俺の幼馴染(男)が俺のこと大好きなのに、告白してこない。

 文化祭当日。
 告白カフェは思った以上に好評で、人で溢れかえっていた。告白ブースを利用している人も多い。
ブースから出てきた人は、みんな照れたように笑っている。中には泣きながら出てくるやつもいるけど、それでもどこか、すっきりした顔をしていた。
 ――ちゃんと、言えた顔だ。
 代理ではあったけど、苦労して準備した甲斐があったな、と思う。
隆也とのことが頭を離れるわけではないけど、忙しくしていて良かった。考えずに済むから。

 実行委員の仕事をしていると、周りが笑顔で溢れていくのが分かる。
廊下で、一学期に俺に告白してくれた花井さんが、楽しそうに男子と話しているところを見かけた。
少し照れたように笑っていて、隣のやつも、同じ顔をしている。
「……幸せそうで良かった」

俺は今まで、自分が告白されることばかりにこだわって、誰を幸せにするかなんて考えたこともなかった。
告白されることが、価値みたいに思ってた。それで満たされてるつもりだった。
  でも今、こうして、自分が作ったもので誰かが笑ってくれると、それだけで、十分だと思えた。

「お疲れ。列、廊下まで並んでるよ」
休憩から戻ってきた小野田が、驚いたように言う。
小野田は、メニュー作りや小道具で力になってくれた。

「でもすごいよね。さすが、モテ男が考案したカフェって感じ」
「嫌味かよ」
「褒め言葉だって。樹、意外と人の恋愛世話するのとか得意なのかもね」
「…」
そんな風に考えたことなかった。
「でも今、俺自身の恋愛がうまくいってないからな……」
自嘲気味に呟いた、その時。

「天宮くん!」
振り返ると、他クラスの実行委員の女子が立っていた。
「話があるんだけど、ちょっといいかな」
「……うん」
 横で、小野田が何か言いたげにこちらを見ていた。

 中庭は、喧騒から少し離れていた。
夏休み前にも、ここに呼び出されたっけな。あの時はまだ隆也のブレザーを着ていなかった。
 
「あのね、私、天宮くんのことが好きなの」
まっすぐな言葉と視線。
「私と、付き合ってください」
「……言ってくれてありがとう」
自然と、言葉が出る。
「でも俺、好きな人がいるんだ」
女子は一瞬だけ目を伏せて、それでも笑った。
「そっか……ごめんね。忙しいのに」
「いや、大丈夫」
軽く手を振って、その場を離れる。

 どうしてだろう。告白されるのは、嬉しいはずなのに。
――違う。もう分かってる。
好きな人じゃないからだ。大事なのは、“告白されること”じゃない。“誰に言われるか”だ。
俺はあいつに、言ってほしかったんだ。
 もう、告白されるとか、どうでも良かった。
 言ってほしい、じゃない。俺が、言わなきゃいけないんだ。

教室に戻ると、榊原が話しかけてきた。店員の服装に身をつつんでいる。
「樹ー、休憩先にとってんじゃねえよ」
「悪い悪い」
「てかお前、隆也のライブもうすぐだろ? 行かねえの?」
「あー…こっちこんなに混んでるし、行かなくても」
混雑している教室を見渡しながら言うと、榊原が何かを手渡してきた。
「そうだ、これ、隆也から差し入れ」
 水色のパッケージの炭酸ジュース。
「……これ」
「お前ほんとそれ好きだよな、いつもそれじゃん」
 軽く笑う榊原の声が、遠くに聞こえる。

 中学の体育館でも、高校での毎日も。
 いつだって隣には隆也がいて、何でもない顔で、これを渡してきた。

「…………」
「樹?」
 さっきまで見ていた光景が、頭をよぎる。
笑ってたやつも。泣いてたやつも。みんな、自分の気持ちをちゃんと伝えていた。
怖くても。壊れるかもしれなくても。それでも、言っていた。

俺は? あいつの気持ちばっかり盗み聞きして。分かった気になって。
 自分は、何も言わないまま。拗ねて、逃げて。

「……ダセえな、俺」
 ぽつりと漏れる。
 鞄からブレザーを取り出す。返そうと思って、持ってきていたものだった。
 これを着れば、また聞こえる。あいつの心の声が。
 ……でも。
「……もういらねえな」
 小さく呟く。
 こんなのに頼らなくても。ちゃんと、聞けばいい。あいつの口から。
 ちゃんと言えばいい。自分の言葉で。

「ごめん、やっぱりライブ行ってくる」
 腕時計を見ると、もう少しで軽音部のライブが始まる時間だった。
「……くそ、ほんと不器用だな。俺もお前も」
廊下の人波をかきわけて、体育館に向けて走り出す。このまま終わらせたくない。
 ちゃんと、自分の言葉で、伝えるために。