ!」
美甘がまた俺の前に戻ってきて八ツ屋の姿が隠れる。
「あ、なに?」
「今日のおふぃっ、お昼……」
盛大に噛んだな。
林檎色に染まった頬がきゅっと締まって、長い下睫毛の縁に水っぽいきらめきがチカチカと見えた。
「気にすんなって。昼がどうした?」
「あっ……い、一緒に、食べたくて……」
「いいよ。俺普段八ツ屋と食べてるけど、一緒でもいい?」
「っもちろん!」
――その時、ちょうど始業のチャイムが鳴った。廊下にパラパラといた他の奴らが自分の教室へと入っていく。
「じゃ、じゃあオレ迎えに行くから、柳くんは待ってて」
「分かった」
「うんっ、それじゃあまた……あとで」
美甘は何度か俺のほうを振り返りつつ、端にある1組の教室に小走りしていった。
俺も扉を開けて自分の席に戻ると、八ツ屋の訝し気な視線がじろじろと舐め回してきてウザかったので、頭に手刀をお見舞いしておいた。
それにしても、美甘とまともに話すのは昨日を含めてまだ二回目だけど、意外と面白い奴だったな。特に噛んだときは俺も少し吹きそうだった。
ずっとなんか一生懸命だし、挙動不審で変な奴なのは昨日の印象と変わらないけど……。
でも同じ甘党同士仲良くしていきたいと考えるくらいには、俺もアイツに対してうっすらと好印象を抱いていた。
