バレンタインデーに適当にチョコを渡したら、いつの間にか彼氏ができていた話

 好きな人と両想いだった。それはとんでもなくオレを有頂天にさせて、幸せの絶頂へと連れて行ってくれた。
 まさか柳くんにオレの気持ちがバレちゃうとは思わなかったけど、付き合えた今なら全部結果オーライだ。
 柳くんは誰かからチョコをもらったのかなって聞きたかっただけなのに、オレのことが好きだからっていつも食べてるお菓子をくれて、あの時は本当にどうにかなるかと思った。夢だったらどうしようって何回も口の中を噛んだし、手のひらに爪を立てて目が覚めないかどうか確認した。
 でも目の前にいる柳くんは本物で、意志の強い黒目がオレを好きだってまっすぐ見つめてくれて、弾けた心臓が壊れてしまうかと思うほど、胸の中でドクドクドクと主張していた。

「はあ……柳くん……」

 モデルの仕事を終えて意気揚々と帰ってきたオレは、制服のまま自室のベッドで寝っ転がりながら、もらったチョコを眺めていた。
 気が動転しすぎたせいで握りしめたチョコの包みがしわくちゃになってしまったけど、これは正真正銘オレのものだ。シンプルな透明のフィルムにくるまれて、どこにでもあるような見た目だけど、オレにとっては特別で唯一のチョコレート。

「どうしよう、食べられないよこんなの」

 冷凍しておけば腐らないかな。いつでも眺められるように、暑くなるまで制服のポケットに入れておいてもいいかな。
 
 じたばたと暴れる足でシーツを蹴って堪えきれない喜びを発散する。最後に抱きしめたくなって柳くんに飛び掛かっちゃったけど、避けてくれてよかった。彼を腕の中に閉じ込めちゃったら、自分が何をするか分からなかったから。

「……ん?」
 
 視界の端で、スマホの通知を知らせるバイブ音が鳴った。

「ああ、もらえたんだ」

 昇の『よっしゃあああ!!』という一文と、小さな茶色い箱を持った自撮りの写真が、健二郎とのグループトークに届いていた。満面の笑みを浮かべる表情は、相当嬉しそう。今日はちょうど野球部が休みで、昇は桜鈴女学院に行ってチョコをねだってくると言っていたから、目的のものはちゃんとゲットできたみたいだ。オレも一応あげてもらえないかと知り合いの子に声を掛けておいてよかった。
 放課後もなんだかんだチョコをたくさんもらったし、明日また皆に持って行ってあげよう。オレは正直甘いの苦手だから。

 そのあとも昇から『彼女出来たら報告するわ!』と連絡がきていて、オレはふと思った。

「そっか。恋人ができたら昇と健二郎にも言っていいのか」

 性別が性別なので、好きな人がいるとも教えていなかった。でもオレは、この昂りを早く誰かに共有したくてたまらなかった。

『実はオレも、ずっと好きだった子と付き合うことになった』

 すぐに既読がついた。二人から驚きのメッセージと、おめでとうという祝福の言葉が届いて、オレはここにきてようやく実感が湧いてきた。相手はどんな子? とか写真見せて、とか主に昇が全部聞いてくるけど、柳くんに迷惑はかけたくないので、オレはあいまいに誤魔化す。
 でも、いつか二人にも柳くんと付き合ってるんだって言える日がきたらすごく嬉しい。彼はオレの彼氏なんですってファンの子にも自慢して、皆に見せつけて回れたらいいのに。

「柳くん……。あああっ、もう会いたい。顔が見たい」

 いったん昇と健二郎のメッセージは置いておき、オレは1年の時のクラスグループから柳くんのアイコンを探し出してタップした。
 何度も友達申請を押そうとして押せなかった、彼の無造作に撮られたパンケーキの写真を見つめる。ちなみにこのパンケーキがどこの店のものかは把握済みだし、同じ味を食べたくて一人で行ったこともある。クリームがたっぷり乗っててオレにはかなりきつかったけど、柳くんの好きなものを共有できる幸せと比べたら、驚くほどいくらでも食べられた。

「デートしたい。スイーツ食べる柳くんを目の前で浴びるほど見たい。あの無愛想な表情が甘いもの摂取してる時だけふっと緩むかわいい柳くんを連写したい……! オレの目に間近で焼き付けたい……っ!」

 尽きない欲望から突き動かされるように、オレは柳くんのアカウントに友達申請を送っていた。

「つ、付き合ってるんだしいいよね。オレと柳くんは、もう立派な恋人同士なんだから」

 早鐘を打つ心臓をギュッと押さえつけて、オレは柳くんとのトーク画面を開く。
 
「な、なんて送ろう。好きです、とか? いや急になにって言われそう。……うーん、じゃあ一緒のお墓に入ってくださいは? ああいやこれはプロポーズか」

 何度も寝返りを打ちながら初めて送るメッセージを考える。
 柳くんと付き合う妄想は数えきれないくらいしてきたけど、いざ自分がそうなってしまうと全然想像通りにはいかない。だって絶対柳くんと別れたくないし、嫌われたくないから。彼の負担にならないようにオレの重いところは見せちゃだめだし、束縛なんて論外だ。常に余裕のある彼氏でいたい。
 
「ああ……でも、軽いヤキモチくらいは許してほしいな……」

 そして結局オレはその日、夕食を取ってお風呂から上がっても送るメッセージが決められず、最終的に送信できたのは日付をまたぐ直前の、23時55分というギリギリの時間だった。