俺の幼馴染(男)が俺のこと大好きなのに、告白してこない。

体育館に着くと、既に人で溢れかえっていた。
「すげえな……」
 夏休み前のライブハウスでの人混みが、可愛く思えるくらいだ。
文化祭二日目の午後。最後に盛り上がろうってやつらが、全部ここに集まってるみたいだった。ライブハウスの時と同じように、知らない制服を着ている生徒も多い。
 人の波に押されながら、なんとか前へ出る。どうにか立てるスペースを確保した、その時。ぽん、と肩を叩かれた。

「樹くんやん。久しぶり〜」
「鳴海!?」
 振り返ると、かき氷を片手にした鳴海が立っていた。
「そんな驚く? オーディションも見てたんやし、本番来ててもおかしくないやろ」
「……そういや、言ってたな」。
鳴海と会うのは花火大会の夜以来だ。何を話せばいいのか、一瞬分からなくなる。

「にしても、他校の文化祭おもろいなあ。出店多すぎて迷うわ」
 飄々と話す鳴海。あんなことがあったのに、気まずさなんて微塵もないみたいだった。今は、そんな鳴海の軽さが助かる。

「樹クンのクラス、出し物なんなん?」
「……告白カフェ。言っとくけど、好きな相手と行くのおすすめする」
「何それ皮肉なん? で残念やけど、ボクまだシングルなんよー」
 軽く笑うその様子に、少しだけほっとする。

「ほんで、どうなん? 最近。隆也クンとは」
「……喧嘩中」
どうせ隠してもバレるだろう。俺は、隆也と気まずくなったことを簡単に話した。
 
「はあ!? ほんま、不器用なカップルやなあ、キミら」
「カッ……」
鳴海にそう言われて、顔から火が出るほど熱くなった。
「どんなに好き合ってても、言わないと伝わらへんこともあるやろ。ボクの何を見てたん?」
「……」
鳴海の言う通りだ。さっき榊原からジュースを渡されるまで、俺は隆也に伝える勇気も持ち合わせていなかった。

「あ、始まるで」
 照明が落ち、ステージがライトで照らし出される。ステージには、ベースを弾く隆也の姿。
夏休み、ずっと練習していた曲。
ああ、やっぱり。ベースを弾いてる隆也は、世界一かっこいい。
 これでまたファンが増えて、女子に囲まれて。
 俺の知らないところで、どんどん遠くに行く。
 ……馬鹿だな、俺。
 告白されることばかりにこだわって、自分からは何も言わないで。
 振られるのが怖いからって、好きな相手に、何も伝えないで。

隆也の声が、頭の中でよみがえる。
 いつも俺の名前を呼ぶ声。ブレザーを着てるときにだけ聞こえる、あの甘い声。

数曲演奏した後、MCに入る。
マイクを持ったのは、オーディションの時も盛り上げていたボーカルだ。
「今日は来てくれてありがとー! 文化祭最終日、楽しんでけよー!」
 歓声が上がる。
 
「えー、本来ならここでメンバー紹介なんですが……今日はベースの鮫島から、ちょっと一言あるらしいんで」
 客席にざわめきが広がる。
 何だ? 隆也のバンドのライブは何度か見たことがあるけど、今まで、こんなことはなかった。

「……俺は」
 隆也が口を開くと、会場が静まった。

「俺は、口下手だし、こんな俺に好かれても迷惑かもしれないけど」
 心臓が、バクバクと音を立てる。
「お前がいたから、俺は今ベースを弾いてる」
目が、合った。人で溢れてる客席から、俺を見つけて。まっすぐ、こっちを見てる。
「……俺がお前をどう思ってても、俺はお前に出会えて良かった」
 分かる。そんなの、もう。お前なりの、告白だってことくらい。
「……一番近くにいてくれて、ありがとう」
 言い終わった瞬間、イントロが流れる。中学の頃、何度も一緒に聴いた曲。
 体育館に響くバッシュの音、野球部の掛け声。全部、隣には隆也がいた。

「……ずるいだろ、そんなん」
思わず声が漏れる。
 隣で鳴海がニヤついているのが分かるけど、どうでも良かった。
低音が、体の奥まで響く。
 もう、目を逸らせなかった。
 隆也からも、その音からも。