俺の幼馴染(男)が俺のこと大好きなのに、告白してこない。

 自分の部屋のベッドに、隆也のブレザーを広げる。
 俺のより少し大きい、学校指定の紺色。どこにでもあるような、なんの変哲もないブレザーだ。
「見た目は普通だよな……」
 だけど、このブレザーを着ている時、隆也の心の声が聞こえる。

 あれから、いくつか分かったことがある。
 ひとつ、読めるのは隆也の心だけ。他の人間の声は、聞こうと集中してみても無理だった。
 反対に、他の人間が隆也のブレザーを着てみても、効果はなかった。
「なんだよ!男のブレザーなんか着たくねえって!」
 文句を言う榊原に無理やり押し付けてみたが、隆也の声が聞こえるなんてことは言っていなかった。
 ということは、これは……。
「俺にだけ聞こえるってことか」

 ふたつ、反応するのはこのブレザーだけ。試しに隆也のジャージやカーディガンを借りてみたけど、何も聞こえなかった。
「……なんで、これなんだ?」
 指先で、布地をなぞってみる。
 このまま借りていたいと言ったら、隆也はあっさり頷いた。
 うちの高校は服装規定がゆるい。入学式とか始業式とかの式典以外なら、ブレザーを着ていなくても何も言われない。
 これから暑くなる季節、ブレザーを持っていなくても困ることはないだろう。

 そして、みっつ――幼馴染の隆也は、俺のことが、超がつくほど大好きだってこと。
 さっき聞いた声が、頭の中で何度も再生される。
 
(……好きだ、樹)
「……全然気づかなかった」
 落ち着け。整理しろ。俺は天宮樹。学年一のモテ男なのだ。これくらいで取り乱してどうする。
 まず、隆也が男だってこと。
 モテ男といっても、俺は女子からしか告白されたことがない。女子が好きだし、男を恋愛対象に見たことはなかった。
 偏見とかはないけど、自分が男を好きになるかって言われたら、考えたこともなかった。
 女子の甘い香りややわらかい体が好きだから。
「……うん、まあ、それはそうだろ」
 で、問題は――
「……相手が隆也ってとこだよな」
 ベッドに転がりながら、天井を見る。
 俺にとって、隆也は幼馴染で。
 他のやつだったら、こんなに悩まなかっただろう。「俺は女子が好き」で終わりだ。
 だけど隆也ってのが……。
 そもそも、あの隆也に好きなやつがいるってだけでも意外なのに、その相手が俺だなんて……。
 まだ、事実に心がついてこない。驚き半分、信じられない気持ち半分って感じだ。

 ――てか、俺が今まで見てきた、恋してるヤツの態度とは全然違うんだけど……。
 俺のことを好きだって告白してくる女子は、みんな分かりやすかった。
 恥ずかしそうで、目が泳いでて。それを、ちょっと楽しんでた自分もいる。
 
 でも隆也は、顔色ひとつ変えずにいつもの無表情。
 ……本当に、俺のこと好きなのか?
「勘違い……じゃないよなあ」
 確かに聞いた、隆也の心の声。
「直接聞きたいけど……、ブレザーの話するわけにもいかないし……」
 ベッドに顔を埋める。ブレザーからは、微かにミントの香りがした。それが、隆也の部屋のミントと少し似ていて、隆也の顔を連想してしまう。

 もし隆也が俺のことを好きなのが本当だとして、それを俺がブレザーの力を借りて知ったことを、本人が知ったら?
 ムダに発達した右脳が、隆也の幻滅した表情を描いていく。

『樹、そんなことするやつだったんだ……』

 一気に血の気がひいていく。そんなの嫌だ。
 いや、隆也はそんなこと言うようなやつじゃないけど。
 言ったって信じてもらえるわけがない。隆也のことだから、真顔で「樹、頭でも打ったか?」なんて心配してくる。うん、きっとそうだ。
「特に榊原なんかに知られたら、死ぬほど笑われるし……」
 
 隆也は大事な幼馴染だ。失いたくない。でも、本当の気持ちは確かめたい。
「どうしたらいいんだよー!」
「樹うっさい! 何時だと思ってんの!」
 隣の部屋にいたであろう、姉ちゃんが勢いよくドアを開ける。
 大学生の姉は、怒らせると尋常じゃなく怖い。
 でも今は、そんなこと気にしてる余裕はなかった。

 ブレザーを見ては、ぐるぐる考えて。
 答えなんて出ないまま、夜は静かに過ぎていった。